アメリカを撃つ 孤高の映画作家ロバート・クレイマー



60年代、70年代、動乱期のアメリカを見つめた『アイス』(69)と『マイルストーンズ』(75)が、40年の歳月を経てオリジナル16ミリニュープリントで劇場初公開される。東京日仏学院で行われた2011年の「鉛の時代 映画のテロリズム」、2012年の「カプリッチ・フィルムズ ベスト・セレクション 先鋭的であること:映画批評の現在とは」で上映されたものの、いずれも見逃してしまった(私のような)者にとって、ついに贖罪の機会が訪れる。アルドリッチの『合衆国最後の日』(77)を、そして、チミノの『天国の門』(80)をスクリーンで体験した21世紀の観客は、"いわゆる「68年」的なもの"(2013年9月号「群像」映画時評、蓮實重彦)の理念を頭で理解するために、ではなく、その時代を生きた人々の官能と息吹を感じるために、何よりも、ロバート・クレイマーという映画作家の作品をスクリーンで体験することのために、今回ばかりは、劇場に駆けつけなければならないと思う。
(上原輝樹)
2013.8.7 update
8月10日(土)〜ユーロスペースにて2作品一挙公開!
会場:ユーロスペース 
料金:一般1,700円、大学・専門学校生1,400円/会員・シニア1,200円/高校生800円/中学生以下500円
特別鑑賞券発売中! 1回券1,400円/2回券2,500円
※ 2回券はユーロスペース窓口のみでの販売となります 

公式サイト:http://cinematrix.jp/RK/
上映スケジュール
8月10日(土)~16日(金)
12:20
マイルストーンズ
(206分)
16:25
アイス
(132分)
19:00
マイルストーンズ
(206分)
8月17日(土)~23日(金)
13:15
アイス
(132分)
16:00
マイルストーンズ
(206分)
20:00
アイス
(132分)
8月24日(土)~30日(金)
12:20
マイルストーンズ
(206分)
16:25
アイス
(132分)
19:00
マイルストーンズ
(206分)
*16ミリフィルムのリール交換のため『マイルストーンズ』は途中休憩が入ります
*『アイス』『マイルストーンズ』は入替制となります
上映プログラム

『アイス』
1969年/アメリカ/英語/モノクロ/132分/16mm
製作:モニュメント・フィルム(デヴィッド・C・ストーン)、アメリカン・フィルム・インステュート、ニューズリール 監督:ロバート・クレイマー
撮影:ロバート・マコーヴァー
編集:ロバート・マコーヴァー、ノーマン・フラクター
録音:ノーマン・フラクター
出演:トム・グリフィン、ポール・マクアイザック、ロバート・クレイマー、ハワード=ローブ・ハブーフ、ブレッド・アンド・パペット、ダン・タルボット、デヴィッド・C・ストーン、バーバラ・ストーン、ジョナス・メカスほか 

近未来、若き革命家たち――革命組織全国委員会のメンバーが潜伏状態から抜け出すためにゲリラ活動を開始する。その頃メキシコでは解放戦線がアメリカ政府相手に抗争を続けている。目標は白人の革命家たちが黒人、プエルトリコ人、メキシコ人と同盟することだが、同じように搾取された犠牲者たちでありながら、彼らは互いを理解し合うことができない。委員会のリーダーは革命家たちは自らの自信のなさや疑い、恐怖に直面しなければならないことに気づく。そして革命的な攻撃活動が勃発。さまざまな行動がエスカレートしていく------ 体制批判の新聞が発刊される。陸軍の大佐が暗殺される。製油所が爆破される。刑務所やラジオ・テレビの放送局が襲撃される。------警察がグループのリーダーを抹殺し、ジムという名の人物が後を継ぐ。彼は電話で同志のひとりに指令を出す。次なる決定的な闘いが始まると・・・
69年のヴェトナム戦争が泥沼化する時代状況を鮮烈なフィクションとして描いた。
『マイルストーンズ』
1975年/アメリカ/英語/カラー/206分/16mm
製作:バーバラ・ストーン、デヴィッド・C・ストーン、ニューヨーク・シネマ
監督・脚本・撮影・編集:ロバート・クレイマー
共同監督:ジョン・ダグラス
照明:フィリップ・スピネッリ
録音:ジェーン・シュウォーツ、フィリップ・スピネッリ
記録・整音:マリリン・マルフォード
出演:G・W・アボット、アンバー・アン、ローレル・バーガー、ノア・バーガー、デヴィッド・バーンスタイン、ボビー・ビークラー、カーター・キャンプ、メリー・チャペル、ポーラ・チャペル、エリザベス・ディア、ジョン・ダグラス、エリカ・クレイマーほか 

