ポルトガル映画祭2010 マノエル・ド・オリヴェイラとポルトガル映画の巨匠たち



7月26日にアテネ・フランセで行われたプレイベント「ペドロ・コスタ×ポルトガル映画史」では、オリヴェイラ監督の長編第一作『アニキ・ボボ』が上映され、その後、ペドロ・コスタによるポルトガル映画史のレクチャーが行われた。当日は、立ち見客まで出る盛況で、満席の会場は暑い熱気に包まれた。
2000年の「パウロ・ブランコと90年代ポルトガル映画」以来、10年振りとなる今回のポルトガル映画祭2010では、ペドロ・コスタがポルトガル映画史上4人の最重要人物として挙げた内の、3人の作品をスクリーンで観ることができる。その3人とは、(もちろん)オリヴェイラ、そして、ジョン・セザール・モンテイロ、アントニオ・レイスなのだが、残るもうひとりは「ポルトガルにおける蓮實先生的存在」とペドロが語る映画評論家ジョアン・ベナール・ダ・コスタ。ペドロの言う通り、彼の著作は残念な事にほとんど日本語に翻訳されていないのが現状だが、僅かに訳出されている「マノエル・ド・オリヴェイラと現代ポルトガル映画」(エスクァイア マガジン ジャパン)のオリヴェイラ論には目を通して、大充実の映画祭に臨みたいところ。

<以下、リリースより転用>
2010年は、日本とポルトガルが近代的な外交関係を樹立して150年の記念の年です。 日本とポルトガルとの交流は1543年の種子島鉄砲伝来にまで遡り、ポルトガルは欧州諸国の中で、日本と最も長い歴史を有する国です。こうした伝統的な両国関係は、1860年8月3日の修好通商条約締結をもって、今日に繋がる近代的な関係を樹立し、新しい時代を迎えました。
コミュニティシネマセンターでは、この記念の年に、東京国立近代美術館フィルムセンター、ポルトガル大使館と共同で、ポルトガルの優れた映画作品を上映する「ポルトガル映画祭2010」を開催し、ポルトガルの文化や芸術に対する理解を深める機会としたいと考えております。
日本でポルトガル映画が上映される機会は限られていますが、百歳をこえるいまも現役で映画を作り続ける巨匠マノエル・ド・オリヴェイラ監督の作品は1990年代以降、ほとんどの作品が劇場公開され、多くのファンを獲得しています。また、『ヴァンダの部屋』『コロッサル・ユース』が劇場公開されたペドロ・コスタ監督は若い映画ファンの間である種カルト的な人気を博しています。今回の映画祭では、これらの監督に加えて、これまで公開が熱望されながら実現しなかったジョアン・セーザル・モンテイロ監督作品をまとめて上映するほか、国際的に注目を集めつつある若い監督の作品なども紹介し、ポルトガル映画の魅力に触れていただけるものとしたいと考えています。
この映画祭は、また、当センターが全国各地の映画専門施設(シネマテーク)と共同して行うシネマテーク・プロジェクトの第3弾として位置づけられるもので、東京での開催後、全国10会場に巡回する予定です。
2010.8.25 update
2010年9月17日(金)~10月3日(日) ※9月20日(月)、27日(月)は休館日
料金:一般:1,300円 大学・高校生・シニア(65歳以上):1,100円 小・中学生:500円
障害者(付添者は原則1名まで):500円 キャンパスメンバーズ:学生900円/教職員1,000円
●リピーター割引
本特集のチケット半券のご提示により入場料が割引(一般=1,100円、大学・高校生・シニア=1,000円)になります。
(1枚につき1名様、1回まで有効)
発券:2階受付
※チケットは当日、当該回のみ有効です。
※発券・開場は開映の30分前から行い、定員に達し次第締切となります。
※学生、シニア(65歳以上)、障害者、キャンパスメンバーズの方は、証明できるものをご提示ください。
※発券は各回1名につき1枚のみです。
定員:310名(各回入替制)
※やむをえない事情により作品及び上映時間が変更される場合がございます。
※開映後の入場はできません。
お問合せ:コミュニティシネマセンター TEL: 050-3535-1573
公式サイト:http://www.jc3.jp/portugal2010/

