アモス・ギタイ監督特集 越えて行く映画:第3部



フィルメックスでの<亡命三部作>『エステル』『ベルリン・エルサレム』『ゴーレム、さまよえる魂』、最新作『幻の薔薇』の上映、東京日仏学院での<イスラエル現代三大都市三部作><ユートピア崩壊三部作><21世紀におけるエグザイル三部作>の上映、そして来日した監督本人による、精力的なQ&Aやティーチインを通して、その作品の全貌が明らかになり、いよいよ日本でもその重要性が認識されつつある、イスラエルの映画作家アモス・ギタイ監督のドキュメンタリー作品、インスタレーション作品がアテネ・フランセ文化センターで一挙上映される。暗闇の中にあった、かの地の歴史や状況が、彼の作品に触れることで、次第に目が慣れてきて、すこしづつ見えるようになってきたと感じている我々にとって、もはや見逃すことのできない特集上映。

<以下、リリースより転用>

イスラエル、ポスト=シオニズム世代の映画作家アモス・ギタイ。「映画作家は現代世界がかかえる最も困難な問題に挑むべきである」と語るギタイ監督の日本未公開作品を含むドキュメンタリー作品とインスタレーション作品22本を一挙上映!
2010.12.22 update

アモス・ギタイ Amos Gitai
1950年、イスラエル北部の港湾都市ハイファに生まれる。シレジア地方(旧ドイツ領東プロイセン、現ポーランド)出身の父ムニオ・ワインローブ・ギタイは、バウハウスで学びミース・ファン・デル・ローエの助手として働き、ナチス政権を逃れてパレスチナに亡命した建築家。母エフラティア・マルガリット・ギタイの両親はシオニズム運動の初期から社会主義的な平等なユダヤ人国家を理想としてロシアから移民し、キブーツや労働組合の基礎を築いた家系。その家族の歴史は、「ベルリン、エルサレム」(1989)、「エデン」(2001)、「カルメル」(2009)等の多くのフィクション映画にも反映されている。イスラエル工科大学で建築家を志していた頃から8ミリで映画を撮り始めるが、73年のヨム・キップール戦争(第四次中東戦争)で、 23歳の誕生日に搭乗していた救援部隊のヘリコプターがシリア軍に撃墜されたことを契機に、必然的に歴史を背負わざるをえない個人を表現するための手段として映画を考えるようになる。1980年の「家」と1982年の「フィールド・ダイアリー」がイスラエル国営テレビ局で放送禁止になり、その後10年間を自発的な亡命者としてパリで過ごす。この頃からフィクションや舞台にも取り組みはじめ、アンリ・アルカン、サミュエル・フラー、ベルナルド・ベルトルッチなど多くの映画人・演劇人と交流。 1993年にイスラエルに戻り、現在はハイファ、テルアヴィヴ、フランスを拠点に、世界中を巡りながら毎年新作を一本は発表するという精力的なペースで映画製作を続ける一方で、演劇の演出や、ビデオ・インスタレーションなども手がけている。
第3部 2011年1月25日(火)~2月9日(水)
会場:アテネ・フランセ文化センター
入場料金:一般 1,000円/アテネ・フランセ文化センター会員 800円(税込)
お問い合わせ先:アテネ・フランセ文化センター TEL.03-3291-4339(13:00-20:00)
http://www.athenee.net/culturalcenter
シンポジウム:2011年2月5日(土)18:30~ 出席者:藤原敏史(映画作家)、舩橋淳(映画作家)ほか
上映スケジュール

第3部 2011年1月25日(火)~2月9日(水):アテネ・フランセ文化センター
1月25日(火)
17:10
【短編集A】
黒は白である
テクスチャー

ショシュ
火は紙を飲み込み、紙は火を飲み込む

(約25分)
18:10
【短編集B】
戦争のイメージ1、2、3
アハーレ(その後...)
カリスマ
建築
(約45分)
19:30

(51分)







1月26日(水)
15:10
フィールド・ダイアリー
(83分)






