OUTSIDE IN TOKYO
AMOS GITAI INTERVIEW

フィルメックスでの<亡命三部作>と最新作『幻の薔薇』の上映、東京日仏学院での<イスラエル現代三大都市三部作><ユートピア崩壊三部作><21世紀におけるエグザイル三部作>の上映、そして来日した監督本人によるQ&Aやティーチインを通して、その作品の全貌が明らかになりつつあるイスラエルの映画作家アモス・ギタイ監督。精力的にハードスケジュールをこなす監督に、貴重なお時間を頂いてお話を伺うことができた。といっても、私(上原)の質問の段取りの悪さもあって、実はそんなにスムーズに話は進まず、冷や汗をかきながらのインタヴューとなってしまった。

そんな中でも、相棒の江口研一の粘りもあって、幾つかの重要な言葉を監督自身の口から引き出すことが出来たと思う。現在アテネ・フランセ文化センターで開催中の「アモス・ギタイ監督特集 越えて行く映画:第3部」と共に、イスラエル、ポスト・シオニズムの最重要映画作家であるアモス・ギタイ監督の言葉に耳を傾けて頂ければ幸いである。監督の言葉は、簡潔で明晰な表現の中に濃密度な情報が圧縮されており、その言葉と映画を通じて、表現活動における”洗練”とは何かということを考えさせてくれる。個人的には、ペドロ・コスタ監督以来、最も様々な意味で勉強になる時間を過させて頂いた。改めて、アモス・ギタイ監督と通訳をして頂いた藤原敏文さんに、感謝を申し上げたい。

1. ベンヤミンは「自分が書きたい夢の本とは、自分がひとことも書く事はなく、
 全て既存のテクストの引用によって構成するものだ」と語った

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Outside In Tokyo(以降OIT):最近ご覧になった映画で印象的だった作品はありますか?
アモス・ギタイ(以降AG):オリヴィエ・アサイヤスの『カルロス』が良かった。とても興味深い映画でした。

OIT:なるほど、日本ではまだ観ることができませんが、それはフェアに描かれていましたか?
AG:直接知っているわけではないので、何とも言えません。

OIT:最近のアメリカ映画に対してはどのような感想をお持ちですか?
AG:私はアメリカ映画に限らず、そんなに多く映画を観る方ではないのです。

OIT:では、ご自分が満足して観るには、映画には何が必要ですか?
AG:あまりにもあからさまに言いたいことが見えているのではなく、自分を考えさせてくれることが重要です。

OIT:それは映画のロジックに合って、自分に考えさせてくれるものであれば良いということですか?
AG:そうですね。もちろん、映画監督に才能がないと困りますが。

OIT:ご覧になる時に重きを置くのは、言葉ですか、映像ですか?
AG:映画というのは、むしろ、その全体的な体験だと思います。

OIT:逆に、その全体的な体験が欠けていると映画としては集中して観れないということですか?
AG:集中は出来るけれども、観ていて興味は無くなっていきます。

OIT:監督が作る上で、最低限求めているものとは何ですか?
AG:作品毎に一つ一つ異なりますが、その作品固有の形式上の問題の解決と作品に必要なテーマというものを抑えていなければいけない。

OIT:監督の作品は原作ものが多いと思います。例えば『ゴーレム、さまよえる魂』の場合は、カバラのゴーレム伝説が原典になっていますが、そこにはどのような出会いがあったのでしょうか?
AG:私はまず、ベンヤミンのテクストが好きなのですが、彼が言っていたことで非常に面白いと思ったのは、自分が書きたい夢の本とは、自分がひとことも書く事はなく、全て既存のテクストの引用によって構成するものを書いてみたいというもので、私はその考えをとても興味深いと思っています。

OIT:ベンヤミンは最後には自殺を遂げたと言われていますが、それは『メモランダム』で監督自身が演じたキャラクターに影響を与えていますか?
AG:ベンヤミンの死因は実は明確ではないのですが、フランスとスペインの国境地帯で命を落としたということです。『メモランダム』のキャラクターには特に関係はありません。

OIT:『ベルリン・エルサレム』でマリア・ショハットが演じた、キブツの創設者の一人であるタニアが、そもそもそのムーブメントに参加したのはどのような動機からだったのでしょうか?レフ・トルストイの思想の影響からだったのでしょうか?
AG:そうです。

OIT:それがシオニストの思想とどのように関連したのでしょう?
AG:シオニズムは中央ヨーロッパで始まった運動ですから、当然中央ヨーロッパの最先端の思想の影響を受け続けているわけです。“シオニズム”というユダヤ人国家を作ろうという考え方自体が、1848年をきっかけにヨーロッパで国民国家という概念が盛り上がったことに呼応した運動でもあるわけです。

アモス・ギタイ監督特集 越えて行く映画:第1部・第2部

アモス・ギタイ監督特集 越えて行く映画:第3部

<亡命三部作>に関するアモス・ギタイ監督による解説とQ&A

『幻の薔薇』に関するアモス・ギタイ監督による解説とQ&A

<イスラエル現代三大都市三部作><ユートピア崩壊三部作>に関するアモス・ギタイ監督による解説とQ&A

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