主催:東京国立近代美術館フィルムセンター、一般社団法人コミュニティシネマセンター(シネマテーク・プロジェクト)、
ポルトガル大使館
特別協力:カモンイス院、川崎市市民ミュージアム、シネマテッカ・ポルトゲーザ
後援:社団法人日本ポルトガル協会、ポルトガル映画・映像院
協力:アテネ・フランセ文化センター/岩波ホール/川喜多記念映画文化財団/シネマトリックス/ユーロスペース/
特定非営利活動法人映画美学校
上映スケジュール
    
9月17日(金)
15:00
アニキ・ボボ
(71分)
19:00
春の劇
(94分)

9月18日(土)
11:00
青い年
(87分)
14:00
新しい人生
(94分)

17:00
過去と現在
昔の恋、今の恋
(115分)
9月19日(日)
11:00
恋の浮島
(169分)
14:30
トラス・オス
・モンテス

(108分)
17:00
カニバイシュ
(91分)


9月20日(月)

休館日


9月21日(火)
15:00
神曲
(141分)

19:00
黄色い家の
記憶

(122分)
9月22日(水)
15:00
アブラハム
渓谷

(188分)
19:00
ラスト・
ダイビング

(88分)
9月23日(木・祝)
11:00

(94分)

13:30
神の結婚
(142分)

17:00
階段通りの人々
(96分)


9月24日(金)
15:00
私たちの好きな八月
(147分)
19:00
トランス
(126分)

9月25日(土)
11:00
黄色い家の
記憶

(122分)
14:00
ラスト・
ダイビング

(88分)
16:30
神の結婚
(142分)


9月26日(日)
11:00
アニキ・ボボ
(71分)

14:00
春の劇
(94分)

17:00
過去と現在
昔の恋、今の恋

(115分)
9月27日(月)

休館日


9月28日(火)
15:00
青い年
(87分)

19:00
新しい人生
(94分)

9月29日(水)
15:00
恋の浮島
(169分)

19:00
階段通りの人々
(96分)
9月30日(木)
15:00
トラス・オス
・モンテス

(108分)
19:00

(94分)

10月1日(金)
15:00
アブラハム
渓谷

(188分)
19:00
神曲
(141分)

10月2日(土)
11:00
カニバイシュ
(91分)

13:30
私たちの好きな八月
(147分)
17:00
トランス
(126分)

10月3日(日)
11:00
黄色い家の
記憶

(122分)
14:00
春の劇
(94分)

17:00
トラス・オス
・モンテス

(108分)
上映プログラム

『アニキ・ボボ』
原題:Aniki Bóbó
1942年/71分/モノクロ
監督・脚本:マノエル・ド・オリヴェイラ
撮影:アントニオ・メンデス
出演:ナシメント・フェルナンデス、フェルナンダ・マトス、オラシオ・シルヴァ 

オリヴェイラの長篇デビュー作。陽光降り注ぐポルトの街を舞台に、躍動するアナーキーな少年少女たちを縦横無尽に活写してネオレアリズモの先駆的作品と見なされる。「アニキ・ボボ」とは警官・泥棒という遊びの名前。 幼い恋の冒険を「罪悪」と「友愛」の寓意へ変貌させる演出のスケール感はすでにして巨大。
『春の劇』
原題:Acto de Primavera
1963年/94分/カラー
監督・脚本・撮影:マノエル・ド・オリヴェイラ
出演:ニコラウ・ヌネス・ダ・シルヴァ、エルメリンダ・ピレシュ、マリア・マダレーナ 

16世紀に書かれたテキストに基づいて山村クラリャで上演されるキリスト受難劇の記録。自ら「作品歴のターニングポイント」と述べる本作でオリヴェイラが発見したのは「上演=表象の映画」という極めて豊かな鉱脈だった。一見して不自然な「虚構」のドキュメントだけが喚起する謎と緊張。前人未踏の「映画を超えた映画」の始まり。
『過去と現在 昔の恋、今の恋』
原題:O Passado e o Presente
1972年/115分/カラー
監督・脚本:マノエル・ド・オリヴェイラ
撮影:アカシオ・ド・アルメイダ
出演:マリア・ド・サイセット、マヌエラ・ド・フレイタス、ペドロ・ピニェイロ 

