フランス映画の知られざる巨匠 モーリス・ピアラ



モーリス・ピアラ監督の没後10年を迎えた今年、2013年の2月、パリ・シネマテーク・フランセーズでは「モーリス・ピアラ 画家にして映画作家」と題される大規模な回顧展が行なわれた。そして今、日本では、モーリス・ピアラ監督の後期代表作4作品が上映される特集上映が行なわれようとしている。オリヴィエ・アサイヤスやアルノー・デプレシャン、クレール・ドゥニといった現代フランス映画を代表する映画作家たちが賞賛を惜しまないモーリス・ピアラとはどのような映画作家なのか?長編処女作『裸の幼年時代』がジャン・ヴィゴ賞を受賞した後、『Nous ne vieillirons pas ensemble』(72)や『Loulou (ルル)』(80)、『愛の記念に』(83)、『ポリス』(85)といった一連の作品が本国で大ヒットを遂げながら、『ポリス』で主演女優を務めたソフィー・マルソーと揉め、87年の『悪魔の陽の下に』でカンヌ国際映画祭パルムドールを受賞した時には、賛否両論の嵐が吹き荒れる中、大ブーイングを受け、それに応戦するといった有名なエピソードを残すなど、気難し屋の一面もまことしやかに伝えられる巨匠だが、まずは、劇場に駆けつけ、ジャン=リュック・ゴダールが"ほんとうに驚嘆に値する"と呼んだ作品の数々と静かに向き合いたいと思う。
(上原輝樹)
2013.10.15 update
11月2日(土)より、シアター・イメージフォーラムほか、全国順次ロードショー
会場:シアター・イメージフォーラム 
料金:一般1,800円/学生1,500円/会員・シニア1,000円
特別鑑賞券発売中! 1回券1,500円/4回券(パンフレットつき)4,500円 

公式サイト:http://www.zaziefilms.com/pialat/ 

10月18日(金)、『ヴァン・ゴッホ』特別先行試写会&トークショー開催
17:30開場/18:00開映@アンスティチュ・フランセ東京<エスパス・イマージュ>
※上映後のトークショーゲストは、アントワーヌ・ドゥ・ベック氏(「カイエ・デュ・シネマ」元編集長)と廣瀬純氏(映画批評・思想家)、必見!
http://www.institutfrancais.jp/tokyo/events-manager/cinema131018/
上映スケジュール
11月2日(土)~8日(金)
13:00
ヴァン・ゴッホ
(160分)
16:00
悪魔の陽の下に
(97分)
*18:00
ヴァン・ゴッホ
(160分)
11月9日(土)~15日(金)
13:00
ヴァン・ゴッホ
(160分)
16:00
ポリス
(114分)
*18:30
愛の記念に
(100分)
11月16日(土)~22日(金)
13:00
ヴァン・ゴッホ
(160分)
16:00
愛の記念に
(100分)
*18:30
ポリス
(114分)
11月23日(祝・土)~29日(金)
13:00
ヴァン・ゴッホ
(160分)
16:00
ヴァン・ゴッホ
(160分)
*19:00
悪魔の陽の下に
(97分)
*3回目の開始時間は週によって異なります。ご注意ください。
上映プログラム



『ヴァン・ゴッホ』
1991年/フランス映画/160分/ヴィスタ/原題:Van Gogh
監督・脚本・台詞:モーリス・ピアラ
撮影:エマニュエル・マシュエル、ジル・アンリ
カメラ:ジャック・ロワズルー、ダニエル・バロー
録音:ジャン=ピエール・デュレ、フランソワ・グル メイク:ジャッキー・レイナル
衣装:エディット・ヴェスペリーニ、ティエリー・デレットル
美術:フィリップ・パリュ、カティア・ヴィシュコフ
編集:ヤン・デデ、ナタリー・ユベール
製作:ダニエル・トスカン・デュ・プランティエ
出演:ゴッホ:ジャック・デュトロン マルグリット:アレクサンドラ・ロンドン テオ:ベルナール・ル・コク ガシェ:ジェラール・セティ ヨー:コリーヌ・ブルドン カティ:エルザ・ジルベルシュタイン アドリーヌ:レズリー・アズライ 

使用楽曲:「メロディ」フィリップ・ルヴェルディ|「ガンゲット」ジャン=マルク・ブジェ|「ワルツ」「ポルカ」ジャック・デュトロン|「マーチ」「アコーディオン」アンドレ・ベルノ|アルチュール・オネゲル 交響曲 第2番 
演奏:バイエルン放送交響楽団 
指揮:シャルル・デュトワ (Erato Disques)|レオ・ドリーヴ 歌劇「ラクメ」より、鐘の歌「インドの美しい娘はどこに」 歌:クロディーヌ・デュクレ|ジャック・オッフェンバック「カンカン」(《天国と地獄》より)|「私はロートレック氏」(作:ル・コク&ピアラ)|「さくらんぼの花咲く頃」 

