空族特集上映<選べ失え行け!2011>

2011年、今年の4月に若くして急逝したメンバー井川拓は小説家を志し、幾つか小説の構想を考えていた。その内のひとつ、「かつては空を飛びまわっていたが、今は地下に棲み、側溝の格子から地上を見上げ暮らしている種族がいた、彼らは<空族(くぞく)>と呼ばれた」という詩情溢れるシノプシスから、自らを映像制作集団<空族>と名乗り映画の製作、上映活動を自主的に行なう者たちがいる。2011年10月現在のメンバーは、富田克也、高野貴子、相澤虎之助、石原寛郎、河上健太郎の5人。映画業界関係者の間で<空族>の名前が囁かれるようになったのは、映画美学校映画祭でスカラシップを獲得した2004年頃からだろうか。鬼才といわれる真利子哲也をして「現在の日本で最強の自主映画制作集団」といわしめる、<空族>の現時点での全貌が、ロカルノを熱狂させた『サウダーヂ』公開を目前に控えた今、渋谷オーディトリウムで行なわれる特集上映<選べ失え行け!2011>でいよいよ明らかになろうとしている。
(上原輝樹)
2011.10.13 update
2011年10月15日(土)~10月21日(金) 連日21:00より
会場:オーディトリウム渋谷
入場料金:当日1,200円均一
公式サイト:http://www.saudade-movie.com/blog/news/
上映スケジュール
10月15日(土)
21:00
雲の上
(140分)
監督:
富田克也
 


10月16日(日)
21:00
FURUSATO
2009

(50分)
ゲスト:
伊藤仁、田我流


10月17日(月)
21:00
かたびら街
(50分)
ゲスト:
五所純子



10月18日(火)
21:00
国道20号線
(77分)
トーク:
富田克也、
相澤虎之助


10月19日(水)
21:00
花物語バビロン
(45分)
ゲスト:
瀬々敬久


10月20日(木)
21:00
RAP IN TONDO の
長い予告編

ゲスト:
Young-G
(stillichimiya)
10月21日(金)
21:00
旅するパオジャンフー
(95分)
ゲスト:
柳町光男


*上映終了後、ゲストを交えてのトークショーあり
上映プログラム

『雲の上』
2003年 / 8mm→DV / 140分
監督・編集:富田克也 脚本:富田克也/井川拓/高野貴子 撮影:高野貴子
キャスト:西村正秀、鷹野毅、荒木海香、古屋暁美、伊藤仁、相澤虎之助

刑務所から出所したチケンが久しぶりに故郷に帰ってきた。
自分のいないうちに、少しずつ何か変わり始めている気配をチケンは感じ取る。老婆たちのうわさ話や、団地、仲間たち......。「紅雲院」は屋根の改修工事をしている。「紅雲院」には蛇たちが滝壺に集まって天に向かって遡り、屋根で体を赤く染めて龍になるという言い伝えがあった。その赤かった屋根の色が変わっていたのだった。 チケンは「紅雲院」という寺の跡取り息子だ。刑務所に入ってからチケンは、以前は嫌っていた坊主になるために修行に出ようと決意していた。一方、幼馴染みのシラスはやくざになったと仲間から知らされる。
シラスはやくざになってもなりきれず、足をあらいたいとチケンに言う。チケンは幼い頃に果たせなかった約束を果たそうと、シラスを助けようとして巻き込まれて行く。
『かたびら街』
2003年 / 8mm→DV / 50分
監督・撮影:相澤虎之助 脚本:相澤虎之助/行友太郎 編集:石原寛郎
キャスト:安田豊久、井川拓、二通じゅん、富田克也、市村夏樹、鳥肌実 

かつて暴走族であった4人の仲間は、現在それぞれの生活を送っている。
元特攻隊長であったヤスダとその後輩たちは、かつての友、新宿のイカワ、トミタ達とどうやら小競り合いが続いているらしい。
そして一人、岡山へ単身赴任しているイチムラ。彼だけは会社にサラリーマンとして就職することができた。
「俺は飯を食う為にまともになって働く」とイチムラ。
長引く不況や、失業の不安、繰り返しの日々。
チンピラの祭りの後、労働が待っていた。
そして誰もそれを避けられなかった。
『花物語バビロン』
1997年 / 8mm→DV / 45分
監督・脚本:相澤虎之助 撮影:相澤虎之助/行友太郎 編集:池原由起子
キャスト:柳田裕記、安田豊久、行友太郎ほか

