鉛の時代 映画のテロリズム



「政治は、関わる人間全てをダメにする」という台詞を劇中で残したのは、フィリップ・ガレルの『自由、夜』でアルジェリア民族解放戦線を支援する活動家を演じたモーリス・ガレルだった。1983年の映画『自由、夜』は、2ヶ月前に日仏学院(「モーリス・ガレル追悼上映|カンヌ映画祭批評家週間50周年」)で、『恋人たちの失われた革命』やロマン・グーピルの『三十歳の死』と共に上映され、"革命"というロマンティックな響きを帯びた"言葉"とは裏腹の"現実"の持つ危うさを映画という虚構の中でリアルに示し、どう考えても現状維持では世の中が良くならない、と日々悶々と考えている私たちの日常にあって、"政治"について、あるいは、"政治的に振る舞うこと"の苦々しさについて、ひとつの示唆を与えてくれた。そのガレルやグーピルがテーマとして扱った"68年"のユートピアが終焉を迎えると、世界は、その終わりを待ち望んでいたかのように"鉛の時代=テロリズムの時代"へと突入していく。9.11以降の灰色の日常を生きる私たちにとって、"鉛の時代"を描いた映画は、残念ながら過去のロマンティシズムなどではなく、至極当たり前にアクチュアルな問題として、私たちの眼前に立ち上り、テロリズムが纏う"悪の陳腐さ"(フィリップ・アズーリ)について、そして、人間が敗北していくプロセスついて、考える機会を与えてくれるに違いない。
上原輝樹
2011.11.25 update
2011年11月29日(火)~12月18日(日)
主催・会場・お問い合わせ:東京日仏学院
料金(当日券のみ):会員 500円、一般 1,000円 初回の1時間前から、当日全ての回のチケットを発売致します。
尚、『カルロス』の上映については、三回券を会員1,200円、一般2,500円で発売します(二日に分けてご覧頂くことも可能です)。

特別ゲスト:足立正生、エリック・ボードレール、若松孝ニ
企画協力:フィリップ・アズーリ、平沢剛
上映スケジュール
11月29日(火)
13:00
性遊戯 
(71分)
15:30
女学生ゲリラ
(73分)
18:00
重信房子、メイと足立正生のアナバシス そしてイメージのない27年間
(66分)
上映後、エリック・ボードレール、足立正生、重信メイによるトークショーあり(司会:フィリップ・アズーリ)
12月2日(金)
11:00
性遊戯 
(71分)
13:30
第三世代
(110分)
16:00
キュスタース小母さんの昇天
(102分)








19:00
天使の恍惚
(89分)
上映後、若松孝ニとフィリップ・アズーリによるトークショーあり
12月3日(土)
11:30
女学生ゲリラ
(73分)
14:00
第三世代
(110分)
16:45
テロルの弁護士
(135分)
上映後、フィリップ・アズーリによるレクチャーあり






12月4日(日)
11:00
カルロス 第一部
(101分)
14:00
カルロス 第二部
(101分)
16:30
カルロス 第三部
(118分)
上映後、フィリップ・アズーリによるティーチインあり






 
12月9日(金)
11:00
アイス
(132分)

14:30
天使の恍惚
(89分)
17:00
ダイアル ヒ・ス・ト・リー
(68分)
19:00
テロルの弁護士
(135分)

12月10日(土)
11:00
ダイアル ヒ・ス・ト・リー
(68分)
13:00
カルロス 第一部
(101分)
15:30
カルロス 第二部
(101分) 

18:00
カルロス 第三部
(118分)

12月11日(日)
11:00
夜よ、こんにちは
(105分)

14:00
親愛なるパパ
(110分)
17:00
ボローニュ中央駅
(65分)

19:00
アイス
(132分)

12月17日(土)
11:00
ナーダ
(100分)

13:30
夜よ、こんにちは
(105分)
16:00
ボローニュ中央駅
(65分)

18:00
実録・連合赤軍 あさま山荘への道程
(190分)
12月18日(日)
11:00
実録・連合赤軍 あさま山荘への道程
(190分)
15:00
親愛なるパパ
(110分)
18:00
ナーダ
(100分)

