レフ・クレショフ傑作選



1917年11月にロシア革命が成功すると、ソビエト政権の指導者レーニンは、1919年8月に映画産業を国有化し、9月には世界で最初の国立映画学校を開設する。そこでソビエト映画人養成の任務を授かったのが、帝政ロシア時代から美術監督として活躍していたレフ・クレショフだった。"金は出すが口を出さなかった"といわれるレーニン時代のソビエト国営映画は、エイゼンシュテイン『戦艦ポチョムキン』(25)、プドフキン『母』(26)、ドヴジェンコ『大地』(30)と言った数々の名作映画を世に輩出し、映画史にソビエト映画の黄金時代の記憶を克明に刻むことになる。 その礎を築き、ソビエト映画の"父"とも言わる、「モンタージュ」理論の提唱者レフ・クレショフの代表作『ボリシェヴィキの国におけるウェスト氏の異常な冒険』(24)を実際にスクリーンで見る機会が到来する。

もちろん、「モンタージュ」が極当たり前の映画表現として定着している今、クレショフの映画を見たからといって、そこに殊更新奇な映画表現が写っているわけではないだろう。むしろ、今、私たちを驚かせるのは、「文学と演劇の豊かな伝統を持ったロシア/ソビエト映画人が、演劇の伝統の希薄さ故に演劇的伝統に依拠せず、いち早くスラプスティックコメディと冒険活劇によって映画独自の演出や演技を発展させたと言われる"アメリカ映画"を最も情熱的に吸収、研究した(※の一部を要約)」最良の例に、現代の多くの映画が失っている"自由闊達さ"や"映画のリズム"を瑞々しく感じ取れることに違いない。それにしても、革命政府が、自らの国体を相対化して笑うコメディを全面的に支援するという、この大らかさ!どこかの国でも是非やってみるといいと思うのが、果たして、、。
※「ロシア・ソビエト映画史 エイゼンシュタインからソクーロフへ」山田和夫著、キネマ旬報社
(上原輝樹)
2013.8.13 update
8月17日(土)より、ユーロスペース他、全国順次公開
会場:ユーロスペース
料金:一般1,500円/大学・専門学校生1,300円/会員・シニア1,100円/高校生800円/中学生以下500円 
*8月17日(土)、22日(木)のイベント上映は1800円均一 

公式サイト:http://levkuleshov.com/
上映スケジュール
8月17日(土)
~21日(水)
21:10
ボリシェヴィキの国におけるウェスト氏の異常な冒険
(73分)
8月17日(土)
山崎バニラさんによる活弁付上映
8月22日(木)
~24日(土)
21:10
二人のブルディ
(65分)

8月22日(木)
柳下美恵さんによるピアノ生伴奏付き上映


8月25日(日)
~29日(木)
21:10
掟によって
(80分)






8月30日(金)、
31日(土)
21:10
二人のブルディ
(65分)





9月1日(日)
~3日(火)
21:10
掟によって
(80分)






9月4日(水)
~6日(金)
21:10
ボリシェヴィキの国におけるウェスト氏の異常な冒険
(73分)



作品ラインナップ

『ボリシェヴィキの国におけるウェスト氏の異常な冒険』
1924 年/73 分/サイレント/b&w
監督:レフ・クレショフ 脚本:ニコライ・アシーヴ、フセヴォロド・プドフキン
出演:ポルフィーリー・ポドベード、ボリス・バルネット、アレクサンドラ・ホフローワ、フセヴォロド・プドフキン 

若き日のバルネットやプドフキンが出演する記念すべきクレショフ工房第1回作品。アクシ ョンと風刺満載の伝説の奇天烈コメディー。 

アメリカ人のウェスト氏は、世界で初めて誕生したボリシェヴィキの国・ソビエトの視察旅行を計画する。アメリカの新聞は、ボリシェヴィキが暴れまわる悪魔の国としてソビエトを紹介しており、自分の眼で実情を確かめようとしたのである。彼はボディガードのカウボーイ・ジェディを伴い、モスクワに到着する。そんな彼に詐欺師が目をつける。悪魔を演出して、ウェスト氏を脅迫しようというのだ。こうしてウェスト氏は、次々とわけのわからない事件に巻き込まれていく・・・。
『掟によって』
1926 年/80 分/サイレント/b&w
監督:レフ・クレショフ 脚本:ヴィクトル・シクロフスキー
出演:ヴラジーミル・フォーゲリ、セルゲイ・コマロフ、アレクサンドラ・ホフローワ、ポルフィーリー・ポドベード 

