Ziggy Films 70's vol.2『ナッシュビル』『天国の日々』



昨年、『バード★シット』『ハロルドとモード』をスクリーンに甦らせてくれたZiggy Films 70'sが、今年もやってくれる。去年の『バード★シット』に続いて、日本ではソフト化もされておらず中々見る機会のないアルトマンの大傑作のひとつ『ナッシュビル』が8/6から、今年のカンヌでパルム・ドールを受賞し世間を賑わした『トゥリー・オブ・ライフ』の公開を間近に控えたテレンス・マリック監督1978年の代表作『天国の日々』が8/27から上映される。 

いずれの作品も、アメリカ合衆国が標榜する"自由と民主主義"という巨大なテーマと格闘しながらも、イカロスの翼のように敗北する時もあれば(『バード★シット』)、小さな自我を打ち破ることに成功する場合もある(『ハロルドとモード』)、"政治"という茶番劇の本質を群像劇の中で色鮮やかに描いてみせたり(『ナッシュビル』)、善悪の河岸にある人間性というものについて遥かな思いを抱かせてくれる(『天国の日々』)もので、ここ数十年のハリウッド映画では見られない、映画の豊穣を味わわせてくれることは間違いない。 

そして、これらの作品で扱われている"自由"、"政治"、"善悪"といったテーマは、全く古びれることなく、常に今日的なアクチュアルなテーマとして、私たちの身の回りに在り続けていることも何ら変わりがない。『ナッシュビル』の若き日のリリー・トムリンの感動的な佇まい、『天国の日々』の"光と影のバラード"と謳われたネストール・アルメンドロスとハスケル・ウエクスラーの秀逸なシネマトグラフィ(ってことは映画全編ということになるが)を観るだけでもスクリーンの大画面で観ておきたい、永遠に不穏な名作の数々を是非この機会にお見逃すことなきよう!
(上原輝樹)
2011.8.5 update
『ナッシュビル』
8/6(土)~8/26(金)新宿武蔵野館ロードショー

『天国の日々』
8/27(土)~9/16(金) 新宿武蔵野館ロードショー 

公式サイト:http://nashville.sky-way.jp/
『ナッシュビル』

監督・製作:ロバート・アルトマン
脚色:ジョーン・テュークスベリー
撮影:ポール・ローマン
音楽編曲・監修:リチャード・バスキン
編集:シドニー・レビン、デニス・ヒル
キャスト:ヘンリー・ギブソン、リリー・トムリン、ロニー・ブレークリー、グウェン・ウェルズ、シェリー・デュバル、キーナン・ウィン、バーバラ・ハリス、スコット・グレンほか 

1975年/カラー/160分/原題:NASHVILLE
配給:日本スカイウェイ、アダンソニア

Robert Altman ロバート・アルトマン
人々が映画に抱く枠組みを超越した作品でつねに観客の思考を刺激し続けた映画作家。『M★A★S★H』 『ナッシュビル』『ザ・プレイヤー』『ショート・カッツ』『ゴスフォード・パーク』とアメリカのアカデミー監督賞史上最多の5度のノミネートに輝いた作品群が、その非凡な才能を物語っている。残念ながらオスカー受賞はかなわなかったが、賞と無縁だったわけではなく、『M★A★S★H』ではカンヌ国際映画賞のパルムドール、『ショート・カッツ』ではヴェネチア国際映画祭金獅子賞、『ビッグ・アメリカン』でベルリン国際映画祭金熊賞と世界の3大映画祭で最高賞を獲得。『ゴスフォード・パーク』でもイギリスのアカデミー作品賞に輝くなど、数多くの受賞歴を誇る。2006年には第78回アカデミー名誉賞を受賞。同年11月20日、がんによる合併症で逝去した。 

1925年2月20日ミズーリ州カンザス・シティ生まれ。ミズーリ大学を卒業後、第二次大戦では空軍パイロットとして従軍したが、ハリウッド近くの町に駐屯していたため映画業界に憧れを抱き、脚本を書き始めたといわれる。除隊後はミズーリでCMディレクターやラジオの脚本を書いていたが、50年代後半、ハリウッドで自主映画を製作。そのうちの1本『ジェームズ・ディーン物語』(57)が巨匠アルフレッド・ヒッチコックの目に留まり、TVドラマ「ヒッチコック劇場」「コンバット」の演出を任された。その後「ボナンザ」「コンバット」などTV作品を手掛けた後、1963年には独立プロダクションを設立、1968年には初の監督作品『宇宙大征服』を発表した。しかしこの作品で「俳優に同時にセリフを言わせた」として制作会社のジャック・ワーナーと対立、大幅な編集を余儀なくされた。しかし、そのドキュメンタルな構成こそアルトマンの真骨頂である。アルトマンはそのスタイルに磨きをかけ、70年の『M★A★S★H』でついにカンヌのグランプリを獲得、その後ニューシネマの傑作として名高い71年の『ギャンブラー』などで新しい西部劇のスタイルを生み出すなど、ハリウッドでも注目されるようになった。 