長篇劇映画第三作。ヴィンセンテ・サンチェスの同名戯曲を監督が自ら映画用に翻案。『フランシスカ』に至る「挫折した愛の四部作」の第一部にあたる。現在の夫に心を開かず、事故死した最初の夫への想いを募らせる妻ヴァンダを中心に、過去と現在、死者と生者の間を交差する奇妙な愛が描かれる。
『カニバイシュ』
原題:Os Canibais
1988年/91分/カラー
監督・脚本:マノエル・ド・オリヴェイラ
撮影:マリオ・バローゾ
出演:ルイス・ミゲル・シントラ、レオノール・シルヴェイラ、ディオゴ・ドリア 

『過去と現在』から音楽を担当してきたジョアン・パエスとともに作られたオペラ・ブッファ映画。厳かに進行する貴族たちの晩餐会は、やがて、タイトルが予告する驚愕の食人場面へ。人間と動物、人間と機械、見せかけと本質・・・・・・ ヴァイオリンの調べに乗ってあらゆる境界が軽々と犯される。
『神曲』
原題:A Divina Comédia
1991年/141分/カラー
監督・脚本:マノエル・ド・オリヴェイラ
撮影:イワン・コゼルカ
出演:マリア・ド・メデイロス、ミゲル・ギリェルメ、ルイス・ミゲル・シントラ

「精神を病める人々の家」の表札が掲げられた邸宅で、アダムとイブ、キリスト、ラスコリーニコフ、 ニーチェのアンチ・キリストら歴史的文学作品の登場人物たちが、信仰と理性と愛についての議論を戦わせる。西洋古典の深奥に分け入りながらも「まったく未知なものとして、絶対的な驚き」とともに再び映像として蘇らせるオリヴェイラ芸術の真骨頂。
『アブラハム渓谷』
原題:Vale Abraão
1993年/188分/カラー
監督・脚本:マノエル・ド・オリヴェイラ
原作:アグスティナ・ベッサ=ルイス
撮影:マリオ・バローゾ
出演:レオノール・シルヴェイラ、セシル・サンス・ド・アルバ、ルイス・ミゲル・シントラ

フロベール『ボヴァリー夫人』をもとにポルトガル文学の巨匠アグスティナ・ベッサ=ルイスが原作を執筆。彫琢された言葉の響きとオリヴェイラの完璧な映像が火花を散らす"文芸映画"の最高峰。監督が追求し続ける女性美が、主人公エマを演じるレオノール・シルヴェイラと洗濯女を演じるイザベル・ルトの両極に具現する。
『階段通りの人々』
原題:A Caixa
1994年/96分/カラー
監督・脚本:マノエル・ド・オリヴェイラ
撮影:マリオ・バローゾ
出演:ルイス・ミゲル・シントラ、ベアトリス・バタルダ、フィリペ・コショフェル

リスボンの街路を舞台にした群像劇。「すべての私の映画同様、『階段通りの人々』は人生から沸きだした特別な何かだ。それは貧しくて周縁にいる、ほとんど忘れられた人々の目を通した真の人間性のポートレイトだ。これは1920年代の映画、初期映画への回帰を示す映画なのだ」。

マノエル・ド・オリヴェイラ Manoel de Oliveira
1908年12月11日ポルト生まれ。31年に前衛記録映画『ドウロ河』を発表。42年には劇場用長篇『アニキ・ボボ』を作るが、その後、サラザール独裁政権下で長期間の沈黙を強いられる。63年に長篇第二作『春の劇』を作るも、上映直後に投獄される。70年代から映画製作の環境が好転すると『フランシスカ』(81)、上映時間6時間40分の大作『繻子の靴』(85)、『神曲』(91)など西洋古典芸術の深奥から力を汲む傑作群を連作。「世界で最も偉大な映画作家」として敬愛される。90歳を超えても毎年一本という驚異的なペースで新作を発表し続け、その映像は年を重ねるごとに自由と瑞々しさを増してゆく。今年のカンヌ映画祭には新作『アンジェリカの奇妙な事件』O Estranho caso de Angélica を出品。満場の喝采で迎えられた。
『黄色い家の記憶』
原題:Recordações da Casa Amarela
1989年/122分/カラー
監督・脚本:ジョアン・セーザル・モンテイロ
撮影:ジョアン・ペドロ・ベナール・ダ・コスタ
出演:ジョアン・セーザル・モンテイロ、マヌエラ・ド・フレイタシュ、ルイ・フルタド

