OUTSIDE IN TOKYO
CEDRIC KAHN INTERVIEW

今までは“人物”にフォーカスをして描いてきたが、今回は“社会的なテーマ”に光をあてた、自分のキャリアは新たな段階に進んだと思う、と監督自らが語った自信作『よりよき人生』は、ダルデンヌ兄弟の映画を思わせる真実味のある人物描写をベースに、多重債務を抱えた主人公が冷たい社会の現実に否定され続ける様を克明に描きながら、それでも戦い続ける主人公がそのプロセスの中で自らの“家族”を発見していく、観る者に静かな感動を与えてくれる秀作である。

主演をフランスの人気俳優ギョーム・カネ、その相棒のような子役を演技初挑戦のスリマーヌ・ケタビが好演、母親役をジャック・オディアール『預言者』(09)のエンディングに登場したレイラ・ベクティが演じ、ルイ・ガレルの母親ブリジット・シーも迫力のある演技で存在感を見せている。若干の異論を呼んだという、ギョーム・カネが見事に演じ切った主人公ヤンが、“より良き人生”を歩むために“戦うしかなかった”のは、逆境に置かれている人間が取りうる唯一の手段として、正当化されうることのように私には思える。

このインタヴューの時点では、ダルデンヌ兄弟の『少年と自転車』(11)を観ることが出来ていなかったので、その名前が出てこなかったが、今なら『少年と自転車』との共犯関係についての質問を監督にぶつけていたかも知れない。リアリズム描写の中にも、“反資本主義の夢”とアグレッシブな自由主義が息づく秀作を届けてくれたセドリック・カーン監督のインタヴューをお届けする。

1. 今ある世の中の社会システムは、貧しい人がより貧しくなってしまうように出来ている

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OUTSIDE IN TOKYO(以降OIT):(第24回東京国際映画祭での)上映後のQ&Aで、本作はご自分にとってセカンドステップだと仰っていますが、それは監督のキャリアが成熟してきて新たな段階に達しつつあるということと、世の中の様々な混乱を含めた現実に呼応していくということの、2つの意味があると捉えてよろしいでしょうか?
セドリック・カーン(以降CK):映画を作るにあたって、社会に対して言いたいことを映画を通して表現したり、戦う姿勢を見せる必要があるなというふうに認識したからです。

OIT:前作までは“人物”に焦点をあてていた、特に『リグレット』(09)は恋愛映画の要素が強かったと思うのですが、監督の中で自然に生まれた変化ということでしょうか?
CK:前作までも社会的な側面も描いていますが、映画の中では控えめな感じでした。それをより全面に出したいという風に変わってきたということです。なぜならそういった人物が感情とか、人に対する愛着とかを持つ時は、必ずその人の抱えている社会的な背景も関係しているものです。

OIT:いま(2011年10月当時)世界中でデモ(アラブの春、Occupy Wall Streetなど)が起きていますが、そういう状況をどのようにご覧になってますか?映画との関わりで見ることはありますか?
CK:もちろん私は映画は現実の世界で起こっていることとマッチしているからこそ良いと思っています、映画というのは実際の世の中から独立した形で抽象的であってはならないと思っています。現在、あのようにデモがたくさん起こっているのは、やはり資本主義社会の歪みが出てきて、そういったものに耐えられなくなった人々がそうした形で不満を漏らしているのだと思います。その人達は自分の人生がその後進展していくという希望が持てないでいる。なぜなら今ある世の中の社会システムというのが、貧しい人がより貧しくなってしまうという風に出来ているからです。そういったことこそ、今回この映画で描き出したいと思ったのです。私は貧困である人達は貧困である状態を受け入れざるをえないと思いますけれど、正義と逆の不公平というものに皆さんは耐えられないんだと思っています。

『よりよき人生』
英題:A BETTER LIFE

2月9日(土)より、新宿武蔵野館ほか全国順次公開

監督:セドリック・カーン
脚本:カトリーヌ・パイエ、セドリック・カーン
撮影監督:パスカル・マルティ
編集:シモン・ジャケ
音響:オリヴィエ・モヴザン
出演:ギョーム・カネ、レイラ・ベクティ、スリマン・ケタビ、ブリジッド・シィ

2011年/フランス・カナダ/35mm・デジタル/カラー/111分
配給:パンドラ

『よりよき人生』
オフィシャルサイト
http://yoriyoki.net/


TIFF 第24回東京国際映画祭
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