映画監督になる前、画家でもあったピアラが最も敬愛するゴッホを描く。
療養のため訪れたオーヴェルの村。医師ガシェの診察を受けたゴッホは、そこで娘のマルグリットと出会う。美術コレクターでもあるガシェと親しくなった彼は、マルグリットをモデルにした絵を描くために家に通うようになり、やがてふたりは親密さを増していく......。美しく穏やかな風景のなかで過ごした、画家に訪れる死までの日々。
ピアラを一気に名匠ジャン・ルノワールの高みへと近づけた決定的代表作である。ゴッホを演じたジャック・デュトロンは、本作でセザール賞を受賞。現代フランス映画の作家たちに多大なる影響を与えた作品であり、公開当時、ジャン=リュック・ゴダール監督はピアラ本人に次のような賛辞を記した手紙を送った。


『愛の記念に』
1983年フランス映画/100分/ヴィスタ/カラー/原題:A NOS AMOURS
監督・脚本・台詞:モーリス・ピアラ
脚本・台詞:アルレット・ラングマン
撮影:ジャック・ロワズルー、ピエール・ノヴィオン
録音:ジャン・ウマンスキ
美術:ジャン=ポール・カマイユ、アルレット・ラングマン
衣装:ヴァレリー・シュランベルジェ
編集:ヤン・デデ、ソフィー・クサン
製作統括:ミシュリーヌ・ピアラ
製作主任:シルヴィー・ダントン、エルヴェ・オスタン
歌:クラウス・ノミ (ヘンリー・パーセル「コールド・ソング」) 
出演:シュザンヌ:サンドリーヌ・ボネール 母:エヴリーヌ・ケール ロベール:ドミニク・ベズネアール 父:モーリス・ピアラ アンヌ:アンヌ=ソフィー・マイエ マルティーヌ:マイテ・マイエ ミシェル:クリストフ・オダン ベルナール:ジャン=ルー・ラジョ リュック:シール・ボワタール ジャン=ピエール:シリル・コラール 

日本で公開された初めてのピアラ作品。キャスティングを担当していた名スカウト、ドミニク・ベズネアール(本作で兄役も演じている)によって見出された新人女優サンドリーヌ・ボネールは、他の候補者を押しのけヒロイン役に抜擢され、その天才少女ぶりを発揮。また、ピアラ自身が監督・脚本のみならず、厳しくも愛情深い父親役を演じている。
シュザンヌは15歳。リュックという恋人がいるものの、他の男たちとも奔放に付き合っている。 毎晩のように男友達と連れ立って遊び歩く彼女は、家族にとっては疎ましい存在だ。 ある夜遅くに帰宅したところを父親と鉢合わせたシュザンヌ。しかし、そこで初めて2人は一対一で向き合い話をしたことで、 いつになく親しみを感じ合ったのだった。


『ポリス』
1985年/114分/カラー/ヴィスタ/原題:POLICE
監督・脚本・脚色・台詞:モーリス・ピアラ
原案・脚本・脚色・台詞:カトリーヌ・ブレイヤ
脚本・脚色・台詞:シルヴィー・ダントン、ジャック・フィエスキ
製作:エマニュエル・シュランベルジェ
撮影:ルチャーノ・トヴォリ
カメラ:ジャック・ロワズルー
録音:ベルナール・オブイ、ロラン・ポワリエ、ジャン・ウマンスキ、ジュリアン・クロケ
編集:ヤン・デデ、エレーヌ・ヴィアール
出演:マンジャン:ジェラール・ドパルデュー ノリア:ソフィー・マルソー ランベール:リシャール・アンコニナ マリー・ヴェルデ:パスカル・ロカール リディ:サンドリーヌ・ボネール ゴティエ:ジャック・マトゥ デデ:ヤン・デデ 

使用楽曲:グレツキ:交響曲第3番 (指揮:エルネスト・ブール) 

マンジャンは麻薬捜査担当の警察だ。アラブ人の麻薬取引捜査のなかで、若い女性ノリアと出会う。マンジャンはしつこく尋問するが、ノリアは罪を認めない。その後、仮釈放されたノリアとマンジャンは偶然にも再会する。マンジャンは妻に先立たれた寡夫だ。「恋愛など馬鹿げている」と言いながらも、彼は次第にノリアに惹かれていく......。
フランス本国では183万人を超える動員を記録したピアラ最大のヒット作。原案・共同脚本は『ロマンスX』の監督で知られるカトリーヌ・ブレイヤ。81年に公開された『ラ・ブーム』が驚異の大ヒットとなり一躍国民的アイドルとなったソフィー・マルソーは、ドパルデューの希望により本作への出演が決定、本作を機にアイドルを完全脱皮した。