※開場:各回上映20分前
上映プログラム

『性遊戯』
日本/1968年/71分/デジタル上映 /カラー&モノクロ
監督:足立正生
出演:中嶋夏、吉沢健、山谷初男、小水一男 

健、ガイラ、オバケは怠惰に日々を過ごしている。ある日、大学の前で活動家の妙子を見つけ、バリケートのなかに連れ込み強姦する。奇妙な態度を見せる妙子に興味を持った健は、自分で実験をして欲しいという妙子の申し出を受け入れ、活動家たちを集め、性と革命を問うていく。日大芸術学部のバリケード内で撮 影が行われた足立正生の4作目のピンク映画。全共闘運動の高まりのなか、ノンポリ学生と女性活動家の性を媒介にした関係性によって、真の革命とは何かをブ レヒト的異化効果で描いていく。
『女学生ゲリラ』
日本/1969年/73分/16mm/カラー&モノクロ
監督:足立正生
出演:芦川絵理、花村亜菜流芽、万屋真理、谷川俊之 

五人の高校生たちが卒業式を粉砕する計画を立てている。学籍簿と卒業証書を盗み出したのち、自衛隊の武器を奪い、山岳地帯に立て籠もる。闘争方針をめぐる 内部対立、自衛隊員、学校関係者による様々な妨害をはね除け、逆日の丸をまとい、富士山を背に闊歩していく。高校生5人組が卒業式粉砕のため、山中を根拠 地に立てこもり、ゲリラ戦を展開していく様に、68年以後の全共闘運動のあり方の一つが提起される。狂った自衛官の姿には三島由起夫事件、山岳での内ゲバ には連合赤軍事件を予感させる。
『アイス』
アメリカ/1969年/132分/16mm/モノクロ/日本語字幕付
監督・撮影・編集:ロバート・クレイマー
出演:ポール・マクアイザック、ロバート・クレイマー、トム・グリフィン 

近未来、若き革命家たち―革命組織全国委員会のメンバーは潜伏状態から抜け出すため、ゲリラ活動を開始する。そのころメキシコでは解放戦線がアメ リカ政府相手に抗争を続けていた。彼らの目標は白人の革命家たちが黒人、プエルトリコ人、メキシコ人と同盟することだが、同じように搾取された犠牲者でありながら、彼らはお互いを理解しあうことができない。委員会のリーダーは、活動家たち自身が不信や疑い、恐怖に直面しなければならないことに気付く。そんな中、革命的な攻撃活動が勃発する。体制批判の新聞が発刊され、陸軍大佐の暗殺や製油所の爆破、刑務所やラジオ、テレビの放送局の襲撃などが次々と起こる。警察によってグループのリーダーが抹殺された後、後継者となったジムが電話で同志のひとりに指令を出す―次なる決定的な闘いが始まると...。
『天使の恍惚』
日本/1972年/89分/35 mm /カラー&モノクロ
監督:若松孝ニ
出演:吉沢健、横山リエ、荒砂ゆき 

東京総攻撃を目論む革命組織「四季協会」の実行部隊、秋グループのリーダー十月は、部下たちと武器調達のため米軍施設へ潜入し、強奪に成功するが死傷者を 出し、自らも失明してしまう。この失態が原因で、作戦実行の主体は冬グループへと変更されてしまう。目標を失った十月の部下である月曜日と金曜日は単独で の爆破作戦を主張するが、組織優先を訴える土曜日は、指示を受けるためグループリーダー秋のもとを訪ねるが...。
『ナーダ』
フランス=イタリア/1973年/100分/デジタル上映/カラー/無字幕・日本語同時通訳付
監督:クロード・シャブロル
出演:ファビオ・テスティ、モーリス・ガレル、ミシェル・デュショソワ、ルーカステル 

原作は、フランスを代表するセリ・ノワール作家ジャン=パトリック・マンシェットの『地下組織ナーダ』。5人のアナーキストグループ「ナーダ」が、駐仏米国大使誘拐を企てる。ナーダの捕獲作戦を実行中に警官が殺され、ゴエモン警部はこの事件を解決すべく、全力を挙げる...。「本作は当時流行りだった左翼主義的フィクションの悪癖を回避しているが、それは自然主義から遠いグロテスクさを故意に選択しているからだろう。原作の怒りに満ちた嘲笑が、映画においては権力の滑稽さを見つめる眼差しとなっている」。(「レ・ザンロキュプティーブル」)
『キュスタース小母さんの昇天』
西ドイツ/1975年/102分/35 mm /カラー/英語字幕付
監督:ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー
出演:ブリギッテ・ミラ、イングリット・カーフェン 