強烈な存在感で見る者を魅了してやまない痩身の中年男デウス(神)をモンテイロが愉快に自作自演した「ジョアン・ド・デウス」シリーズの第一作。姦淫、盗みなどの悪行に身を任せる天衣無縫のデウスの足跡が、そのままモラリスト的人間考察へと転じる。サッシャ・ギトリやバスター・キートンと比肩する偉大な個性を世界に印象づけた傑作。
『ラスト・ダイビング』
原題:O Último Mergulho
1992年/88分/カラー
監督・脚本:ジョアン・セーザル・モンテイロ
撮影:ドミニク・シャピュイ
出演:ファビエンヌ・バブ、ディニス・ネト・ジョルジュ、エンリケ・カント・イ・カストロ

死を想い波止場で淋しげにたたずむ青年に、老人が声をかける。実は自分も人生に飽きている。最後に街に繰り出し存分に遊び、それから死ぬことにしようじゃないか......。ネオン煌めく夜のリスボンで繰り広げられる歌と踊り、酒と官能の宴。絶望と引き替えに許された、底抜けに大らかな人生賛歌。
『神の結婚』
原題:As Bodas de Deus
1999年/142分/カラー
監督・脚本:ジョアン・セーザル・モンテイロ
撮影:マリオ・バローゾ
出演:ジョアン・セーザル・モンテイロ、リタ・デュラン、ジョアナ・アゼヴェド 

「ジョアン・ド・デウス」シリーズの最終作。「神の使い」から突如巨万の富を与えられたデウスは、それ幸いとばかりに自分の欲望を解禁する。実現した夢のような生活はしかし突如終息し、デウスは自分が破滅しているのを知る......。社会秩序の無効性を一方的に宣告するサド的な放縦さ。欲望と自由をめぐる孤高の省察。

ジョアン・セーザル・モンテイロ João César Monteiro
1939年2月2日フィゲレイダフォス生まれ。反体制的かつ無信仰的に育つ。63年に奨学金を得て渡英。ロンドン・フィルム・スクールで映画制作を学ぶ。60年代には映画批評誌で健筆を振るう。ラウラ・モランテ主演の『海の花』 Á Flor do Mar(86)がサルソ・マッジョーレ映画祭で上映され、審査員特別賞を受賞。 89年に漁色と放縦に走る反-聖人デウスを自ら演じ、映画史上に屹立する傑作『黄色い家の記憶』を完成させる。同作はヴェネツィア国際映画祭の銀獅子賞を獲得し、オリヴェイラに続くポルトガル映画の巨匠として認知される。『ラスト・ダイビング』(92)、『J.W.の腰つき』(97)などの意欲作を次々と発表するも、 2003年2月3日リスボンで惜しまれつつ癌により死去。 03年の『行ったり来たり』Vai e Vem が遺作となる。
『青い年』
原題:Os Verdes Anos
1963年/87分/モノクロ
監督:パウロ・ローシャ
脚本:ヌーノ・ブラガンサ、パウロ・ローシャ
撮影:リュック・ミロ
出演:ルイ・ゴメス、イザベル・ルト、パウロ・レナート

パリで映画を学び帰国したパウロ・ローシャの監督第一作。田舎からリスボンへ移り住み新生活を始めた若者ジュリオの恋心と孤独を清冽に描く。ロケーション撮影、省略と飛躍が印象的な、「ノヴォ・シネマ」(新しい映画)の嚆矢となる重要作。ポルトガルを代表する美人女優イザベル・ルトの初々しい佇まいが魅力的。
『新しい人生』
原題:Mudar de Vida
1966年/94分/モノクロ
監督・脚本:パウロ・ローシャ
台詞:アントニオ・レイス
撮影:エルソ・ロク
出演:ジェラルド・デル・レイ、マリア・バローゾ、イザベル・ルト

