OUTSIDE IN TOKYO
HONG SANG-SOO INTERVIEW

ホン・サンス『3人のアンヌ』インタヴュー

4. 映画の中で重要なことはひとつずつ撮影の中でできていく

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Q:妊娠している(役の)女優さんが出てきて、彼女はアンヌ(イザベル・ユペール)が韓国人男性に夢中になっているのに対して、わりと口うるさいお母さん的な側面ばかりが映されているような気がしたのですが、それも脚本を作っているうちに、結果としてそういうキャラクターになっていったということでしょうか。
ホン・サンス:映画の中で重要なシチュエーションだったり、そういう重要なことはひとつずつ撮影の中でできていくような気がします。今回はまずイザベル・ユペールが出ることになった、妊娠した女性(の役)のムン・ソリさんも出ることになった。じゃあ、その二人が出るんだったら、2人の関係はどうなるのだろうと、そこから考えて始めていくわけです。私も昔、映画を撮り始めた最初の頃は、普通のやり方であらかじめシナリオを全部書いて、それで現場に臨んでいたのですが、映画を撮っていくうちにどんどんそのシナリオが短くなっていき、シナリオとは到底言えないメモと細々とした部品や破片みたいな、そんなメモだけを持って現場に臨むようになっていったわけです。最初に決めるのはどの場所で撮るかというのと、主要な俳優は誰が出るのかということだけで、あとは現場の撮影で、その撮影もその日の朝にシナリオを考えてきて、一日撮影して、その一日撮影したことの中からまた次の日に撮影するものが生まれてくるという、そういうひとつずつ積み重なっていって出来上がるのが私の映画だと思います。

Q:今のことを少し受けて質問しますが、役者は誰でもいいということにはならないでしょうか?アマチュアであってもいいとか、そういう役者に求める資質みたいなものはどういったものでしょうか。それと関係するように、先ほど中性的なアングルやフレーミングとおっしゃっていたのですが、何か観客の期待を無化するというか、それに応えないようにするとか、そういった映画の距離感への考えについても教えていただけないでしょうか。
ホン・サンス:アマチュアの顔というのは屈曲が多いとされていますね。プロの俳優は逆に屈曲が少ない。屈曲の複雑さを求めるのだったらアマチュアを撮るのでしょうが、アマチュアの俳優だと元々持っている屈曲は多いけど、いざカメラの前に据えて演技をさせるとそれを上手く表現出来ない。それは元々、中に持っているエネルギーもあるでしょうし、何より表現する力の問題があるからアマチュアの俳優、あるいは素人は屈曲が多いのですが、それを上手く表現出来ないわけです。屈曲といった時、すごく美しい複雑な屈曲を持っているかもしれないけれど、カメラを通して表現すると、カメラを通った屈曲が単純になってしまっておもしろくなくなってしまうこともある。時々はそれでも何事にも例外はあるので例外的な人もいるでしょうが。逆にプロの俳優というのは表現する力が強いし、プロの俳優はあらかじめ大衆の前に現れているので、大衆からその俳優を目にした時のイメージがあらかじめあるわけですね。大衆とコミュニケートするイメージがあらかじめできてしまっているけど、私にはそこに全く関心がないので、そのプロの俳優が持っている表現力の強さというのは使いたいけれど、プロの俳優が観客に持たれているイメージは壊したいわけです。

Q:それはやっぱりカメラのフレーミングとか、撮る距離感にも通じるところがあるのでしょうか。先ほどの中性的ということも踏まえて。
ホン・サンス:たとえば、私たちが映画を観て、この映画のカメラのアングルが素晴らしいなと思うことがあるとするじゃないですか。でも、と言うことは、それはすでに観たことがあるものを映画の中で再び見て、美しいと言っているような気がするんですよね。でもすでに映画を観て想起した他の映画であるとか、他の写真であるとか、それらはすでにイメージが着いているというか、色が着いてしまっているのではないでしょうか。だから私は映画を通じて、ある場所を決めて、その場所の中で全く新しい経験をしたいのですが、その中でカメラのアングルにしろ、俳優の演技にしろ、これまでの他の映画を思わせるものがあると新しい経験にはならないですよね。だから先ほど私が言ったように、中性的なカメラの動きや中性的なアングルを私が好むというのはそういうことだと思うのです。

Q:イザベル・ユペールも常連俳優たちも素晴らしかったのですが、「アンヌ」が道を聞く、通りすがりのおばさんがいますね。それとアンヌに声をかける釣りのおじさんのシーンもすごく楽しいのですが、あの2人の場合、通りすがりの人を起用したのですか?
ホン・サンス:彼らは俳優ではなく、おばさんは撮影している時に横を通りかかったおばさんですし、釣り人は撮影してる時に横で釣りしていたおじさんです。

Q:そういう人たちを撮影したのは初めてですか?
ホン・サンス:これまでの映画でも多かったですよ(笑)。

Q:あのおばさんは映っていることを分かっているのですか?
ホン・サンス:もちろん知っています。


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