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まだ朝の早い時間、ジャンヌ・バリバールは日仏学院の庭のベンチで寛いでいた。前夜にライブを行ったばかりの彼女だが、どこかさわやかだ。ジャック・リヴェットなどの作品で知られる個性的な女優は、『ヴァンダの部屋』『コロッサル・ユース』など、変わりゆくリスボンの貧しい地区に生きる人々を起用した映画を撮るポルトガルのペドロ・コスタ監督の新作のミューズであり、映画そのものである。『何も変えてはならない』は、女優業を越えて、仲間と音楽を作る時の彼女を、モノクロ映像で捉えている。それは一人のアーティストを追うドキュメンタリーとも言えるし、ミュージシャンにフォーカスを当てた音楽映画と言えなくないが、コスタも語るように、一人のクリエイティブな女性のフィクショナルな物語のようだ。スタジオにこもり、何度も同じ曲を歌い、バンドの仲間と(アルバムの『Paramour』の製作で)試行錯誤を繰り返す。オペラ『ラ・ペリコール』に初挑戦しながら、ボイストレーナーに追いつめられる様子も見られる。もの憂い表情で煙草をくゆらしたかと思えば、電話口の相手(おそらく息子だろう)に明るい声を聞かせる。カメラは彼女の顔を影で捉え、彼女を前に時間が止まったかのような錯覚を覚える。そんな彼女が目の前にいる。煙草を手にとり、火をつける。足を組んで、一息吸い、静かに微笑む。
1. ロックンロールという音楽は、退屈を感じている人たちの音楽でしょ? |
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![]() OUTSIDE IN TOKYO(以降OIT):ライブ、楽しかったです。特に「Torture」(Kris Jensen作曲)という曲がいいですね。あなたが歌うと特に! ジャンヌ・バリバール(以降JB):そう、よかった?ケネス・アンガーの映画(『スコーピオ・ライジング』で使用)は知ってる? OIT:うん、もちろん。でもあの曲はどういう経緯でやることになったの?
JB:映画のためよ。 OIT:では、映画の中で歌われ、録音されている曲はどういう経緯で選ばれたの?
JB:私は選んでないのよ(笑)。 OIT:では、ペドロが選んだってこと?
JB:そう、あれは彼の選択よ。 OIT:あなたがどの曲を入れたいと言ったわけでもなかったの?
JB:ええ、私は全く口を出してないの。 OIT:この“ドキュメンタリー”映画を始めるに当たって、最初に生まれたアイデアはどんなものだったのですか?
JB:うーん、アイデアと呼べるほどものじゃなかったと思う。それよりも、これは友情から始まったと言った方がいいわ。私たち3人の友情から。ペドロと私と、サウンド・エンジニアというか、サウンド・デザイナーの友人との間で。彼(フィリップ・モレル)はこの映画の撮影中に亡くなってしまった。それでこの映画が彼に捧げられているの。彼はフランス人だけど、彼とはいろんな映画で一緒に仕事をしてきた。5、6本ほど。素晴らしいサウンド・エンジニアだったんだけど、彼はリスボンに引っ越して、ペドロともとてもいい友達になり、彼の映画の音響も担当するようになった。だから、この映画のアイデアはそんな2人が思いついたものなの。2人が「ジャンヌで行こう」「彼女のやっていることを記録しよう」「映画、映像作品を作ろう」と言ったのが始まりだったと思う。2人とも私の音楽を気に入ってくれたし、だから一緒にやりたいと思ってくれたのかもしれない。でもアイデアが生まれた時点で私はまだ参加してなかったの。ただ、彼らが私と一緒に時間を過ごしたいと思ってくれたことはとてもうれしかったわ。 OIT:僕はてっきり、あなたが映画として記録してほしいと思って生まれた企画だとばかり思っていました。
JB:そんなわけないじゃない(笑)! OIT:考えもつかなかった(笑)?
JB:そういう意識は全くなかったわ!あり得ないわよ! OIT:実際の撮影は実際どうでしたか?彼がその場にいることに居心地の悪さを感じたことはなかったですか?
JB:ええ、全くなかったわ。さっき言ったように、本当に、ただ一緒に過ごすことが目的だったから。もちろん、音楽を作ることが大きく関与していたわよ。音楽を作るということが、つまり、ただ一緒に時間を過ごすことだから。それが大きな要素だと思う。よく、ハッパを吸ってアイデアが降りてくるのを待ってる、なんてあるでしょ(笑)?それに物事が起こる時の過程も大切。ミュージシャンというのはその場にだらだらいるわけだけど、それでも、突然、何かが起きるの。その日の午後に突然、何かが変わるとか。それに、退屈も大きく作用すると思う。ロックンロールという音楽自体が、退屈を感じている人たちの音楽でしょ?
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『何も変えてはならない』 原題:Ne change rien 7月31日(土)よりユーロスペースほかにて全国順次ロードショー 監督:ペドロ・コスタ 撮影:ペドロ・コスタ 編集:パトリシア・サラマーゴ 録音:フィリップ・モレル、オリヴィエ・ブラン、ヴァスコ・ペドロソ 音楽:ピエール・アルフェリ、ロドルフ・ビュルジェ、ジャック・オッフェンバック 製作:アベル・リベイロ・チャベス 出演:ジャンヌ・バリバール、ロドルフ・ビュルジェ、エルヴェ・ルース、アルノー・ディテリアン、ジョエル・テゥー 2009年/ポルトガル・フランス/103分/35mm/モノクロ/1:1.33/ステレオ 配給:シネマトリックス 『何も変えてはならない』 オフィシャルサイト http://www.cinematrix.jp/ nechangerien/ ![]() ![]() ![]() 『何も変えてはならない』インタヴュー |
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