OUTSIDE IN TOKYO
JULIE BERTUCELLI INTERVIEW

『やさしい嘘』(03)で長編デビューを飾ったジュリー・ベルトゥチェリ。パリへ旅立った息子の手紙を楽しみにする母と、弟に嫉妬する娘。フランス語の手紙を読み聞かせる孫娘というグルジアの家族の物語は、繊細でいて、女性たちの微妙な心の機微を表現していた。そんな監督の最新作はシャルロット・ゲンズブールが主演の『パパの木』、舞台はオーストラリアだ。父も映画監督であり、映画人がふつうに家にやってくる環境で育った彼女は、クシシュトフ・キェシロフスキ、オタール・イオセリアーニ、ベルトラン・タヴェルニエなど、錚々たる巨匠たちのアシスタントを務めながら映画作りを学んだ。ホンモノを見て育ってきた生粋のフランス映画界のサラブレッドと言ってもいい。ところが彼女の視線は常にフランスの外にあった。というか、フランスの存在は感じられる、あくまでその場所の外にフランスという残り香が感じられる感じの物語だ。登場人物たちの記憶、話、アクセントなど、常にその外にあるという空気がつきまとう。そして彼女の描く、女性らしい感情の起伏は、やさしさだけでなく、嫉妬や不安や脆さも含めて、それが心情をあぶり出す鋭さを感じさせることなく、ごく自然に描かれている印象だ。
冒頭から子供たちにとってヒーローである子煩悩な“パパ”は死ぬ。そして夫に愛され、頼りっぱなしだった主人公ドーンは、眺めのいい大きな木に寄り添うように建つ、古い手づくりのような家と共に、家族を一人で支えざるを得なくなる。4人の子供たち、特に末娘シモーンはその木がパパであると信じている。監督はそんなドーンと家族の素性は説明しない。パパが実際にどんな人であったのかも、ドーンのアクセント以外に、彼らがどこから来てどうしてオーストラリアのその場所で暮らしてきたのかも分からない。それは全て、目の前に見えるモノたちから、観客は拾い、理解しようと努めるしかない。リアリティを大切にする真摯な姿勢と、感情の変化を描く時の女性らしい自然さを持つベルトゥチェリ監督に、そんな女性ならではの表現について聞いてみたいと思った。

1. アシスタント時代にいろんな国に行きながら仕事をしたことが、
 後々のプラスになっている

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ジュリー・ベルトゥチェリ(以降JB):写真を撮ってもいいかしら?

OUTSIDE IN TOKYO(以降OIT):もちろん。監督はふだん写真も撮られるのですか?
JB:好きですね。今はだいたいデジタルですけど。

OIT:いろいろと質問がある中で、特に監督の修行時代に、様々な監督たちと仕事してきていますが、そこを伺えればと思います。でも、そもそも映画の世界にどのように入ることになったのですか?
JB:子供の頃から映画の仕事をしたいという思いがありました。もちろん父親が映画監督(ジャン=ルイ・ ベルトゥチェリ)でしたし、小さい時から映画のある環境で育ったので、やはり映画を自分の職業にとは思っていました。ですが、すぐに映画学校で勉強したのではなく、まず大学を出て、ふつうの勉強をしてから映画の世界に入って行きました。なので、特に映画学校に行ったわけではなく、現場に入って、実習生というか雑用係みたいな仕事をしながらアシスタントになっていきました。それでアシスタントになった時に、キェシロフスキとか、タヴェルニエとか、リッチー・パンというカンボジアの監督の下でアシスタントをしながら映画の勉強をしていきましたね。そのアシスタント時代にロシアに行ったり、カンボジアに行ったり、いろんな国に行きながら仕事をしたことが、後々のプラスになっていると思います。そしてその中でもドキュメンタリーが記憶に残っています。ドキュメンタリーというのは世界を見る、別の目みたいなものを感じられ、すごくドキュメンタリーに傾倒していきました。でもある時に長編を撮りたくなって、それで撮った長編が『やさしい嘘』です。それで小さい頃からしょっちゅう映画館に通い、1週間に3、4本の映画を見ていました。写真も好きで、映像も好きという意味でも、映画に繋がっているのだと思います。

『パパの木』
原題:The Tree

6月1日(土)より、シネスイッチ銀座にてロードショー

監督・脚本:ジュリー・ベルトゥチェリ
原作:ジュディ・パスコー
撮影:ナイジェル・ブラック
音楽:グレゴリー・ヘッツェル
美術:スティーブン・ジョーンズ=エバンズ
出演:シャルロット・ゲンズブール、マートン・ソーカス、モーガナ・デイヴィーズ、エイデン・ヤング

©photo : Baruch Rafic - Les Films du Poisson / Taylor Media - tous droits reserves - 2010

2010年/フランス・オーストラリア/100分/スコープサイズ/カラー
配給:エスパース・サロウ

『パパの木』
オフィシャルサイト
http://papanoki.com/
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