OUTSIDE IN TOKYO
Adam Guzinski Interview

1970年代末、緑が繁茂するポーランドの田舎町で、12歳の主人公ピョトレック(マックス・ヤスチシェンブスキ)は、父親(ロベルト・ヴィェンツキュヴィィチ)が外国に出稼ぎに出て不在となった夏休みを過ごしていた。慕っている父は居ないとはいえ、ピョトレックは最愛の母ヴィシア(ウルシェラ・グラボフスカ)とふたりきりで、自転車で湖まで疾走し、好きなだけ泳いでは水辺に寝転び、家では得意のチェスに興じる、幸福な時間を過ごしていた。しかし、北国ポーランドの短い夏と同様に、幸せな時間は長くは続かなかった。母ヴィシアが夜になると同僚の男に誘われ外出するようになるのだ。ピョトレックは、母親に裏切られたという気持ちを抱き始める。そこへ、ピョトレックと同じ年頃の少女マイカ(パウリナ・アンギュルチク)が都会から母親に連れられてやってきた。「こんなところ、退屈で死にそう」と言ってニコリともしないマイカにピョトレックは惹かれるが、地元のガキ大将スコーロン(ヤクブ・ルスティク)に心をなびかせていくマイカに、ピョトレックはまたも失望していく。

12歳のピョトレックの眼前で、母親もマイカも残酷な変貌を遂げていく。女達たちは変貌を遂げ、少年はそれを見つめる。しかし、少年はただ見つめているばかりではない。やがて行動を起こすだろう。映画は、12歳の少年が経験する心の痛みを伴うイニシエーションの物語を散文的かつ抑制を効かせたスタイルで描き、子供と大人の世界の間にある境界線、(琥珀の中に永遠に留められた)時の流れ、理解の及ばない他者の感情といった不可視のものを詩的な風情とともに浮かび上がらせていく。アンジェイ・ワイダ、イエジー・スコリモフスキ、ロマン・ポランスキー、パヴェウ・パブリコフスキ(『イーダ』『COLD WAR あの歌、2つの心』)といった名匠を輩出してきた映画大国ポーランドの新鋭アダム・グジンスキは、どの登場人物にも全うな人間性の片鱗を宿らせることで、苦々しい青春譚を、ノスタルジックな色彩と瑞々しい詩情を讃えた、エヴァーグリーンな煌めきがまぶしく輝く”ひと夏の記憶”へと昇華している。重要なのは、その煌めきが、残酷さと表裏一体の関係にあるということである。その緊張関係が、アダム・シコラの美しい撮影と相俟って、この映画を忘れ難い一本にしている。

1. 1970年代のポーランドでは経済危機が始まり、
 男性達はイラクやソ連といった遠い国まで出稼ぎに行っていた

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OUTSIDE IN TOKYO(以降OIT):ポーランド映画というと冬の印象や雪の印象が結構強かったのですが、この映画は今まであまり見たことのないポーランドの景色を見せてくれたように思います、とても美しい映画でした。最初にお聞きしたいのが、1970年代のポーランドという時代背景です。この時代は、例えば日本では高度経済成長があり、単身赴任で家族は別れて暮らすという状況が結構ありました。ポーランドの時代背景というのを少し教えていただけますか?
アダム・グジンスキ:ポーランドでは1970年に新しい政権が出来て、その政権が外国からの借金によってある程度の国の豊かさを保証したんですけど、70年の終わりぐらいになってくると外国からの借金を返せないということになって、徐々に経済危機が始まりました。生活の水準が一旦上がったのがまた落ちてくるといった時代だったのです。この時代にポーランドの男性達は、家庭生活のレベルを維持するために、非常にしばしば外国へ、それもイラクであるとか、ソ連であるとか、遠い国に出稼ぎに行くということが起きました。

OIT:その時代背景は、作品にもリアルに反映されていて、監督の体験とも関わっているのでしょうか?
アダム・グジンスキ:答えはどちらかというとNOなんです。物語を作る必要性というかストーリーの必要性からむしろこの70年代を舞台にしたわけです。今日、仮に、同じようなドラマが起きていたとすれば、日々連絡を取り合うということも可能なわけです。ただ当時は、誰かがいなくなるということの不在感は、非常に強く感じられたわけです。簡単には連絡が取れなかったために、誰かが外国に行ってしまうっていうことは、その人がその生活から消えてしまうということと等しかったわけです。そういう中でこの奥さんが感じているある種の喪失感というものが、現代を舞台にするよりもはっきりした形で表せるんじゃないかと考えたわけです。それともう一つ、私自身が同じ時代を過ごしたかどうかという点で言うと、私が経験したのはもう少し後の時代なんです。80年代の始めぐらいにこの主人公と同じぐらいの年齢になったので、実際は70年代の終わりの頃はもう少し幼い年齢でした。とはいえ、80年代の始めにおいても外国との連絡が難しかったっていう状況は、あまり変わっていなかったので、そういう意味では関係があります。


『メモリーズ・オブ・サマー』
原題:Wspomnienie lata

6月1日(土)よりYEBISU GARDEN CINEMA、UPLINK吉祥寺ほか全国順次ロードショー

監督・脚本:アダム・グジンスキ
撮影:アダム・シコラ
音楽:ミハウ・ヤツァシェク
録音:ミハウ・コステルキェビッチ
衣装:ドロタ・ロケプロ
美術:グジェゴジュ・ピョントコフスキ
編集:マチェイ・パヴリンスキ
制作:マグダレナ・マリシュ
プロデューサー:ウカッシュ・ジェンチョウ、ピョトル・ジェンチョウ
出演:マックス・ヤスチシェンプスキ、ウルシュラ・グラボフスカ、ロベルト・ヴィェンツキェヴィチ

© 2016 Opus Film, Telewizja Polska S.A., Instytucja Filmowa SILESIA FILM, EC1 Lodz -Miasto Kultury w Lodzi

2016年/ポーランド/83分/カラー/DCP
配給:マグネタイズ

『メモリーズ・オブ・サマー』
オフィシャルサイト
http://memories-of-summer-movie.jp
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