アルトマンの作品群は多彩である。上記作品のほか、メロドラマ風ギャング映画の『ボウイ&キーチ』(74)、フィルムノワールの『ロング・グッドバイ』(73)、伝記映画『ゴッホ』(90)、推理劇『ゴスフォード・パーク』(01)といったジャンルだけでなく、描かれる世界も『M★A★S★H』(70)の朝鮮戦争、『ナッシュビル』(75)のカントリー&ウェスタン、『ポパイ』(80)のコミック、『フール・フォア・ラブ』(85)の現代演劇、『ザ・プレイヤー』(92)のハリウッド、『ショート・カッツ』(94)の文学、『プレタポルテ』(94)のパリコレ、『ゴスフォード・パーク』(01)の貴族社会、『バレエ・カンパニー』(03)のバレエ、『今宵、フィッツジェラルド劇場で』(06)のラジオなど、作品ごとに舞台をかえている。また、『ナッシュビル』や『ショート・カッツ』のような「グランド・ホテル形式」のアンサンブル劇では俳優たちのアドリブを存分に引き出す演出に俳優からの期待は高く、全作品を通して、取り上げる音楽のセンスはもちろん、多元的なサウンドトラックやズームレンズの導入など、映画技法の革新性も高く評価された。それぞれのエピソードを積み重ねながらより大きな物語を描き出す壮大な構成力、細やかな描写でドライにアメリカ社会の矛盾をあぶりだすブラック・ユーモアなど、アルトマンならではの作品の魅力はどの作品でも変わることはなく、偉大な足跡を残した。アカデミー賞のほか、ヴェネチア国際映画祭、アメリカ映画協会、アメリカ監督組合、アメリカ撮影監督協会などで功労賞を受賞している。
ロバート・アルトマン フィルモグラフィー

1957
『ジェームズ・ディーン物語』
1962-63
『コンバット』(TV)
1968
『宇宙大征服』
1969
『雨に濡れた舗道』
1970
『M★A★S★H』
1970
『BIRD★SHT』
1971
『ギャンブラー』
1972
『イメージズ』
1973
『ロング・グッドバイ』
1974
『カリフォルニア・スプリット』
1974
『ボウイ&キーチ』
1975
『ナッシュビル』
1976
『ビッグ・アメリカン』
1977
『三人の女』
1978
『ウエディング』
1979
『クィンテット』
1979
『パーフェクト・カップル』
1980
『Health』
1980
『ポパイ』
1983
『ストリーマーズ/若き兵士たちの物語』
1985
『フール・フォア・ラブ』
1987
『突撃!O・Cとスティッグス/お笑い黙示録』
1987
『ニューヨーカーの青い鳥』
1987
『ベースメント』
1987
『アリア』
1988
『Tanner88』(TV)
1988
『軍事法廷/駆逐艦ケイン号の叛乱』(TV)
1990
『ゴッホ』
1992
『ザ・プレイヤー』
1993
『ショート・カッツ』
1994
『プレタポルテ』
1996
『ロバート・アルトマンのジャズ』(TV)
1996
『カンザス・シティ』
1997
『GUN/焔と弾道』(TV)
1998
『相続人』
1999
『クッキー・フォーチュン』
2000
『Dt.Tと女たち』
2001
『ゴスフォード・パーク』
2003
『バレエ・カンパニー』
2004
『Tanner on Tanner』(TV)
2006
『今宵、フィッツジェラルド劇場で』
『天国の日々』

監督・脚本:テレンス・マリック
製作統括:ジェイコブ・ブラックマン
製作:バート・シュナイダー、ハロルド・シュナイダー
撮影:ネストル・アルメンドロス
編集:ビリー・ウェバー
音楽:エンニオ・モリコーネ
衣装:パトリシア・ノリス
キャスト:リチャード・ギア、ブルック・アダムズ、サム・シェパードほか 