ひとつの時代が終わり、そこに新しい誕生の可能性が示唆される、"運動"の世代の自画像。50人を超える登場人物からなる6つの物語が互いに干渉を繰り返しつつ巨大なモザイクを作り出す。背景に広がるのは「ユタの雪を被った山々から、自然がモニュメント・ヴァレーに作り出した彫刻まで、ホピ・インディアンの洞窟からニューヨーク・シティの汚れと埃まで」の壮大なキャンヴァス。アメリカの左翼ラディカルの生き残りたちの生活と生きざまが、政治的にも個人としても変化に直面した人々の社会の質感の中に入り込み、複雑にからみ合う、1970年代を代表する傑作。ロバート・クレイマー後期の代表作「ルート1/USA」は『マイルストーンズ』の続編とみなされている。
「『マイルストーンズ』は火=空気=土=人間だ。それは70年代のアメリカを見つめると同時に、過去へ、そして未来へと旅する。これは再び誕生することについての映画だ―思想が、顔が、映像が、そして音が再び誕生することについての映画である。」------ロバート・クレイマー、ジョン・ダグラス(トリノ映画祭'97 カタログより転載)
ロバート・クレイマー
1936年ニューヨーク生まれ。1960年代のヴェトナム反戦と若者たちの反逆のうねりのなかで、ジョン・ジョストらと共に映像による左翼前衛闘争集団"ニューズリール"の結成メンバーとなり、集団制作により4年間に50本の作品を発表。その後もドキュメンタリーとフィクションの境界線上に現代社会の本質を政治的・批評的立場から見つめる作品を発表し続けた。80年代からはパリに在住。ヨーロッパにもその視野を広げ、長編だけでなく短編やビデオ作品も手がけた。82年にはヴィム・ヴェンダース監督『ことの次第』の脚本を共同で執筆している。
1999年に急逝。1989年の「ルート1/USA」は、山形国際ドキュメンタリー映画祭'89で最優秀賞を受賞。山形には1997年に審査員として再来日し、没後の2001年に特集上映が行われた。
ロバート・クレイマー フィルモグラフィー

1965年
『FALN』
1966年
『イン・ザ・カントリー』
1967年
『エッジ』
1969年
『アイス』
『人民の戦争』
1975年
『マイルストーンズ』 共同監督:ジョン・ダグラス
1977年
『ポルトガルにおける階級闘争からのいくつかの情景』 共同監督:フィリップ・スピネッリ
1980年
『ガンズ』
1981年
『誕生』
1982年
『全速力で』
1983年
『恐怖』
1984年
"Notre nazi/Unser Nazi"(われらのナチ)
1985年
『ディーゼル』
1986年
"Un plan d'enfer"(地獄の計画)
1987年
『ドクス・キングダム』
"X−Country"
(X-カントリー)
1989年
『ルート1/USA』
1990年
『ディア・ドク』
"Maquette"
(下絵)
1991年
『ベルリン 90年10月』
『ビデオ書簡:ロバート・クレイマーとスティーヴン・ドウォスキン』
『風下にて』
『フィデル・イントゥスカ・フェルナンデスのために』
(政治犯釈放キャンペーンの公共映画「忘却に抗って」の一本)
1993年
『スターティング・ポイント』
"Greg Lemond USA/Andrew Hampston USA"
(グレッグ・レモンド/アンドリュー・ハンプトン)(サイクリストに関するTVシリーズ「車両」の二本)
1995年
『ウォーク・ザ・ウォーク』
1996年
『マント』
1997年
『ゴースト・オブ・エレクトリシティ』(オムニバス映画「ロカルノ半世紀:未来の反省」の一本)
1998年
『セイコムサ』
1999-2000年
『平原の都市群』


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