岩波ホールセレクション Vol.2 マノエル・ド・オリヴェイラ
『ノン、あるいは支配の空しい栄光』『コロンブス 永遠の海』



御年102歳を迎えた世界最高齢の映画作家マノエル・ド・オリヴェイラ監督の2007年製作作品『コロンブス 永遠の海』の公開を記念して、日本劇場未公開だった監督の代表作品『ノン、あるいは支配の空しい栄光』が、2週間限定上映される。
「我々は難解なものを避け、単純明快であるべきだ。単純化は思考をより深めるのだから」と語る100歳を超える大作家の単純化へのあくなき探求はいまなお続いている。
2010.4.15 update
『ノン、あるいは支配の空しい栄光』

海の彼方に未知の土地を発見しては、領土を広げてきたポルトガル。
オリヴェイラ監督が、紀元前から現代までの、敗北の史実をとおして、ポルトガルの歴史を描いた、壮大なスケールの作品。


監督・脚本・台詞:マノエル・ド・オリヴェイラ
撮影:エルソ・ロケ
美術:ルイス・モンテイロ、マリア・ジョゼ・ブランコ
音楽:アレハンドロ・マッソ
出演:ルイス・ミゲル・シントラ、ディオゴ・ドーリア、レオノール・シルヴェイラ他
1990年/ポルトガル・フランス・スペイン合作/ポルトガル語/112分/カラー/スタンダード

4月17日(土)~30日(金)2週間限定上映
@岩波ホール http://www.iwanami-hall.com/

『コロンブス 永遠の海』公式サイト http://www.alcine-terran.com/umi/
<以下、リリースより転用>
本作はポルトガルの巨匠マノエル・ド・オリヴェイラ監督の代表作の一つ。80歳を越えて、初めてポルトガルの歴史をテーマにした、これまでにない壮大なスケールの作品である。
1974年、アフリカでの植民地戦争に従軍しているポルトガル軍の少尉が、自国の歴史を振り返る。紀元前2世紀のルシタニア(ローマ時代のポルトガルの古名)の英雄ヴィリアトの死、1475年、トロの戦いでの敗北と、国王アフォンソ五世の死、1490年のカスティリャの王女と結婚したアフォンソ王子の死。1578年のアルカサル・キビルでの壊滅的な敗北とセバスチャン国王の戦死。
オリヴェイラ監督は、これら敗北の史実をとおして、ポルトガルの栄光の歴史、その虚しさを描き出している。また、敗北の対になる輝かしい世界の象徴として、大航海時代の詩聖ルイス・デ・カモンイスが『ウス・ルジアダス』(1572)の中で謳いあげた『恋の浮島』が映像化されている。この憧憬が形象化された世界は、新作『コロンブス 永遠の海』にも通じるものである。
本作のアイデアは、オリヴェイラ監督によると、ポルトガルで40年以上続いたサラザールの独裁政権が倒れた日、1974年4月25日に生まれたという。その日付は、映画のラストシーンで少尉が戦死した日でもある。この日からポルトガルは大きく変わり、それまでの植民地支配に終止符が打たれた。本作は、オリヴェイラ監督が、ポルトガルの負の歴史を検証することによって、現代ポルトガルの新たなアイデンティティを考察したものでもある。

1作品ごとにスタイルを変え、常に新しい試みをするオリヴェイラ監督は、室内の固定ショットが支配的だった『挫折した愛』4部作から一転、本作では屋外シーンが基調となっている。オリヴェイラ監督は「挫折した愛というテーマは絶対的なものを夢想する典型的に女性的な問題であるのに対して、敗北というテーマは男性に固有の問題である」と語っている。しかし死と破滅への執拗なまでの追求は、これまでのように本作でも貫かれている。
題名の「ノン」はラテン語であり、17世紀ポルトガルの作家、アントニオ・ヴェイラ神父のスピーチ「ノンとは恐ろしい言葉だ。そこには前も後もない。どちらに行っても、永遠にノンなのだ」から使われている。題名後半の「支配の空しい栄光」は、ルイス・デ・カモンイスの『ウス・ルジアダス』の第4歌・95スタンザの「おお、指揮する栄光よ!名声と称する虚栄のむなしい野望よ!」(岩波書店『ウス・ルジアダス』)によっている。
カモンイスのこの叙事詩には、西洋の「進んだ」文明を東洋にもたらすという、中世ヨーロッパ人の使命感にあふれている。そのカモンイスは1580年に死去した。またその年はカモンイスが期待を寄せていたセバスチャン王の死の2年後であり、奇しくもポルトガルがスペインに併合された年でもあった。


『コロンブス 永遠の海』

ポルトガルが世界の大国へと上りつめた大航海時代、人々は何を想い、何を求めて、果てしない海へ向かったのか。
「新大陸発見」で知られるコロンブスの謎を追い、旅をする夫婦の絆の物語。