1978年/カラー/94分/原題:DAYS OF HEAVEN
配給:日本スカイウェイ、アダンソニア

Terrence Malick テレンス・マリック
1943年11月30日イリノイ州オタワ生まれ。父は石油会社の重役で、その関係でテキサスのワコーとオースティンやオクラホマのバートルスヴィルで育つ。ハヴァード大学を首席で卒業し、66年ローズ奨学生に選出されて渡英し、オックスフォード大学モードリン・カレッジに留学。その後、ケンブリッジのMIT philosophyで哲学を教えると共に、ジャーナリストとして「ニューズウィーク」「ライフ」「New Yorker」といった雑誌の記事を発表。69年ベヴァリー・ヒルズに新設されたAFIの映画学校 (American Film Institute Center for Advanced Film Studies)の第一期生となってデイヴィッド・リンチ、ポール・シュレイダーらと共に演出を学び、習作「Lanton Mills」を監督。ジャック・ニコルソンが監督作「Drive, He Said」(71)の脚本チェックをAIFの生徒に依頼したため、同作に無記名ながら携わる。以後、『ダーディ・ハリー』(71)などもチェックし、スチュアート・ローゼンバーグ監督のウェスタン「ポケットマネー」(72)ではTerry Malick名義で脚本にクレジットされ、1シーンに顔を見せた。続いてトニー・ビル製作「Deadhead Miles」の脚本も担当するも陽の目を見ず、自ら監督となる決心をする。

1973年、マーティン・シーン、シシー・スペイセク主演で殺人犯の逃亡劇を描く『バッドランズ』(地獄の逃避行) で長編監督デビュー。低予算のインディ映画として作られたが、NY映画祭で絶賛されるや大手ワーナー映画が配給権を獲得し、スマッシュ・ヒットとなる。74年はスペインのサン・セバスティアン映画祭でグランプリと男優賞をW受賞。その後、世界各国で公開されてカルト映画として愛好され、93年にはアメリカ国立映画登録簿の一本となり国宝として永久保存される程の高い評価を確立した。

その後、名義を変えて脚本などにも携わるが、78年には長編監督第2作である本作を完成させるや、高い評価を得、ナショナル・ボード・オブ・レヴューの作品賞、全米映画批評家賞とNY映画批評家組合賞の監督賞を受賞。翌年はゴールデン・グローブの作品賞と監督賞の候補となり、アカデミー賞は技術部門で4候補となり撮影賞に輝き、その美しさが世界の注目を集めることとなる。5月には遅ればせながらカンヌ映画祭の正式出品作に選ばれ、監督賞を受賞。その後、同映画祭ではこの映画のオープニングで使われたサン=サーンス作曲《動物の謝肉祭》の「水族館」が入場テーマとして使われることとなった。

これ以後、パリに移り、幾つかの台本執筆に取り組むが、実現にはいたらず、93年には溝口健二監督『山椒大夫』を舞台脚色し、アンジェイ・ワイダ演出で取り組むも、ワークショップの段階で留まり、本公演には至らなかった。

しかし、ジェイムズ・ジョーンズ原作による戦争映画『シン・レッド・ライン』(98)で久しぶりに監督に取り組むことが知れ渡るや、マリック映画のファンという男優陣がこぞって出演を希望。ショーン・ペン、ジョージ・クルーニー、ジョン・キューザック、ウディ・ハレルソン、ニック・ノルティ、ジョン・トラヴォルタら有名スターが役の大小を問わず名を連ねると共に、更にジム・カヴィーゼル、エイドリアン・ブロディ、ベン・チャップリンら若手も多数出演し、話題を集めた。翌年のベルリン映画祭で金熊賞を受賞し、アカデミー賞は無冠だったが監督賞、脚色賞を含む7部門で候補となるなど注目を集め、過去2作も再評価される。

以後は、エドワード・プレスマンと共にチャン・イーモウ監督『至福のとき』(02)、デイヴィッド・ゴードン・グリーン監督「アンダートウ 決死の逃亡」(04)、マイケル・アプテッド監督『アメイジング・グレイス』(06)といった作品の製作総指揮を担当。 05年はポカホンタスを描いた長編第4作『ニュー・ワールド』で映像表現が注目を集めた。最新作はブラッド・ピット、ショーン・ペン共演のファンタジー・ドラマ『ツリー・オブ・ライフ』で本年のカンヌ映画祭で見事最高賞であるパルムドールを受賞し話題になった。38年間に発表したわずか5本の作品で映画史に伝説を作り上げたマリックは、ベン・アフレック、ハビエル・バルデム、レイチェル・マクアダムズ、レイチェル・ヴァイスといった魅力的なキャストで、青年時代を過ごしたバートルスヴィルを舞台にしたタイトル未定の新作に取り組んでおり、早くも完成が待たれる。


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