慎ましいアパートで息子夫婦と同居する主婦エマ・キュスタース。ある日ラジオから聞こえてきたのは、解雇の知らせに気が狂った工場勤めの男が、工場のパトロンの息子を殺害後、自らも自殺したというニュースだった。その男とは他ならぬエマの夫、キュスタース氏だった。マスコミに包囲される中、息子夫婦はヴァカンスへと逃げ出し、娘は父親の不幸を歌手としての自分のキャリアに利用する。見捨てられ、裏切られたエマは、反社会的破壊分子と見なされてしまった夫の名誉挽回のみを望み、共産党員やアナーキストへと近づいていく...。
『第三世代』
西ドイツ/1979年/110分/35 mm /カラー/英語字幕付
監督・撮影:ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー
出演:フォルカー・シュペンクラー、ビュル・オジェ 

1978年から79年にかけての冬のベルリン。政治的な理念よりはむしろ秘密や活動そのものへの魅力から結びついていた若者のグループが、仲間のひとりが警官に殴打されたあと、地下活動へと近づいていく。謝肉祭の日、彼らはカーニバルを利用し、アメリカのコンピューター会社の代表ペーター・レンツの誘拐を計画する。しかし、彼こそが警察と組織のリーダー、オーギュスト・ブレムからの支援を受け当初から彼らを操っている張本人だった...。
「映画のタイトルは、テロリズムの3つの世代に言及したものであるが、主題は曖昧になっている。第一世代は、68年世代である。世界の変化を望み、言葉と行動でそれが可能だと考えた理想主義者たち。第二世代は、バーダー・マインホフ・グルッペを示し、合法的な範囲の活動から武装闘争、非合法活動へと変化していく。第三世代は、我々がよく知る今日の世代であり、熟考することなく行動し、思想的でも政治的でもなく、また、それを知ることもなく、操り人形のように踊らされてしまう世代のことである。」(R・W・ファスビンダー)
『親愛なるパパ』
イタリア=フランス/1979年/110分/35mm/カラー/仏語字幕付・作品解説配布
監督:ディノ・リージ
出演:ヴィットリオ・ガスマン、ジュリアン・ギョマール、オーロール・クレマン、ステファノ・マディア 

かつてのレジスタンス闘士だったアルビノ・ミロッツァ。50代となった今、地位ある実業家である彼は、家庭では、欝気味の妻に悩まされるあまり息子につらく当たっていた。ある時、アルビノは息子が赤い旅団に属しており、手紙の中では"P"とだけ示されている人物にテロを仕掛けようとしていることを知ってしまう。その攻撃対象が自分の愛人ではないかとの疑いを持つアルビノ。その後、モンレアルでテロにあい、重傷を負った彼は、息子が迎えに来るローマへと戻ってくるが・・・。第32回カンヌ国際映画祭特別招待作品。
『ダイアル ヒ・ス・ト・リー』
ベルギー=フランス/1997年/68分/DVD/カラー&モノクロ/日本語字幕付
監督:ヨハン・グリモンプレ
テキスト抜粋:ドン・デリーロ著「ホワイト・ノイズ」、「マオII」
使用曲:ディヴィッド・シー 

様々なハイジャックや国際テロを報じるテレビ・ニュース映像がミュージック・ビデオ的にリミックスされ、ディスコ・ミュージックの軽快なリズムにのせてめまぐるしく現れては消えていく。マス・メディアとテロリストの確執と共犯関係を皮肉的に描いたスリリングな視点と、そのユニークはサンプリング手法で世界各国の映画祭、美術展を驚愕され、現代アート作品としても高い評価を得た作品。1997ドクメンタX招待作品。製作はジョルジュ・ポンピドゥー・センター他。
『夜よ、こんにちは』
イタリア/2003年/105分/35mm/カラー/日本語字幕付
監督:マルコ・ベロッキオ
出演・マヤ・サンサ、ルイジ・ロ・カーショ、ロベルト・ヘルリツカ 

1978年ローマ。キアラは、フィアンセと共に新しいアパートに移ってきた。一見ごく普通の生活を送っているかのように見える彼女だったが、実は「赤い旅団」の一員として、誘拐したモロ元首相を匿う役割を担っていた 。刻一刻と変化する状況の中、やがてキアラは、自分たちの信念に人を殺す権利があるのかと苦悩するようになる。そしてメンバーからモロ処刑の判断が下されたその時...。室内に射し込む光、暗闇に浮かび上がる人物の表情、テレビ映像など外部から進入してくる音。すべてが一体となった豊かな映像の力が、息を呑むスリリングな展開、ピンク・フロイドの音楽とあいまって、本作をベロッキオの傑出した一本にしている。
『ボローニュ中央駅』
フランス/2003年/65分/デジタル上映/カラー/無字幕・作品解説配布
監督:ヴァンサン・デュートレ 

