OUTSIDE IN TOKYO
HONG SANG-SOO INTERVIEW

ホン・サンス『3人のアンヌ』インタヴュー

3. ロングテイクで一回だけ演技をすればいいと言われれば、
 俳優は最初から勇敢に演技ができる

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Q:いきなり細かい質問で申し訳ないのですが、『3人のアンヌ』ですごく気になるショットがあったので質問させて下さい。それは2つめのエピソードでアンヌと映画監督が2人で食事をする場面、長回しの撮影なのですが、他のショットは引きの構図が多いなか、かなり人物に寄っています。いきなり時間が飛んで料理と男の手の寄りから始まると、ズームで引いていき、さらにすぐズームでアンヌの方に寄り、それから左右に何度もパンを繰り返し、アンヌが立ち上がると今度はアンヌを追ってまた座るという、かなり変わったカメラワークをしていて、このショットだけこの映画の中でかなり変わっている感じがするのですが、どうしてこのような撮り方をしたのでしょうか。
ホン・サンス:自分が映画を撮る時にカメラのアングルを決定する理由の一つは、そのカメラアングルが他の別の映画をなるべく想像させないような、中性的なアングルで撮りたいということがひとつと、もうひとつは一番経済的に撮れることです。経済的というのは予算的にという意味ではなく、カメラの経済、つまり、自分がこのシーンでこのタイプの人間を撮りたい、こういうカットで撮りたいという時に一番少なく、完結に、そして最小限に撮るにはどういうカメラの動きをしたら撮れるかということを二番目に考えるのです。

Q:監督の映画ではズームや長回し撮影が多用されますが、やはりそういう経済的な理由というのが大きいのですか?
ホン・サンス:私の映画でズームを多く使うのも、やはりその経済的な理由ということです。私の映画は長回しが多いので長回しの中でズームをすると、監督はリズムを作れる。ロングテイクの中でズームすることによってリズム、ペースが作れる。だからそのリズムとペースがひとつ。もうひとつは経済的な理由と言いましたが、ディテールを撮りたい時にズームする。そういう理由でロングテイクの中でズームを多用しているのです。

Q:カットがあって寄るのではなく、長回しの中でズームした方がいいわけですか?
ホン・サンス:そういうことではないかと思います。カットをせずにロングテイクで撮る理由ですが、カットをかければ最低でも俳優は2回も同じ演技をしなければいけないわけです。たとえば7分のシーンがあるとします。1テイクの中で男女の会話のシーンを撮る時、たとえばテイクを重ねて、5回目のテイクで私がすごくいいと思ったとします。カット(割り)で撮っていると、それと併せて女性のシーンも(一緒に)撮っていても、カットで割らずにロングテイクで撮っていれば、俳優の立場からしても、俳優が心を開いてくれたまま楽に撮ることができます。カット(割り)で撮る時に俳優がどう考えるかと言うと、たとえば今インタビューしている方に、この状況をカット(割り)で撮りますと言えば、同じことを何度も言ってもらう必要があるわけです。それと同様に、俳優もカット(割り)で一度撮った後に、次にまたもう一回同じことをしなければならないので、一回目の演技は安全にこなそうとします。でもロングテイクで一回だけ演技をすればいいと言われれば、俳優は最初から勇敢に演技ができるわけです。

Q:今回、主演にイザベル・ユペールを迎えたわけですが、彼女のイメージは完成された大人の女性、美しい女性というイメージだと思います。この映画の設定は言葉の通じない国に来た外国人ということで、わりと少女的な可愛らしさみたいなものがすごく引き出されていて素敵だったと思います。それでイザベル・ユペールを主演に選ばれた理由、監督が感じられた彼女の女優としての魅力を教えていただけますか。
ホン・サンス:イザベル・ユペールを使うから彼女のこういう部分を引き出したいとか、そういう考えは全くなかったんです。私の撮り方はその日の朝に、その日に撮る台詞を朝になって書いて、それで俳優と30分くらい練習してそれですぐ本番に入るのですが、台詞を作る段階でこういう台詞を言ったらこういう演出効果があるだろうと変える部分もありますけど、それは本当に少ない部分で、実際にどうなるかは俳優が演技してみないと分からない部分が非常に多いんですね。私がこういう効果を表すだろう、あるいはこれは一体どうなるか分からないと言って作った台詞を俳優さんに渡して、俳優さんが演技して初めて俳優にも私にもこれはどういう効果がある、これからどういうストーリーが展開されていくのかは、その場になって初めて分かるわけです。それが私のやり方なので。私がたとえばイザベル・ユペールに会って彼女の魅力を感じますよね。でもその魅力は一体どういう魅力なのかは私に分からない。でもともかく魅力を感じるわけです。でも彼女と実際に会って何か行動するとそのリアクションの中で初めて分かってくることってあるじゃないですか。そういう風に会ってみてから実際に台詞を与えて演技してみて、その中で初めて分かってきて、その魅力が何なのかも分かってくる。そういうことがあるのだと思います。


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