監督:マノエル・ド・オリヴェイラ
撮影:サビーヌ・ランスラン
美術:クリスチャン・マルティ
音楽:ジョゼ・ルイス、ボルジェス・コエーリョ
出演:リカルド・トレパ、レオノール・バルダック、マノエル・ド・オリヴェイラ、マリア・イザベル・ド・オリヴェイラ他
2007年/ポルトガル・フランス/ポルトガル語・英語/75分/カラー

5月1日(土)よりロードショー
@岩波ホール http://www.iwanami-hall.com/

『コロンブス 永遠の海』公式サイト http://www.alcine-terran.com/umi/
<以下、リリースより転用>
巨匠オリヴェイラ監督が、大航海時代の偉人コロンブスの出生の謎をとおして、ポルトガル人の海の彼方への憧れを描いた話題作。

「新大陸の発見」で知られるクリストファー・コロンブス(1451~1506)は、イタリア人ともスペイン人ともいわれ、その出生は謎とされていた。そして没後500年にあたる2006年に「コロンブスはポルトガル人だった」とする新説がマヌエル・ルシアーノ・ダ・シルヴァという歴史研究者によって発表された。

映画『コロンブス 永遠の海』は、研究者である彼が妻とともに、コロンブス生誕の謎を追った半世紀にわたる旅をとおして、ポルトガル人固有の海の彼方への憧れ、ロマンティシズムを描いている。
夫婦は、ポルトガルからアメリカ大陸への歴史探求の旅で、コロンブスへの想いを深めてゆく。――エンリケ航海王子やヴァスコ・ダ・ガマが海を渡り、ポルトガルが世界の強国へと上りつめた大航海時代、人々は、何を想い、何を求めて、果てしない海へとむかったのか。そしてあのコロンブスは、本当に、彼らポルトガルの偉大なる旅人たちの一人だったのか。
101歳にして、みずみずしい感性を失わないポルトガルの巨匠マノエル・ド・オリヴェイラ監督は、この2006年の新説に触発されて、本作の構想をふくらませた。そして彼独特の映画的技法によって、ポルトガル人の精神、サウダーデ(郷愁)の感情を明らかにしていく。

マノエル・ド・オリヴェイラ監督は、1908年ポルトガル・ポルト市生まれ。1931年の短編ドキュメンタリー『ドウロ河』が監督第1作。無声映画時代から今日まで、特に80歳になってからは、ほぼ1年に1作という驚異的なペースで新作を発表し続けている。2008年カンヌ国際映画祭では、生涯功労賞が授与された。現在、世界の映画人に最も尊敬されている世界最高齢の映画監督である。
『コロンブス 永遠の海』は、オリヴェイラ監督の名人芸ともいえる作品である。またポルトガル人のアイデンティティともいうべき、海に対する思いに、シンプルかつ自在な映像表現によって迫った、オリヴェイラ監督の到達点ともいえる。若き頃の主人公夫婦はオリヴェイラ監督の孫であるリカルド・トレパ(『夜顔』『家路』)と、オリヴェイラ作品のミューズであり、アグスティーナ・ベッサ=ルイス(『アブラハム渓谷』『家宝』の原作者)の孫娘レオノール・バルダックが演じている。また、老年時代を演じているのは、オリヴェイラ監督自身とマリア・イザベル夫人である。本作は長い旅を続けることで愛情を深めていく作中の夫婦と、結婚70周年を迎えようとしているオリヴェイラ夫妻が重なり合い、織り成された、夫婦の絆の物語でもある。
MANOEL DE OLIVEIRA マノエル・ド・オリヴェイラ
1908年12月11-12日ポルトガル北部ポルト生まれ。学生時代はスポーツと映画に熱中し、陸上選手、レーシングカー・ドライバーとして活躍する一方、27年から29年にかけて、地元のドウロ河で労働する人々を描いた記録映画に取り組むが、資金不足により中断。その後、リーノ・ルーポ監督主宰の俳優養成学校に入学し、28年に同監督の『奇蹟のファティマ』に出演。
1931年、監督第一作である短編記録映画『ドウロ河』を製作、公開して、好評を博す。その後は、家業のワイン製造を手伝いながら、短編映画を製作する。42年に初めての劇映画『アニキ・ボボ』を発表するが、興行的には失敗する。54年サン・パウロ映画祭で同作が再評価されたことを期に、再び映画に取り組み始め、72年に長編『過去と現在』を製作して、注目を集める。プロデューサーのパウロ・ブランコと出会い、文芸作『フランシスカ』(81)を発表する。以降、彼と組んでポール・クローデル作《繻子の靴》の映画化(85)、サミュエル・ベケットの戯曲などを元にした『私の場合』(86)といったフランス語の作品に取り組む。続く怪奇オペラ『カニバイシュ』(88)が注目されたのに続いて、『ノン、あるいは支配の空しい栄光』(90)がカンヌ映画祭の審査員特別賞を受賞。一躍、映画界の尊敬を集めるようになる。93年には『ボヴァリー夫人』を翻案した小説を元に『アブラハム渓谷』を監督、カンヌ映画祭などで絶賛され、世界的にも認識されるようになる。以後はカトリーヌ・ドヌーヴ、ジョン・マルコヴィッチ共演『メフィストの誘い』(95)、マストロヤンニの遺作『世界の始まりへの旅』(97)、カンヌ映画祭で審査員特別賞を受賞した『クレーヴの奥方』(99)、ミシェル・ピコリ主演『家路』(01)と、魅力的なキャストによる作品を精力的に発表。2001年には、ヴェネツィア映画祭に特別出品された『わが幼少時代のポルト』がロベール・ブレッソン賞を受賞。続く『家宝』(02)もカンヌ映画祭で評判となる。ドヌーヴ、サンドレッリ、パパス、マルコヴィッチという豪華キャストを集結させた『永遠の語らい』(03)は、鋭いメッセージと瑞々しさが国際的に注目を集めた。さらにポルトガルのセバスティアン王を描いたジョゼ・レジオ原作の史劇『第五帝国』(04)に取り組み、ルイス・ブニュエル監督『昼顔』の38年後を描いた『夜顔』(06)を製作する。その後は35人の巨匠による映画館についての3分間作品を集めた『それぞれのシネマ』(07)に参加、同じ年に本作を製作し、100歳を迎えた2008年には孫リカルド・トレパとレオノール・シルヴェイラ共演による『Singularidades de uma Rapariga Loira』を発表した。新作は『O Estranho Caso de Angélica』(10)と、その活動は留まることを知らない。
監督作品
[f]=映画祭等の上映 [dvd]=DVD発売

