OUTSIDE IN TOKYO
KUROSAWA KIYOSHI INTERVIEW

小森はるか『空に聞く』インタヴュー

5. 私は嵩上げ工事に対して、どうしたらいいんだろうっていうことを考え始めて、
 やっと映画っていうものを作るようになった

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OIT:この映画を見ていると嵩上げされていく街っていう、二重のまちの進行が現在進行形で捉えられているわけですけど、そこにはやはりこの映画の中にもあったように不安を感じるっていう声ももちろんあって、その部分っていうのは結構大きいのかなと思いながらも、同時にこの映画を見ていて素晴らしいなと思ったのは、その先にある希望みたいなもの、例えば阿部さんがこのまちのここの風景が好きですとかっていうようなことがさりげなく捉えられています。ここには不安感とその不安を乗り越えるというよりは、相反する二つの感情が両方あるように思います。
小森はるか:それは『空に聞く』を作ろうというか、ちゃんと形にしようって思えた大きな部分だったと思うんですけど、嵩上げ工事自体、私もすごく辛かったし、まちの人たちも阿部さん自身も不安だったことで、津波の後にもう一度失うという辛い思いをした人がたくさんいたと思うんですね。私はその嵩上げ工事に対して、どうしたらいいんだろうっていうことを考え始めて、やっと映画っていうものを作るようになったんですけど。やっぱり皆さんが暮らしていたまちの元の地面が無くなってしまうと、そこに立つことで思い出される記憶とか、亡くなられた人たちの存在を感じていたりとかっていうことが無くなる。それになんとか抵抗したくて、作品を作ろうとしてきたんです。でも、ある時、阿部さんが「嵩上げ地に上がったら空にいる人たちに近づけるかもしれない」っていう、そういう風に嵩上げ工事を少し前向きに捉えることをお話しされるようになったりしていて。そして震災前にご夫婦でされていた和食屋さんの「味彩」が、嵩上げ地の新しいまちに再建されて。私はその時、同じように「空に近づける」と思うことはできなかったと思うんですけど、そこで暮らしている人たちは新しいまちを受け入れていくというか、鵜呑みにするんじゃなくて自分たちなりに、自分たちのまちだって言うために、前向きに捉えていくという姿勢があった。それを描かないといけないっていう風にやっと思えたんですよね。その前はもっと自分の怒りっていうか、怒りまで強くないかもしれないけど、そういう気持ちの方が強かった、『息の跡』も多分そうなんです。

OIT:『息の跡』は完全に抵抗の感覚が強い映画でしたよね。それがあの時期の作品としては、また重要だったと思うんですけど。
小森はるか:そうなんですよね、そういう時期があったのが二年くらい経つとまた変わってきていて。私はもう陸前高田から離れていたということもあったし、陸前高田の人たちと自分の見ているものはこの数年間ですごく変わってきていたんだっていうことに気付かされました、その複雑さに。

OIT:わかる気がします。そうした複雑なものが瀬尾さんとのコラボレーションもあるから、さらにレイヤー化していると思うんですけど、『二重のまち』のフィクションを読むと、未来の話なんですね、そこでは子供が生まれたりして、絶望の物語ではなく希望の物語も語られています、という作品がお二人の活動の中にあって、それが今回『空に聞く』の場合でも非常に有機的な形で同期してきてるように思えることに時間的空間的な広がりを感じて、そういうところも凄いなと思って拝見しました。そうした不可視なものが捉えられている、阿部さんが語る瞬間とか、話としては何気なく過ぎ去ってしまうような日常会話の中かもしれないけど、そういうものが映画になっている。あと黙祷の生放送、素晴らしいですよね。NHKの人から、なんで録音しないのみたいに言われて、馬鹿じゃないの?って言いましたみたいなところとかも良かったんですけど(笑)。
小森はるか:そうなんですよ、別にこれは裏話っていうほどのことでもないですけど、そのNHKのディレクターの方と阿部さんって仲が良くて、敢えてあのエピソードを話してくれたんです。『空に聞く』の上映もそのディレクターの方は見にきてくれました。阿部さんを取材して作ったNHKの番組もとてもよくって。そういう信頼している人だからこそあの言葉をわざわざカメラの前で阿部さんが言ってくれたんだなと思うんですね。彼ならこの言葉を受け入れてくれるし、そういうやり取りもあったよねって、一つの思い出でもある。だからただ単に阿部さんがあの言葉を投げかけたっていうわけではないっていうところに、やっぱり阿部さんは上手だなって思うんですよね(笑)。それが確かに強い言葉として聞こえるけど、それだけではないという。



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