OUTSIDE IN TOKYO
KUROSAWA KIYOSHI INTERVIEW

小森はるか『空に聞く』インタヴュー

3. ことさら被災の話をしてなくても、そこに漂っている、失われた人たちが
 ちゃんと隣にいて生活があるっていうのがすごく見えてきてた

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OIT:阿部さんには、撮らせてくださいみたいな話をしたわけですよね?
小森はるか:はい。

OIT:どういうリアクションだったんですか?
小森はるか:最初に阿部さんを撮りたいってはっきり言ったか覚えてないんですけど、多分災害FMの活動をする阿部さんを記録したいっていう入り口の方が強かったと思います。というのは、災害FMの活動自体もすごく興味深くて。私自身、外から来た身でありますから、まちが形としてなくなってしまった中で誰がどこに暮らしているのか分からなかったんですよね。本当に陸前高田の人に出会える機会って少なくて、そういう人と出会えなかった時期に、まちの人たちの声の聞こえている場所が災害FMだったんです。その活動を撮りたいっていう気持ちも同時にあって、それでお願いをして、阿部さんもそのことを理解してくれたのだと思います。自分が撮影の対象になることについて、最初にどう思われたか分からないんですけど、阿部さんが聞きたいって思ってる声を、映像で記録するっていうことに関しては同意してくれる、理解してくれる人だという印象でした。

OIT:非常にスムーズな入り方をされたということですよね。
小森はるか:確かに、そうかもしれない。

OIT:正面玄関からトントンっていう感じじゃなくて、もう気付いたらそこに居たみたいな。
小森はるか:そうですね。災害FM自体もメディアだし、伝える仕事をしているから逆にいろんな取材を受けていたし、外に発信する機会が多い場所で、そういう姿勢で阿部さんもやっていらしたと思うので、確かに入りやすかったっていう面はあると思います。

OIT:阿部さんは、確かにおっしゃるような魅力のある方であることが画面から伝わってきました、放送している時の姿勢の良さとか、別に人が見てるからではなくて、普段からそういう方なんだろうなっていうのが伝わってきます。小森さんは、『息の跡』で佐藤さんを撮られて、『空に聞く』では阿部さんを撮られた。お二人とも未知の領域に挑戦されて、こういう特別な事態がなければ、恐らくはやらなかったかもしれないことに挑戦されています。小森さんご自身が、そういう方に惹かれるということがあるのでしょうか?
小森はるか:多分、最初は陸前高田の人たちの暮らしとか日常みたいなものを撮りたいっていう風に思っていました。自分も生活しながら、些細なところから、ことさら被災の話をしてなくても、そこに漂っている、失われた人たちがちゃんと隣にいて生活があるっていうのがすごく見えてきてたから、そういうものを撮りたいって思ってたんです。でもやっぱり、なかなかそういう場面にカメラを向けることは出来なくて、誰にカメラを向けていいかも分からないっていう状態があったと思うんです。そうした中で、阿部さんとか佐藤さんは生活をしている人でもあるけど、少し客観的にというか、なんとかして伝えなければっていう立ち位置にいた人たちでした。お二人にカメラを向け始めてからは、最初に思い描いていた“暮らしを撮る”みたいなこととは全然違う角度にはなっていきました。その人たちが生活者でありながらやっていること、表現しようとしていること、残そうとしているものっていうものを撮ることで、そこには一人しか映っていなくても、そのまちの人たちが思っているというか、同じように感じていることっていうのが映るんじゃないかなって思うようになったんだと思うんですね。実際にそうだったと思います。あとは、住みながら記録をするっていう仕事を自分はしたいって思ってたから、記録っていう部分で理解してくれる、同じように今起きてる事とか現在進行形の事を一緒に残したいって思ってくれるお二人だったから、撮影も継続することが出来たのだと思います。



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