31:Douro Faina Fluvia ドウロ河 [f]

32:Estátuas de Lisboa リスボンの彫刻

38:
Já Se Fabricam Automóveis em Portugal
ポルトガルはもう自動車を生産している
Miramar, Praia das Rosas ミラマール-バラの海岸

41:Famalicão ファマリカン

42:Aniki-bóbó アニキ・ボボ [f]

56:O Pintor e a Cidade 画家と町

59:O Pão パン

63:O Acto de Primavera 春の劇

64:A Caça 狩り

65:As Pinturas do Meu Irmão Júlio 私の兄ジュリオの絵

72:
O Passado e o Presente
過去と現在 昔の恋、今の恋 [f]

75:Benilde ou a Virgem Mãe ベニルデまたは聖母

78:Amor de Perdição 破滅の恋

81:Francisca フランシスカ [f]

82:
Visita ou Memórias e Confissões
訪問-あるいは追憶と告白

83:
Nice - À propos de Jean Vigo
ニース・・・ジャン・ヴィゴについて
Lisboa Cultural 文化都市リスボン [f]

85:Le Soulier de Satin 繻子の靴 

86:Mon Cas 私の場合

88:Os Canibais カニバイシュ [f]

90:
Non ou A Vã Glória de Mander
ノン、あるいは支配の空しい栄光 [f] [dvd]
91:A Divina Comédia 神曲  [dvd] 

92:O Dia do Desespero 絶望の日

93:Vale Abra&"227;o アブラハム渓谷 [dvd]

94:A Caixa 階段通りの人々 [dvd]

95:O Convento メフィストの誘い [dvd]

96:Party パーティ

97:Viagem ao Princípio Mundo 世界の始まりのへ旅  [dvd]

98:Inquietude 不安 [f]

99:La Lettre クレーヴの奥方 [dvd]

00:Palavra e Utopia 言葉とユートピア

01:
Je rentre á la maison 家路 [dvd]
Porto da minha infãncia わが幼少時代のポルト

02:
O Princípio da Incerteza 家宝 [dvd]
Momento (音楽クリップ)

03:Um Filme Falado 永遠の語らい [dvd]

04:O Quinto Império - Ontem Como Hoje 第五帝国 [dvd]

05:
Espelho Mágico マジック・ミラー
Do Visível ao Invisível 可視から不可視へ [f]

06:
O Improvável Não é Impossível
Belle toujours 夜顔 [dvd]

07:
Chacun son cinéma
それぞれのシネマ ("Rencontre unique"篇) [dvd]
Cristóvão Colombo - O Enigma コロンブス 永遠の海

08:
Romance de Vila do Conde
O Vitral e a Santa Morta

09:Singularidades de uma Rapariga Loura (公開予定)

10:O Estranho Caso de Angélica


岩波ホールセレクション Vol.2 マノエル・ド・オリヴェイラ
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