OUTSIDE IN TOKYO
TALK SHOW

ボックスオフィスの彼方に ~興行の縁で映画を考える~
バーバラ・ローデン『Wanda』上映後のトークショー

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衰退するシネマテーク、シネクラブとポスト蓮實重彦

松井:明日のゲストである、アテネ・フランセ代表の松本正道さんにも聞いてみたいと思うんですけど、シネクラブが力を持っていた時代というのが確実に過去にあった。ところが今は本当に…。
坂本:ちょっとなんか古びれちゃったような感じはしますよね。
松井:なんか死語のような気さえしてしまう。シネクラブ、あるいはシネクラブ的な何かの衰退は、映画がより産業だけのものになっていくこととリンクしていると思います。でも、じゃあ映画上映は経済の論理だけじゃないと叫んだところで、いま現場レベルの映画館の方に話を聞くと相当苦しい状況を強いられていて、どうしたってお客の見込める映画をやらざるをえないわけで……。
坂本:でも、どんな作品ならお客が来るのかっていうことを彼らは確実に知ってるわけではないわけです。渋谷のある劇場の方に相談を受けた時に、前とは明らかに客層が違ってきてお客も入らなくなったっていう風におっしゃられて、どうしたもんかなって相談された時に、漠然とこういう作品だから人が入るからやるっていうんじゃ、もう駄目なんじゃないかと思ったんですよね。やっぱりそこで上映する本人がいかにその作品を信じてやっているか、ちょっと精神論みたいになってしまうけど、でも結局シネコンで公開し、テレビでばんばんCM流してやっていける映画じゃない部分を自分が引き受けてやるんだったら、あとはもうその作品を本当に好きで人が入るかどうかを、漠然とイメージがあってやるんじゃなくて、毅然としてやらないともう無理だと思うんですよね。
松井:堀越謙三さんがこんなことをおっしゃっていたんです。なんか最近さ、面白がり度が足りないよねと。これが面白い、なんだかよく分からないけど面白いぜ!という熱気が、とりわけメディア側に足りないんじゃないかと。80年代~90年代初頭の方が、断然その面白がり度が強かったとおっしゃっていました。
坂本:なんか声を上げることにさえちょっとびびってる感じなのか、単にびびってるとかじゃなくてなんとなくぼやけてるのか分らないんですけど、なんか何かが良いって言うのって勇気がいると思うんですよね。日本の場合、やはり大きいあの方が、Hさんが常に先頭をきってやってきてくれちゃった気がする。
松井:名前出しても問題ないですよ(笑)。
坂本:ああそうか、蓮實さんですね。未だにやっぱり宣伝の方とかに蓮實さんにコメントもらいたいんですけどって。あ、じゃあ聞いてみたらどうですかって。蓮實さんも結構好きだったらやってくれちゃったりするんですが、今でもまだ蓮實さんに頼んでるのってやばいんじゃないのって、蓮實さんいなくなってしまったらどうするんだよ、って思いますね。
本当、怖くなりますね。蓮實さんの言葉はもちろん私もずっと聞き続けたいんだけど、未だに蓮實さんにここまで頼らざるをえないこの状況っていうのが怖くなりますね。あえて扇状的なこと言うじゃないですか、これを観なければ死ねないみたいな。
松井:いまでもときどき映画チラシの表面に書いてありますね。
坂本:これを観なければ21世紀はどうのこうのみたいなのとか言っちゃうわけじゃないですか。で、ああそうなんだって、結局みんなそれ観に行くみたいな。
松井:実際にお客さんが動きますからね。
坂本:未だにね。だからちょっとミニ蓮實がいっぱい出来た方がいいんじゃない(笑)。
松井:蓮實さんの言葉で動く世代は、おそらく30より上の方たちだと思います。だからそれより下の世代、たとえば20代前半の大学生なんかを動かす言葉やメディアは何なのか。いまtwitterなんてものが流行ってますが、それもどれほどの効果があるのか、いまいちよくわからないし……。
坂本:松井さん、頑張って下さい。

フランス映画の状況

松井:ここ数年、いやここ10年ぐらいでしょうか、本当にフランス映画が日本に入って来なくなりました。フランス映画、ひいてはヨーロッパ映画というものは、アメリカ映画とは別種の価値を持つものとして日本でそれなりに受け入れられていたのが、いつの間にか「第三世界の映画」というか、ワールドミュージックと同じ意味での「ワールドシネマ」の一種類みたいになってしまった感があるんです。1年に数本あれば十分でしょ?みたいな。
坂本:フランスの中でも例えば去年のベスト10とか、「カイエ・デュ・シネマ」とか、「Les Inrockuptibles」とかもフランス映画はほとんど無いんです。なんか少し、みんな飽きてるのか、フランス映画というものに。でも私はそんなことはないと思うんですよね。流行りとかもあるので。でも日本映画は正直、世界的にあまり目を向けてもらえない状況にあります。これは本当に正直言って焦ってほしいぐらいなんだけど、日本の例えば政府関係の人とか文化庁の人にしても映画業界の人にしても、とにかく目が内に向いているから、別に国際映画祭に日本映画が行かなくてもそんなに焦ったりはしてないし、私もそんなに愛国主義なわけでもないけど、こんなに目を向けられなくなっていくと、本当にどんなにいい作品が生まれても、観てもらえる機会が本当になくなっていくんですよ。それはもう肌で感じてますね。だからそれは本当に動かしていかないと、誰かが。少し手を携えて何かしないといけないなっていう危機感がある。フランス映画はじゃあどうなのかって思うと、フランス映画もちょっと似たような状況にあるのかもしれない。
松井:どこの国も同じ状況なのかもしれないですね。
坂本:今は、韓国や中国に目が向いているし、やっぱり元気な感じはしますよね。あと、アピチャポンとかのお陰もあるけどタイとかマレーシアとかの方に目が向いている。ヨーロッパだと、ドイツなどにまた目が向いてたりとかっていうのはありますよね。国単位で考えるのはおかしいという意見もあると思うんだけど、やっぱりそういう現実っていうのはありますね。今ここで動いてるっていうのを、なんかみんなこうイメージとして持ってしまう部分があるんですよ。だから私はフランスの中でも、私の中ではここら辺は絶対面白いから観てみたいって思う部分はあるけれども、全体的に言えばフランス映画って今そんなに面白いの?みたいな感じになってしまっているかなとは思います。でもそこで、じゃあ観なくていいやって思っちゃったらお終いだから、だからドミニク・パイーニとも話すんですけど、この国駄目だよね、この監督駄目だよねっていうのは言わない方がいい。絶対どこかでポロッと面白い作品があったりするし、同じ監督の作品の中でも。×をずっとつけておかない方がいい。だからいわゆる100%作家主義的な見方はしないで、こんなに糞味噌に言われた監督がこんな面白い映画撮っているってことだって絶対あり得るんだぞっていうことを忘れちゃいけないよって彼から教えてもらいました。だから国にしても作家にしても、絶対駄目なんてことはないっていう意味で見続けることが大事かなぁと思っていますね。

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