17:10
パイナップル
(76分)





19:00
ヴッパールの谷で
(93分)







1月27日(木)
15:10
戦争の記憶
(104分)







17:30
殺人のアリーナ
(83分)





19:30
オレンジ
(58分)







1月28日(金)
14:30
エルサレムの家
(89分)







16:30
ラシュミア谷の人々―この20年
(180分)




20:00
【短編集A】
黒は白である
テクスチャー

ショシュ
火は紙を飲み込み、紙は火を飲み込む

(約25分)
1月29日(土)
15:10
【短編集B】
戦争のイメージ1、2、3
アハーレ(その後...)
カリスマ
建築
(約45分)


16:30

(51分)





18:00
フィールド・ダイアリー
(83分)






2月1日(火)
15:10
パイナップル
(76分)

17:00
ヴッパールの谷で
(93分)







19:00
戦争の記憶
(104分)





2月2日(水)
15:30
殺人のアリーナ
(83分)

17:30
オレンジ
(58分)







19:00
エルサレムの家
(89分)





2月3日(木)
14:50
ラシュミア谷の人々―この20年
(180分)
18:30
【短編集A】
黒は白である
テクスチャー

ショシュ
火は紙を飲み込み、紙は火を飲み込む

(約25分)
19:30
【短編集B】
戦争のイメージ1、2、3
アハーレ(その後...)
カリスマ
建築
(約45分)
2月4日(金)
15:30

(51分)

17:00
フィールド・ダイアリー
(83分)






19:00
パイナップル
(76分)





2月5日(土)
13:00
バンコク・バーレーン
(78分)

15:00
ブランド・ニュー・デイ
(93分)






17:10
ゴーレムの誕生
(60分)





18:30
シンポジウム
2月8日(火)
14:30
ヴッパールの谷で
(93分)
16:40
戦争の記憶
(104分)
19:00
殺人のアリーナ
(83分)

2月9日(水)
14:00
オレンジ
(58分)
15:30
エルサレムの家
(89分)
17:30
ラシュミア谷の人々―この20年
(180分)
   
※()の付いている作品については、各作品の上映後に藤原敏史氏による作品解説(約10分間)があります。
上映プログラム

第3部:アテネ・フランセ文化センター

短編集A
『黒は白である』
1972年/3分30秒/Super-8/b&w,カラー/サイレント/ビデオ上映

夜に撮影された光と動きを映し出した華々しいシネ・エッセイ。
『テクスチャー』
1972年/3分20秒/Super-8/カラー/サイレント/DVD上映

車のウィンドウ越しに撮影。地球の印象主義的なパノラマが映し出され、植物群と地平線が広がる。
『波』
1972年/5分/Super-8/カラー/サイレント/ビデオ上映

地中海の波を撮った実験的作品。
『ショシュ』
1973年/6分40秒/Super-8/カラー/サイレント/ビデオ上映

ピンぼけのクローズ・アップショットにより、ショシュという若い女性の顔と身体が絵画的なイメージで映し出される。
『火は紙を飲み込み、紙は火を飲み込む』
1973年/2分40秒/Super-8/カラー/サイレント/ビデオ上映

デザイン教室のために製作された、炎に包まれた紙についての習作。挿入字幕を含む全ては消費され、逆説的に投影される。
『水』
1974年/3分25秒/Super-8/b&w,カラー/サイレント/ビデオ上映

海の水面、その動きと反射。海辺の光と雨。
短編集B
『戦争のイメージ1、2、3』
1974年/10分20秒/Super-8/カラー/サイレント/ビデオ上映

ヨム・キプール戦争中、アモス・ギタイはヘリコプター救援部隊に所属していた。この3つのフィルムは、ヘリから空撮されたものやヘリコプターの隊員等を含み、紛争のまっただ中で撮影された。戦車がゴラン高原に向かって移動し砲弾する様子も映し出されている。
『アハーレ(その後...)』
1974年/3分20秒/Super-8/カラー/サイレント/ビデオ上映