ローシャの監督第二作。ポルトガルの漁村を舞台に、兵役から戻った主人公が挫折を経て、人生を再出発させるまでの軌跡を描く。村民たちの漁の様子、麦わらや砂集めなどの労働が、モノトーンの映像で丹念に積み重ねられる。従来の劇映画のストーリーテリングとは一線を画す、偏心的構成が斬新な佳作。
『恋の浮島』
原題:A Ilha dos Amores
1982年/169分/カラー
監督・脚本:パウロ・ローシャ
撮影:岡崎宏三、アカシオ・ド・アルメイダ、エルソ・ロク
出演:ルイス・ミゲル・シントラ、クララ・ジュアナ、三田佳子

14年の歳月をかけて作られた日本―ポルトガル合作映画。日本で暮らした作家ヴェンセスラオ・ド・モラエス(1854~1929)の波瀾の生涯を描く。ポルトガルと日本、中国の古典文学を換骨奪胎し、東洋と西洋ふたつの精神が交差する。ローシャの奔放な想像力が生み出した過剰なる問題作。

パウロ・ローシャ Paulo Rocha
1935年ポルト生まれ。大学では法律を専攻しながらシネクラブで積極的な活動を展開する。パリのIDHEC(高等映画学院・現FEMIS)監督科で学び、卒業後はジャン・ルノワール『捕えられた伍長』(62)、オリヴェイラ『春の劇』(63)の助監督を務める。63年に初監督作『青い年』を発表。国際的な成功を収め、ポルトガルの新しい波「ノヴォ・シネマ」の旗手と目される。第二作はリアリズム映画の佳作『新しい人生』(66)。82年には14年の歳月をかけた日本-ポルトガル合作映画『恋の浮島』を発表(82)。1975年から83年までは在日ポルトガル大使館文化担当官として東京で暮らし、親日家としても知られる。98年には、60年代に書いていた台本をもとに劇映画『黄金の河』を監督している。
『トラス・オス・モンテス』
原題:Trás-os-Montes
1976年/108分/カラー、モノクロ
監督・脚本:アントニオ・レイス、マルガリーダ・コルデイロ
撮影:アカシオ・ド・アルメイダ
出演:トラス・オス・モンテスの住民たち

ポルトガル現代詩を代表するアントニオ・レイスが、マルガリーダ・コルデイロと共に作った初長篇。川遊びなどにうち興じる子供たちの姿を中心に、遠い山奥のきらきらと輝く宝石のような日々を夢幻的な時間構成により浮かび上がらせる。公開当時、フランスの批評家たちを驚嘆させ、後にペドロ・コスタ監督にも影響を与えたという伝説的フィルム。

アントニオ・レイス、マルガリーダ・コルデイロ António Reis, Margarida Cordeiro
1927年ヴァラダレス生まれ。映画界に入る前はポルトガル現代詩を代表する詩人として知られていた。50年代末にポルトのシネクラブで実験映画Auto de Floripes を共同監督。オリヴェイラの『春の劇』(63)に助監督として参加。撮影場所のトラス・オス・モンテス地方は、後に自ら題材として再三取り上げられることになる。60年代から国立映画学校で講座を受け持ち、ペドロ・コスタらを指導。70年代からは、精神科医のマルガリーダ・コルデイロと共同で、四本の伝説的な名作を手がける。74年の『ジャイメ』Jaime、76年の『トラス・オス・モンテス』、85年の『アナ』Anna、89の『砂漠の薔薇』Rosa de Areia である。1992年に死去。
『骨』
原題:Ossos
1997年/94分/カラー
監督・脚本:ペドロ・コスタ
撮影:エマヌエル・マシュエル
出演:ヴァンダ・ドゥアルテ、ヌーノ・ヴァス、マリア・リプキナ

現代映画の最前線をひた走るペドロ・コスタの長篇第三作。リスボン近郊のスラム街フォンタイーニャス地区を舞台に、貧困と無気力にうちひしがれる若者たちの生を透徹した眼差しで描く。劇映画の枠組みを多分に残して作られたコスタ最後のフィルムであり、物語を食い破るように突出するショットの残酷な輝きが際立つ。