90年代セカンドサマーオブラブのうねりの中で、日本中からバックパッカーが世界に向けて旅立った。あるものはインドへ、あるものはチベットへ、若手お笑い芸人が世界を旅するテレビ番組が好評を博していた。
その中で1人の若者がタイ北部チェンマイへと旅立っていった。この時期旅立った多くの若者たちは「自分探し」と称した自分たちの旅行が、いったい何の上に成り立っているのかを考えはしなかった。
しかし、歴史はそれを許さない。1人の若者は、バンコクの安宿である夢を見る。一面のケシの花畑の中で声が聞こえてくる。
「わたしたちを救ってください」
その声にひかれ、若者は20世紀の歴史の闇に葬り去られようとしている東南アジアの少数民族、モン族の村へと向かうのであった。
『国道20号線』
2006年 / 16mm→DV / 77分
監督・編集:富田克也 脚本:相澤虎之助/富田克也 撮影:高野貴子
キャスト:伊藤仁、鷹野毅、りみ、村田進二、西村正秀、Shalini Tewari

かつて暴走族だった主人公ヒサシは、同棲するジュンコとパチンコ通いの毎日。シンナーもやめられないていたらくで借金だけが嵩んでゆく。そんなヒサシに族時代からの友人で闇金屋の小澤が話を持ちかける。
「なぁヒサシ、シンナーなんかやめて俺と一緒に飛ばねえか?」
地方都市を走る国道。両脇を埋めるカラオケBOX、パチンコ店、消費者金融のATM、ドンキ・・・。現代の日本、とりわけ地方のありきたりの風景。ヒサシは夜の国道の灯が届かないその先に闇を見つけてしまった。宇宙のようにからっぽで、涯てのない闇のなかで繰り返されるありふれた事件、そしてかつて見たシンナーの幻覚の残像がヒサシを手招きする。
「ほんで俺も行ってもいいの?ホント?ホントに?」
『FURUSATO2009』
2009年 / HDV / 50分
※ドキュメンタリー作品
企画・撮影:富田克也 構成・編集:高野貴子

新作『サウダーヂ』のリサーチとして、一年間にわたって撮りためられた映像を空族の高野貴子が編集し、新たな息吹を与えるドキュメンタリー作品。『サウダーヂ』出演者たちの実生活を観る事ができる。 地方都市の農業、土木業、工業、商業はこれからどうなっていくのかという経済的な問題群の渦中で、ブラジルからの移民労働者や若いHIP-HOP グループといった集団が結びついていく。環境音、出演者の歩くリズム、ショベルカーの金属音、そしてブラジルのサンバ。ミュージカル映画のようだ(boid 樋口泰人)と評されたこの作品は『サウダーヂ』と共に観る事でより重層的に共鳴しあうはずである。
『RAP IN TONDO』
2011年 / HDV
※ドキュメンタリー作品
企画:富田克也 撮影:富田克也/河上健太郎 構成・編集:高野貴子

フィリピンのトンド地区に招かれた、HIPHOPグループstillichimiyaのトラックメイカー、Big BenとYoung-G(Omiyuki Channel)のふたりと、地元のHIPHOPコミュニティとの交流を描いたドキュメンタリー。 ギャング社会と密接に結びついたフィリピンのHIPHOPシーン、低所得者層の住む地域で治安の悪さの中ラップやダンスを学ぶ少年少女たち。危険と隣合わせの日常を生きる彼らの顔は、それでも屈託のない笑顔に覆われている。音楽を通じた文化交流の単なる記録だけではなく、まさにこの映画の存在こそが国境を越えた人間関係をつくり出していく軌跡となる。フィリピン最大のギャングTBS13のメンバーにより結成されたHIPHOPグループ、TondoTribeが出演、全面協力している。
『旅するパオジャンフー』
1995年 / 35mm / 95分
※ドキュメンタリー作品
監督:柳町光男 撮影:田村正毅 編集:吉田博/柳町光男 音楽:清水靖晃

パオジャンフーとは"世間を渡り歩く"という意味で、中国語で歌って、芸をし、物語を語りながら各地を回る旅芸人のことをさす。台湾で薬を売りながら各地を旅して廻るパオジャンフーたちを撮影したこのドキュメンタリーは、台湾ではやがて失われていくであろう、そして日本では今は失われてしまった人間の営みを時代や国を超えて映し出す。(日本のガマの油売り、富山の薬売り等が不思議と想起されるのだ。)撮影は小川紳介作品、柳町光男作品で抜群のコンビをみせる田村正毅。豊かな自然や祭りのイメージ、そして語っていることの全てが真実とは限らぬパオジャンフーの姿を、真実か嘘かのスリルをも呑み込んで悠然と描いている。踊り、火を吹き、台湾の歴史を弾き語る魑魅魍魎たちの姿をスクリーンでぜひ観ていただきたい。


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