ヴァンサ・デュートルは20年前に滞在していたイタリアのボローニュを再び訪れる。1980年8月2日朝ボローニャ中央駅ではテロ事件が起き、85人が死亡、200人以上が負傷した。この事件は、現在に至るまで、混乱や議論を引きこし、主導者である武装革命中核らの政治的動悸は明らかになっていない。
「鉛の時代」のイタリアとベルルスコーニのイタリア、ふたつのイタリア、ふたつの時代の間に断片的で、欠落した部分もあり、悲劇的でもある記憶が紡がれてゆく。本作は、また悲しい終わり方をしたある愛の物語でもある。
『テロルの弁護士』
フランス/2007年/135分/35mm/カラー/英語字幕・12/3の回のみ日本語同時通訳
監督:バーベット・シュローダー 

アルジェリア戦争の闘士から、PLOのメンバー、カルロスの妻、マグダレーナ・コップ、中南米・アフリカのゲリラまで、悪名高い国際テロリストばかり擁護したフランスのスター弁護士の半生記。「バーベット・シュローダーは、まるで魔法のように『テロルの弁護士』をスリラー映画に仕上げている。(...)本作の力は、事件の粗暴さを映しながらも、機械のように動いているように見えるテロリストたちや政治家たちも人間であり、情熱を持っているという事実に立ち戻らせてくれるところだ」。(フィリップ・アズーリ)
『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』
日本/2008年/190分/35mm/カラー
監督:若松孝ニ
出演:坂井真紀、ARATA、伴杏里、地曵豪、並木愛枝 

あの時代に、何が起きていたのか。革命戦士を志した若者たちは、なぜ、あそこまで追いつめられていったのか。なぜ、同志に手をかけたのか。なぜ、雪山を越えたのか。なぜ、山荘で銃撃戦を繰り広げたのか。あさま山荘へと至る激動の時代を、鬼才・若松孝二が描いた本作は、2008年ベルリン国際映画祭「フォーラム部門」招待作品に選出され、第20回東京国際映画祭「日本映画・ある視点」部門では作品賞を受賞し、世界的な若松孝ニの再評価のきっかけとなる。
『カルロス 1部・2部・3部』
フランス/2010年/101分・107分・118分/デジタル上映/カラー/日本語字幕付
監督:オリヴィエ・アサイヤス 

『カルロス』はこの20年にわたって、世界中で最も調査、研究されてきたテロリスト、イリッチ・ラミレス・サンチェスの人生を描いている。イギリス経済界の重鎮の殺害を試みた1974年のロンドンから94年のハルツームでの逮捕までの間、複数の偽名と人生を使い分け、当時の国際政治の複雑な動きを横断していったカルロスとは一体何者だったのか?交錯し、積み重ねられたアイデンティティーはどのように絡みあっているのか?その身と財産を終わりのない戦いに投じる以前はどのような人物だったのか? 複数の女性たちに愛され、彼女たちに守られながら逃走を続けた男の正体とは? 70年代の武装闘争は複数の国、文化の交差点で行われ、世界的な流れとなっていったが、そうした国際的な規模で起こった出来事、動きを見事に捉えながらも、親密な人間関係も繊細かつ官能的に描き上げたアサイヤスの最高傑作。「カルロスの評価を下さないこと、それが私の最初の見解であり、それを貫いた。カルロスを正面から、彼の視点から描きたかった。それには出来事を並べていけば十分だと考えた。彼の人生にはまぎれもないドラマトゥルギーが秘められていて、脚本はひとりでにそこから生まれてくるからだ。闇に包まれている部分をほんの少し継ぎ合わせればいいだけだった。」(オリヴィエ・アサイヤス)
『重信房子、メイと足立正生のアナバシス そしてイメージのない27年間』
フランス/2011年/66分/デジタル上映(8ミリ撮影)/カラー&モノクロ/日本語・英語字幕付
監督:エリック・ボードレール 

1968年後のイデオロギーの闘争が激化している時代、東京からベイルートへ、ベイルートから東京へ。過激な革命運動を行なった人々の30年間の軌跡が、二人の人物によって語られる。日本赤軍の創設者の一人、重信房子の娘、メイ、伝説的映画 監督であり、赤軍の元メンバーでPFLPと共闘した革命運動家、足立正生、ふたりの物語が交差し、そこに私的な物語、政治的な物語、革命運動のプロパガンダ、映画の理論が交錯してゆく。


鉛の時代 映画のテロリズムについて、皆様のご意見・ご感想をお待ちしております。
なお、ご投稿頂いたものを掲載するか否かの判断については、
OUTSIDE IN TOKYO 編集部の判断に一任頂きますので、ご了承ください。





Comment(0)

印刷