ペドロ・コスタ Pedro Costa
1959年生まれ。リスボン大学で歴史と文学を専攻。青春時代はロックに傾倒する。国立映画学校に学び、とりわけアントニオ・レイスに師事。卒業後ジョアン・ボテーリョらの作品にスタッフとして参加しつつ、1987 年、短篇作品『ジュリアへの手紙』Cartas a Júlia を監督。長篇作品『血』(89)、『溶岩の家』(95)、『骨』(97)を発表。大胆かつ尖鋭的な映像構成で世界を瞠目させる。その後、土地とそこで生活する住人との、親密で息の長い関係から映像を紡ぎ出す独自の路線へ舵を切り、『ヴァンダの部屋』(00)、『コロッサル・ユース』(06)などの傑作群を完成させる。最新作はフランス人女優ジャンヌ・バリバールの音楽活動を記録した『何も変えてはならない』(09)。
『トランス』
原題:Transe
2006年/126分/カラー
監督・脚本:テレーザ・ヴィラヴェルデ
撮影:ジョアン・リベイロ
出演:アナ・モレイラ、ヴィクトル・ラコフ、ロビンソン・ステヴニン

サントペテルブルグで暮らしていたソーニャは、より良い暮らしを求めて西ヨーロッパへ向かうが、旅の途中で過酷な現実に直面する。人間の尊厳を奪われる絶望的な状況の中で、奇妙にも、耽美的な夢世界への通路が開かれる。いまポルトガルでもっとも期待される才能のひとりヴィラヴェルデの代表作。

テレーザ・ヴィラヴェルデ Teresa Villaverde
1966年リスボン生まれ。監督第一作Idade Maior はベルリン映画祭のフォーラム部門ほか多数の映画祭で受賞。以後、ペドロ・コスタらと共にポルトガルの若手監督として脚光を浴びる。92年の『三人兄弟』 Três Irmãos では出演者のマリア・ド・メデイロスがヴェネチア映画祭の最優秀女優を獲得している。98年の『オス・ムタンテス』がカンヌ映画祭"ある視点"部門に出品され、国際的な注目を集め、また、ポルトガル国内でも興行的な成功を収める。続く『水と塩』Água e sal も再びヴェネチア映画祭に出品。04年にはドキュメンタリー映画A Favor da Claridade を監督。 『トランス』が五作目に当たる。
『私たちの好きな八月』
原題:Aquele Querido Mês de Agosto
2008年/147分/カラー
監督:ミゲル・ゴメス
脚本:ミゲル・ゴメス、マリアナ・リカルド、テルモ・チューロ
撮影:ルイ・ポカ
出演:ソニア・バンデイラ、 ファビオ・オリヴェイラ、ホアキン・カルヴァロ

新鋭ミゲル・ゴメスの長篇第二作。ヴァカンス期のポルトガル山間部を舞台に、地元の村人、映画製作チーム、音楽フェスティバルの様子をドキュメンタリー的に描く前半部が、やがていつの間にか、途切れることなく、美しい少年と少女のメロドラマを綴る後半部へと移行する。真夏の夜の夢のような脱ジャンル的秀作。

ミゲル・ゴメス Miguel Gomes
1972年リスボン生まれ。高等映画演劇学院で学ぶ。96年から00年まではポルトガルのメディアで映画批評を執筆。並行して短篇映画を手がけはじめ、オーバーハウゼン映画祭、ベルフォール映画祭で受賞。ロカルノ映画祭、ロッテルダム映画祭、ブエノス・アイレス映画祭、ウィーン映画祭にも出品される。04年に初長篇作品『自分に値する顔』A Cara que Mereces を監督。08年には『私たちの好きな八月』を発表。カンヌ映画祭の監督週間に出品されて絶大な反響を引き起こす。以後、世界40以上の国際映画祭に出品されて幾多の賞を獲得。一躍、世界の映画ファンから注目を集める存在になる。現在、最新作となる『曙光』Auroraを準備中。


ポルトガル映画祭2010 マノエル・ド・オリヴェイラとポルトガル映画の巨匠たちについて、皆様のご意見・ご感想をお待ちしております。
なお、ご投稿頂いたものを掲載するか否かの判断については、
OUTSIDE IN TOKYO 編集部の判断に一任頂きますので、ご了承ください。





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