ヨム・キプール戦争への従軍後、アモス・ギタイはヘリコプター墜落事故から奇跡的に生還し、初めてこの短編フィクション映画を撮影する。この作品はクローズ・アップの連なりで構成され、絵のように血にまみれ破れた軍服が映し出される。
『カリスマ』
1976年/18分/16mm/b&w,カラー/ヘブライ語/ビデオ上映
※フランス語字幕付

ベルトルト・ブレヒトの詩"労働者が歴史を読む"に触発されて製作された作品。ドキュメンタリーとフィクションが交錯し、カリスマ性を持つリーダーに必要なものは何かが寓話的に描かれる。
『建築』
1978年/13分/16mm/b&w/ヘブライ語/ビデオ上映
※フランス語字幕付

1960年代から70年代にかけて、イスラエルの郊外では多くのスラム街が軍事的に一層された。多くの格安な賃料のビルが近隣住民の社会復帰のために建設された。その建物の多くは似たような西洋建築でかたどられ、中東の家族生活に合わせてデザインされた。この作品は、均一化し、平均的家族向けにデザインされる現代共同住宅建築への批評である。
『家』
1980年/51分/16mm/カラー/ヘブライ語/ビデオ上映
※日本語字幕付

東エルサレムにある一軒の家の改築現場。現在の所有者で改築の発注者はユダヤ人の大学教授。1948年以前の持ち主はパレスチナ人の医師。建築業者はユダヤ人。ヘブロン郊外から切り出した石で作業するのはパレスチナ人の石工たち。一軒の家にイスラエル/パレスチナの関係の複雑さのメラファーを見いだすこのギタイの本格的なデビュー作は、発注したイスラエル国営テレビ局で上映禁止処分を受け、撮影素材も行方不明になるが、完成直前のVHSコピーをフランスに持ち出すことに成功、セルジュ・ダネイらの絶賛を集めた。
『フィールド・ダイアリー』
1982年/83分/16mm/カラー/ヘブライ語/Betacam上映
※日本語字幕付

ヨルダン川西岸、ガザ地区、イスラエル軍侵攻直後のレバノン南部を往復し、アラブ、イスラエル間で激化する暴力の実態とその背景を、複眼的な視点で捉えた ドキュメンタリー。軍当局者の手で幾度となくカメラを塞がれるオープニングから、今にも暴発しそうな若い兵士たちを執拗に追ったラストまで、映画はドキュメンタリーの臨界点へ果敢に迫り続ける。
『パイナップル』
1983年/76分/16mm/カラー/英語、タガログ語/ビデオ上映
※日本語字幕付

フィリピン産のパイナップルは、ハワイで加工され、アメリカ本土で缶詰めになり、日本で印刷されたラベルをつけて、世界中で流通している、そのプロセスをグローバルな資本主義の構造を凝縮したものとして映し出す。ギタイがフランスに移住後、初めて発表した作品。
『バンコク・バーレーン』
1984年/78分/16mm/カラー/英語、フランス語/DVD上映
※字幕なし

バンコクの性産業で、外国人相手に働くタイの地方出身の女性たち。そしてカメラは中東の産油国バーレーンに飛び、そこではタイの男たちが出稼ぎ労働者として働いている。移民、エグザイルをユダヤ的体験から解き放ち、国際資本主義と南北問題と経済的搾取の観点からえぐり出すドキュメンタリー。
『ブランド・ニュー・デイ』
1987年/93分/35mm/カラー/英語/DVD上映
※字幕なし

初のフィクション映画『エステル』に感動したアニー・レノックスの依頼を受け、ユーリズミックスの日本ツアーに同行したドキュメンタリー。来日したユーリズミックスの二人のコンサートを全曲、一曲ワンカットの力学的なキャメラワークで記録するのと並行して、武満徹や坂本龍一といった日本の音楽家や日本文化との接触を通じて、新たな音を見出していく姿が映し出される。
『ゴーレムの誕生』
1990年/60分/ビデオ/カラー/フランス語/ビデオ上映
※英語字幕付

