OUTSIDE IN TOKYO
JULIE BERTUCELLI INTERVIEW

ジュリー・ベルトゥチェリ『パパの木』インタヴュー

6. 巨匠たちから距離を置くこと、自分をより自由にさせること

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OIT:一緒に仕事されたキェシロフスキもそうですし、(オタール・)イオセリアーニも、(ベルトラン・)タヴェルニエとか、そういった監督達との視点、自分の映画感の違いみたいなものは作り手として感じますか?
JB:もちろん彼らの方が自分よりもずっと巨匠で、彼らからはたくさんのことを学び、ものすごく尊敬していますが、あえて自分が作品を作る時は、そうした巨匠の人たちから自分を切り離して、彼らの影響があえて自分に及ばないように気をつけるということをしています。もちろん自分の作品が少しでも彼らの作品に近づければそれに越したことはないけれど。自分はその作品を作っているその時に蓄積されている自分の色んな感性を駆使しながら、自分の音楽を作ることが自分にとって相応しいと思っています。私自身は、自分が一緒に仕事をしてきた映画監督だけでなく、それまで自分が読んだ本とか観てきた映画など、全てのものから色々な影響を受けていると思うんです。ですからその時の自分が持っている方法を駆使しながら、記憶を辿って作品を作っていくことが自分にとって相応しいので、むしろ、その人たちと比較したりすることが逆に足かせになったり、変なプレッシャーになったりすることがあります。そういうことをあえて排除していきたいというのは自分の意識にあります。そういう人たちとの仕事の経験とか作品が自分の新しい作品作りのハンディキャップになるようなことがあるのはもちろん嫌だなという風に思います。だからこそ自分はどちらかと言うと外国で映画を撮るのが好きで、それはそういう人たちから距離感を置くという意味もあるし、自分をより自由にさせるということでもあるのです。

OIT:最後に、シャルロット・ゲンズブールを起用した理由と、彼女と実際にどのようなことを話しか、教えて頂けますか?
JB:最初はシャルロットを全く考えていなかったんですね。最初はどちらかと言うと、オーストラリアの女優さんの中から誰かを使おうと思っていたんですけど、時間をかけたにも関わらず、適当な人がどうしても見つからなかったので、最終的にはシナリオの設定を変えて、要するにドーンの方はオリジンがフランスあるいはイギリス、夫がオーストラリア人という風に変えて、とりあえずフランスの女優さんから選びましょうということになったのですが、フランス人の女優さんで英語をナチュラルに使える人があまりいないというのもあって、どうしようかと思っていた時にシャルロットはどう?っていう話が出たんです。自分の頭の中でシャルロットはものすごく若いという意識があったので、今回のドーンの役にはちょっと若すぎると思ったんですが、周りの人がそんなにもう若くはないわよ(笑)みたいに言うので、彼女ももう母親でもあるし、一度考えてみたらどうかという話になった。それで改めてシャルロットに視線を移した時にすごく魅力的に思えたんです。もうすでに3人の子供のお母さんであるにも関わらず、少女らしさとか、女らしさとか、母親らしさとか、色々な年代の要素を持っていて、そこがやっぱりおもしろいと思いました。この映画の中でもドーンという母親が、すごく母親らしい時もあれば、ちょっと子供っぽくなってしまう時もあって、そういう部分もすごく自然に演じきれる女優さんなのではという思いもあって最終的に彼女に決めました。とても魅力的ですし、笑った顔がとても可愛かったりするんですけど、でもそういうシャルロットがすごく平凡な、普通の女性の顔にもなるんですよ。彼女はもちろん綺麗な女優さんではあるけど、ものすごく造詣的に美しいだけの女優さんとはまたひと味違うわけで、そういう意味でもこの役にはぴったりでした。演技力に関してもすごく蓄積してきているので、やはり1テーク、2テークくらい撮れば、本当にジャストな演技をしてくれる。そういう意味では監督としてすごくやりやすかったですね、彼女自身、そんなにたくさん説明しなくても、色々なことを身体で感じてくれる。たとえば身体の動かし方も具体的な説明をしなくても、そのシーンに合わせて上手く反応してくれました。私は監督としてあまり具体的に説明するタイプではないので、たくさん説明をしなくてもいいシャルロットとの仕事は自分にとって理想的でした。役者さんの感性をそのまま自由に使いたいタイプの監督としてはとてもよかったです。


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