OUTSIDE IN TOKYO
CEDRIC KAHN INTERVIEW

セドリック・カーン『よりよき人生』インタヴュー

3. “資本主義の夢”ではなくて“反資本主義の夢”を描いている

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OIT:移動撮影が多いですね。前作の『リグレット』もそうでしたが、お好きなんでしょうか?
CK:カメラと写ってる人物が一体化するくらいの撮り方が好きなんです。例えばその人物が静かにしてればカメラも静かに落ち着いていて、その人物が動いていればカメラも一緒に動く、そういう撮り方が好きです。

OIT:観客にはカメラの存在を感じさせたくない?
CK:私はカメラは俳優と同じ呼吸をしているくらい自然に融合している状態が好きなんです。私にとって理想の映画とはカメラという存在がないような映画です。例えば人物がパニック状態にあるのだとしたらカメラが動いていても私は全く気にしません。しかし、もしすごく静かなシーンで、カメラが動いていると私は人工的で表面的だなという印象を持ちます。

OIT:今作は特にアメリカ映画的であるようにも見えたのですが、そういう意識はありますか?
CK:どういった点がですか?

OIT:主人公が広い意味で“ヒーロー的”であり、映画自体にある種の躍動感とリズムがあります。社会的なテーマを扱っていますが、エンターテイメント性もありますし。
CK:幸せを追求するっていうテーマは結構アメリカ映画には出てくるので、そういった点はアメリカ的かもしれませんけれども、現実に起こりうる問題を現実的に描くっていうのはアメリカ映画的だと思いませんし、今回のこのエンディングはお金がなくても自由に生きるという風に描いていますが、お金がなくても自由に生きるっていうのはあまりアメリカ的ではないので、ちょっと私はそう思わないですね。今回の私の映画は“資本主義の夢”ではなくて“反資本主義の夢”を描いていると思いますが、アメリカではやはり資本主義は保護されていて、映画も最後は安定した良い状況になって終わるっていうのがパターンですけど、私は全くその逆で全てを失ってしまうという描き方をしています。ですから、ちょっとアメリカ映画とは違うと思います。

OIT:アメリカ映画と言ったのは、ハリウッドのメインストリームよりも、70年代のニューシネマをイメージしていました。
CK:私は個人的にはアメリカ映画が好きですし、そのアメリカ映画の中に描かれているエネルギーとかバイタリティがすごく好きです。主人公達が若くてハンサム、美人であるっていうのは今回の私の映画にもアメリカ映画にも共通している点かもしれませんが、アメリカでは例えば社会的な問題を抱えている人、例えば『エリン・ブロコビッチ』(00)のジュリア・ロバーツであったり、そういった人でも美男美女で描かれている、そういう点は共通していると思います。フランス映画では、よく問題を抱えてる人は年がいっていて見た目も醜い人だったりするのです。

OIT:監督が今まで影響を受けた映画というと沢山あると思うんですが、最近観た映画でこれは良かったというのはありますか?あるいは、今回の映画のために観たものもありますか?
CK:ケン・ローチとかダルデンヌ兄弟とか、あの周辺の人たちですね。あとはモーリス・ピアラでしょうか。それらの映画から直接的に影響を受けたということはなくて、今回の映画は自分の頭の中にアイデアがしっかりあって、恋愛も描きたかったし、子供も登場させたかった、厳しい社会的な状況にありながら戦う人、希望を失わないで戦う人、そういったものを描きたいと思っていたので、特に直接影響を受けたというものはないですね。

OIT:監督の場合はコンスタントに映画を撮れていると思うんですけど、世界的にそれなりの規模で映画を撮るということはなかなか大変な時代になっていると思います。フランスでの状況はどうでしょうか?
CK:フランスは比較的他の国よりもいい状況にあると思います。国が助成金を出して、経済的に守られているからです。助成金以外にも映画作りを奨励をしていて、例えば、民間企業やテレビ局、銀行などが映画に出資すれば税金が少し免除されるというシステムもあります。ですから、フランスにおける映画作りは他の国に比べれば恵まれていると思います。ちょっと難しいテーマを扱いたくても比較的やろうと思えば出来る。ただ映画を作りたい人というのは、やはり無数にいますので、競争はすごく激しいです。


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