「ゴーレム、さまよえる魂」と「石化した庭」の製作にあたり、使用しなかった35ミリのフッテージやリサーチのために写したビデオ映像を元に、ゴーレムについての映画を作る軌跡を辿りつつ、人間とその人造による創造物との関わりを考察する作品。
『ヴッパールの谷で』
1993年/93分/16mm/b&w/ドイツ語、ヘブライ語/ビデオ上映
※日本語字幕付

1992年にドイツ・ヴッパタールで起きたネオナチによる殺人事件の余波と、冷戦後のヨーロッパにおけるナショナリズムと人種差別の勃興を考察する。「ネオ・ファシズム三部作」の1本。今回、ギタイ監督の希望により、新たに日本語字幕付で上映する。
『戦争の記憶』
1994年/104分/Super-8,ビデオ/カラー/ヘブライ語/Betacam上映
※日本語字幕付

ギタイが母国イスラエルに戻って初めて手がけた二部構成によるドキュメンタリー。ヨム・キプール戦争(第4次中東戦争)において搭乗するヘリコプターがシリア軍に撃墜された記憶を、当時撮影した8ミリフィルムの映像を交えながら、生存者へのインタビューや家族による証言を通じて紡ぎなおす。劇映画「キプールの記憶」(2000年)へとつながるその後の活動を予言することになった一篇。
『殺人のアリーナ』
1996年/83分/35mm、ビデオ/カラー/ヘブライ語/Betacam上映
※日本語字幕付

1995年11月4日、和平の流れを突然襲ったラビン首相暗殺。この事件の余派を、未亡人レア・ラビンのインタビューや、イスラエル社会の様々な断片、ギタイとその家族のパーソナルな記憶の断片と、そしてギタイの映画作りのプロセスを交差させることで浮かび上がらせる。和平が頓挫し続ける現代の情勢と、「メモランダム」(1995)以降のギタイ映画の 流れの双方を予見させる作品。
『オレンジ』
1998年/58分/ビデオ/カラー/ヘブライ語/Betacam上映
※日本語字幕付

イスラエル建国以前からパレスチナの主要な輸出産物であったヤッフォ・オレンジの生産と流通を切り口に、ユダヤ人が農業従事者となることを目指したシオニズムの一面を考察するドキュメンタリー。1930年代の写真と現在のユダヤ人経営者、研究者、 アラブ人労働者などの発言を対比させながら、国家経済の発展と産業の近代化にともない、民族間の分断が激しくなった現実を逆照射していく。
『エルサレムの家』
1998年/89分/35mm/カラー/ヘブライ語/Betacam上映
※日本語字幕付

ドルドルヴェドルシェヴと名づけられた東エルサレムの小さな通り。前世紀末にドイツ人のテンプル修道会員が建てた家に1948年まではアラブ人が住み、イスラエル建国時にアラブ人一家が避難したために「地主不在不動産」として没収された家に、現在はさまざまな出自を持つユダヤ人が居を構えている。長編デビュー作の「家」(80年)で撮影したこの場所を再訪したギタイは、考古学的な記憶の戦場であるエルサレムの姿を容赦なく暴き出している。
『ラシュミア谷の人々―この20年』
1981-1991-2001年/180分/ビデオ/カラー/ヘブライ語/Betacam上映
※日本語字幕付

1981年に、ハイファ郊外のパレスチナ人とユダヤ人がよりそって暮らす涸れ谷(ワディ)を撮り始めたアモス・ギタイ。その後10年おきに、同じ場所を訪ね、同じ人々を撮影する。世界の大きな流れは、牧歌的に見えた彼らの人間関係にも微妙な影を落とさずにはおかない。映画はデリケートな友愛に支えられたコミュニティと個人の歴史の変遷を、静謐な眼差しで見つめ続ける。「『ラシュミア谷の人々』は文句なしの傑作ですね」--土本典昭


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