クレショフが認める自身最高傑作。クレショフの映画理論を更に進化させた重厚で緊迫感の ある異色のサスペンスドラマ。 

カナダとアラスカを流れるユーコン川の岸辺で黄金採掘をしている男四人と女一人のグループ。苦労の末に、メンバーのデニンがついに鉱脈を発見する。しかしその功績にも関わらず、仲間にバカにされていると感じた彼は、仲間の男二人を射殺する。彼は残ったメンバーのハンスとエディスに取り押さえられ、手足を縛られる。そんな中、川が氾濫し、小屋に取り残された3 人は完全に外界から孤立する。殺人犯デニンと寝食をともにしつつ、夫婦は彼をどのように扱うかを議論するが・・・。
『二人のブルディ』
1929 年/65 分/サイレント/b&w
監督:レフ・クレショフ、ニーナ・アガジャーノワ=シュトコ 脚本:オシップ・ブリク
出演:セルゲイ・コマロフ、ウラジーミル・コチェトフ、アーネリ・スダケーヴィチ、アンドレイ・ファイト 

主観ショット等、後の映画に影響を与えた技法が随所に光る、戦乱を舞台にした道化師達の 人間ドラマ。日本初公開! 

反革命の白軍との間に内戦が続く革命ロシア。とある町のサーカスで大人気の道化師ブルディは、引退して息子をデビューさせようとしていた。注目の興行初日が明日に迫るなか、町は白軍に占拠され、革命運動をしていた息子は逮捕されてしまう。父ブルディは、息子を釈放してもらえるよう、白軍に掛け合うが、上手くいかない。翌日、息子が戻らないまま、サーカスははじまる。そして、遂に息子のデビュー演目の時間になるが・・・。
レフ・クレショフとは(1899年-1970年)
ロシア帝国~ソビエト連邦の映画監督。ロシア革命直後のソビエトにおいて、若くして世界初の国立映画大学の教授となり、クレショフ工房と呼ばれる実験的なワークショップを主宰。クレショフ効果に代表されるモンタージュ理論を示し、その名を映画史に刻む。また、クレショフ工房では、フセヴォロド・プドフキンやボリス・バルネットといった巨匠を育成する。セルゲイ・エイゼンシュテインにも映画理論の基礎を教えるなど、ソビエト映画の父的な存在として映画界に多大な功績を残す。
フィルモグラフィー

1918年
『プライト技師の計画』Engineer Prite's Project/《Проект инженера Прайта》
1919年
An Unfinished Love Song/《Песнь любви недопетая》(歌いきれない愛の歌)
1920年
On the Red Front/《На красном фронте》(赤軍の前線で)
1924年
『ボリシェヴィキの国におけるウェスト氏の異常な冒険』The Extraordinary Adventures of Mr. West in the Land of the Bolsheviks/《Необычайные приключения мистера Веста в стране большевиков》
1925年
The Death Ray/《Луч смерти》(死の光線)
1926年
『掟によって』By the Law/《По закону》
Locomotive No. 10006/《Паровоз № 10006》
(蒸気機関車10006 号)
1927年
Your Acquaintance/《Ваша знакомая》(あなたの知り合いの女)
1928年
The Merry Canary/《Весёлая канарейка》(陽気なカナリア)
1929年
『二人のブルディ』Two-Buldi-Two/《Два-бульди-два》
1931年
Forty Hearts/《Сорок сердец》(四十の心)
1932年
Horizon: The Wandering Jew/《Горизонт》(ゴリゾント)
1933年
The Great Consoler/《Великий утешитель》(偉大な慰め手)
1934年
Theft of Vision/《Кража зрения》(視力の奪取)
1936年
Dokhunda/《Дохунда》(ドフンダ)
1940年
The Siberians/《Сибиряки》(シベリア人)
1941年
Incident on a Volcano/《Случай в вулкане》(火山での事件)
1942年
Timour's Oath/《Клятва Тимура》(チムールの誓い)
Teacher Kartashova/《Учительница Карташова》(女教師カルタショワ)※戦争映画オムニバス『若きパルチザンたち』の一編
1943年
We from the Urals/《Мы с Урала》(われらウラルより)
※1917~18年に数多くの作品で美術監督を務める。また、いくつかの自作で美術監督を兼任している。
※脚本は監督作品『プライト技師の計画』、『赤軍の前線で』、『ゴリゾント』、『偉大な慰め手』のほか、『Sasha(サーシャ)』(1930年、アレクサンドラ・ホフローワ監督)などがある。


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