『悪魔の陽の下に』
1987年/97分/カラー/ヴィスタ/原題:SOUS LE SOLEIL DE SATAN
監督:モーリス・ピアラ
原作:ジョルジュ・ベルナノス
脚本:シルヴィー・ダントン
撮影:ウィリー・クラント
カメラ:ジャック・ロワズルー
美術:カティア・ヴィシュコフ
録音:ルイ・ジメル
衣装:ジル・ノワール
ボネールの衣装:ソニア・リキエル
メイク:ティ・ロアン・ヌイエン
編集:ヤン・デデ
製作:ダニエル・トスカン・デュ・プランティエ
出演:ドニサン:ジェラール・ドパルデュー ムシェット:サンドリーヌ・ボネール ムヌ=セグレ:モーリス・ピアラ カディニャン:アラン・アルチュール ガレ:ヤン・デデ ムシェットの母:ブリジット・ルジャンドル マロルティ:ジャン=クロード・ボルラ 馬商人:ジャン=クロード・ブヴェ 

使用楽曲:アンリ・デュティユー「交響曲第1番」 

ロベール・ブレッソン監督による『少女ムシェット』、『田舎司祭の日記』の原作でも知られる作家ジョルジュ・ベルナノスの同名小説を映画化。カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した際に、授賞式で客席からのブーイングを受け、「あなた方が私を嫌うなら、私もあなた方が嫌いだ」と言い放ち、トロフィーを高々と掲げたピアラのエピソードは有名である。
敬虔な聖職者であるドニサンは、ときに過剰な苦行を自らに課し、自分が真に聖職者に値する才能があるのかと苦悩している。ある真夜中、ドニサンは北フランスの田舎道をはるばる一人歩いていた。ふと気付くと隣を歩く馬商人に話しかけられる。慣れない旅の道中を案内してくれる馬商人に一瞬心を許したドニサン。しかし、この馬商人は試みを与える悪魔であり、自分の分身を意味していた。「おれが見えたら、他人の心も見える。お前が見るのは、おれの憎しみだけだ」。その言葉を残し、目覚めると馬商人は消えていた。その明け方、ドニサンはムシェットと出会う。
モーリス・ピアラ
1925年8月25日フランス オーヴェルニュ生まれ。父は木材業者。画家を志し、パリに出て工芸学校ボザールで学ぶ。絵を描き続け、展覧会に出品すると同時に、映画にも興味を持ち始め、1950年にはカメラを購入してアマチュアの短篇映画を撮り始める。短篇ドキュメンタリー「L'Amour exist」(60)で監督としてデビューを果たし、68年、長篇劇映画「裸の幼年時代」がヴェネツィア映画祭に正式出品される。その後、ジェラール・ドパルデュー、イザベル・ユペールというスターの共演による「ルル」(80)、天才的新人女優サンドリーヌ・ボネールを見出した『愛の記念に』(83)などを発表。87年、再びドパルデューを主演にしたベルナノス原作『悪魔の陽の下に』で、カンヌ国際映画祭パルムドールを受賞。このとき、授賞式での客席からのブーイングを受け、「あなた方が私を嫌うなら、私もあなた方が嫌いだ」と言い放ち、トロフィーを高々と掲げた、というエピソードは、今もフランス映画界で語り草となっている。91年にはピアラが敬愛してやまない画家をモデルとした『ヴァン・ゴッホ』を発表。2003年1月11日、腎臓疾患によりその生涯を閉じる。享年77歳。2013年2月は没後10年にあたり、パリ・シネマテーク・フランセーズにて「モーリス・ピアラ 画家にして映画作家」と題した大規模な回顧展が開催されるなど、その偉大さを再評価する気運が高まっている。
モーリス・ピアラ 長篇映画フィルモグラフィー

1968年 L'enfance nue (裸の幼年時代)
1969年 Villages d'enfants <中篇>
1971年 La maison des bois
1972年 Nous ne vieillirons pas ensemble
1974年 La geule ouverte (開いた口)
1979年 Pass ton bac d'abord...
1980年 Loulou (ルル)
1983年 『愛の記念に』 A nos amors.
1984年 Les essais de Sandrine (TV「Cinema Cinemas」)
1985年 『ポリス』 Police
1987年 『悪魔の陽の下に』 Sous le Soleil de Satan
1991年 『ヴァン・ゴッホ』 Van Gogh
1995年 Le Garcu (パパと呼ばないで)


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