OUTSIDE IN TOKYO
HYUNRI & M. YAMAMOTO INTERVIEW

玄里(ヒョンリ)『水の声を聞く』インタヴュー with 山本政志

2. 熊楠の場合、原生林の保護は人間の本質の保護でもある
 (山本政志)

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OIT:今の時代的には、原発が今後は難しいだろうと誰もが思っている中で、それでも代替エネルギーの方に舵を切れない日本の現実があるものの、一方、ドイツなんかを見るとグリーンエネルギーにシフトしている、なぜ日本ではそれが出来ないのか?と多くの人が思っている。そうした状況の中で、これはかなり以前からある考え方ですが、“グリーン”や“エコロジー”といった思想へのシンパシーは強まっていると思うんですね。“熊楠”なんていうテーマはまさにそうした部分と共鳴するものだと思うのですが。
山本政志:日本で最初に“エコロジー”という言葉を使ったのは熊楠だったという説もあるくらいなのでもちろんそうなんだけど、ただちょっと違うのはね、ヨーロッパは「自然を大切にしよう、保護しよう」って、“自然”と“人間”を切り離している。日本の場合はもっと全てが一緒くたになっちゃってるからね。熊楠の場合、植物を守ろうとしたところの一番最初の動きは、まず地元で粘菌を採取した場所を守ろうとした、とても個人的なところから始まってる。もちろんそこから地球的な規模のことまで広がっていて、無茶苦茶面白い。熊楠の交流関係も、芸者、侠客、画家、百姓,漁師、学者、天皇とごちゃ混ぜ。熊楠の愛した原生林も、緯度の高い所に、低い所に生息する植物、暖かい所、寒い所が混在してる。人間関係と原生林が重なってる。だから、熊楠の場合は原生林の保護は人間の本質の保護でもある。あっちもこっちもぐっちゃぐちゃに考えていく自由さは今の“エコロジー”にはなくて、ちょっと排他的なところがある、クジラを食っちゃ行けないだとか、ちょっと違うと思うんだよ。もっとダイナミックで、もっとこんがらがっちゃてるもんだと思う。だから、共通するとこもあるけれども、違う所もあるよね。俺も熊楠と感覚的につながってるとこが有る。自分もアジア的な人間なんだなと思う。
OIT:そういう方向の映画をお撮りになる予定はないですか?
山本政志:本当は撮りたいよね。書き上げた脚本が三本とやりたい原作が1本、『熊楠』の他に三本あるんだけど、全て金がかかる企画なんだよね。だから、そっちに行くか、もっとアナーキーなことを全くゼロから創り上げるか、どっちかをやりたいね。熊楠は、2017年が熊楠生誕100年だったっけな、それまでに作らないと、熊楠に相当怒られる。
OIT:『熊楠』こそ、助成金ちゃんと出してほしいですよね。
山本政志:ちょっと新たなこと考えないと駄目だよね、これを再開すると、もう4〜5回やってるんだけど。プロデューサーが、結構向こうの方からやろうって話が来るんだけど、毎回なかなか動かないね。
OIT:呪われてるんですかね?
山本政志:手強い、それと一回止まってる映画になかなか出しにくいっていうのがあるよね。
OIT:確かにそうですね。ところで、今回の場合は、玄里さんのような女優さんと巡り会ったからやる気が出てしまったっていうことなんですよね?
山本政志:それとね、大根の『恋の渦』が当たったからというのがある。あの映画は2時間19分だったんだけど、『水の声を聞く』も最初は2時間19分に仕上げてた(笑)。最初の関係者の0号試写の時は2時間19分だった。大根に、同尺だよ、って言ったら、そこまでもやんなくても!って言われて(笑)。結局、長いと思って、切っちゃったんだけど。
OIT:玄里さんはそちらのバージョンはご覧になったんですか?
玄里:見ました。
山本政志:切った後のこっちの方はまだ見てないんだっけ?
玄里:まだ見てないんですよ。
山本政志:玄里のシーン、ほとんど切っちゃったからなくなってるよ(笑)!
玄里:そんな気がしてました(笑)
山本政志:水浴びのシーンは残しておいた(笑)
玄里:そんなの撮ってないじゃないですか!滝行するシーンとか(笑)
OIT:いやいや、主演女優、素晴らしかったです。
玄里:ありがとうございます。
山本政志:堂々たる主演女優ぶりだったよ、露骨にね(笑)。俺なんか、毎日、現場で天気の話とかして気を使っちゃったからね。
玄里:何言ってるんですかー!全然、そんなことなかったですよ!いつも撮影の5分位前に現れて、さて、撮るか、って感じだったじゃないですか(笑)
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