没後30年 グラウベル・ローシャ ベストセレクション



ラテン・アメリカに蔓延する飢餓、貧困、窮乏という現実に対して映画を通じて変革を試みようとしたグラウベル・ローシャは、1965年に著した「飢えの美学」という宣言の中で、ヨーロッパの第三世界に対するお涙頂戴的な温情主義を批判し、体制順応的なヒューマニズムや昔ながらのフォークロアに堕すことなく、いかにして現実の苦しみを表象し、ラテン・アメリカ内外の観客に対して飢餓や貧困や排除が人々に与える影響をリアルに体験させることができるかという視点から「暴力の美学」を提起した。 

現実の困難をリアルに表象し、観客の持つ、従来の飢餓や貧困にまつわるお決まりのイメージを破壊することを目的に提起された、グラウベル・ローシャの「暴力の美学」は、それゆえに、観る者に苦痛をもたらす種類の暴力的イメージを提示することを恐れず、アクション映画の形式化された露骨な暴力とは無縁の、象徴的な暴力に満ち、観客は古典的映画で体験することのできるカタルシスからも遠いところに連れ去られてしまう。 

そうして高度に理論化された、観念的とも言うべきローシャの映画が、1960年代当時のブラジル知識層に与えた影響は大きかった。ポピュラー音楽好きならば誰もが知っているはずの、カエターノ・ヴェローゾ、ジルベルト・ジル、ガル・コスタら、ローシャと同郷のバイーア出身のミュージシャンたちが中心になって立ち上げた「トロピカリア」は、現代美術、演劇、映画等の各種カウンター・カルチャーが連動して広がりを見せた芸術運動として知られるが、「『狂乱の大地』を見た瞬間に僕の中で「トロピカリア」が形成された」とカエターノが語るように、現代のブラジル・ポピュラー・カルチャーの豊潤を決定付ける過激な種子が、43年という短い一生を生き急いだローシャによって、シネマ・ノーヴォという言葉が世界を席巻した1960年代に植え付けられたことは疑いようもない事実だ。個人的には、今に息づく隠されたトロピカリアDNAを見いだすべく、この特集上映に通いたいと思っている。
(上原輝樹)
参考文献:「ニュー・ブラジリアン・シネマ」 ルシア・ナジブ編 鈴木茂監修・監訳 Petit Grand Publishing, Inc.
2011.5.26 update
シネマ・ノーヴォの誕生を告げたグラウベル・ローシャの代表作5本連続上映
6月18日(土)よりユーロスペースにてロードショー
上映劇場:ユーロスペース
入場料金:一般1,700円/大学・専門学校生1,400円/会員・シニア1,200円/高校生800円/中学生以下500円
公式サイト:http://sky-way.jp/rocha/

配給:日本スカイウェイ/アダンソニア
配給協力:コミュニティシネマセンター
協力:ブラジル大使館
ユーロスペースでの上映を見逃した方は、ジャック&ベティへ!
7月16日(土)〜7月22日(金)@シネマ ジャック&ベティ
上映スケジュール
6月18日(土)
~24日(金)
11:00
狂乱の大地
(107分)
13:25
黒い神と白い悪魔
(118分)

15:50
アントニオ・ダス・モルテス
(100分)
18:15
大地の時代
(151分)

6月25日(土)
~7月1日(金)
11:00
大地の時代
(151分)
13:50
狂乱の大地
(107分)

16:10
黒い神と白い悪魔
(118分)

18:45
バラベント
(79分)

7月2日(土)
~8日(金)
11:00
バラベント
(79分)
13:25
アントニオ・ダス・モルテス
(100分)
15:50
大地の時代
(151分)

18:45
狂乱の大地
(107分)

7月9日(土)
~7月11日(月)
11:00
バラベント
(79分)
13:25
アントニオ・ダス・モルテス
(100分)
15:50
狂乱の大地
(107分)

18:45
黒い神と白い悪魔
(118分)

7月12日(火)
~7月15日(金)
11:00
狂乱の大地
(107分)
13:25
黒い神と白い悪魔
(118分)

15:50
バラベント
(79分)

18:45
アントニオ・ダス・モルテス
(100分)
上映プログラム

『バラベント』
1962年/モノクロ/79分/日本初公開
第13回カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭最優秀作品メダル受賞
製作総指揮:ロベルト・ピレス
製作:ロベルト・ピレス、ブラーガ・ネット、レクス・シンドラー、デヴィッド・シンガー
監督:グラウベル・ローシャ
原案・脚本:ルイス・パウリーノ・ドス・サントス、グラウベル・ローシャ、ジョゼ・テレス
原案・脚本:撮影:トニー・ラバトニ
美術:エリオ・モレーノ・リマ
編集:ネルソン・ペレイラ・ドス・サントス
音楽:カンヒキーニャ
出演:アントニオ・ピタンハ、ルイザ・マラニョン、ルシー・デ・カルバーリョ、アルド・テイシェーラ、リジオ・シルバ

ブラジル北東部バイーア地方。アフリカからの奴隷の最古の集積地。人々は、祈祷師にすがり、呪いをかけ、トランスに接して、さらに信仰にのめり込む。アフリカからの黒人奴隷文化に根ざした漁師たちの素朴な生活が息づく海岸の村に、ある日、白いスーツの青年が都会から戻って来る。以前村を出た漁師仲間。男は、人々のとらわれている因習、特に民間信仰カンドンブレから人々を解放しようとする。これをきっかけに村にはさまざまな波が立つ。地引き網漁の網元による零細漁民の支配、何とか支配から独立を計ろうともくろむ青年、彼を見つめる周囲の眼、屈折した人種的偏見、それに男女関係さえも・・・。
因習こそが、この地域の政治的かつ社会的な抑圧、そして絶望的な貧困の原因であった。全編に響き渡る民謡、人々の活力、ハイチのブードゥーに通じるカンドンブレの儀式の生々しさなど、まさしくバラベント(大地と海が一変し、愛、生活、社会が変貌する激しい瞬間)の予感を捉えた作品である。
『黒い神と白い悪魔』
1964年/ブラジル・コパカバーナ・フィルム製作/モノクロ/118分(完全版)
1964年ポレッタ・テルメ自由映画祭最優秀作品賞 1966年サンフランシスコ映画祭大賞受賞
1964年カンヌ映画祭出品
製作:ルイス・アウグスト・メンデス、グラウベル・ローシャ、ジャルバス・バルボサ
監督・脚本:グラウベル・ローシャ
原案・台詞:グラウベル・ローシャ、パウロ・ジル・ソアレス
撮影:ヴァルデマール・リマ
美術:パルロ・ジル・ソアレス
編集:ラファエル・フスト・バルベルデ、グラウベル・ローシャ
音楽:バッハ、ビラ=ロボス
歌:セルジオ・リカルド
出演:ジェラルド・デル・ヘイ、イオナー・マガリャーエス、オトン・バストス、ソニア・ドス・ウミルデス、リジオ・シルバ、マウリシオ・ド・バッレ、マロン、ジョアン・ガマ、ミルトン・ローザ、アントニオ・ピント、モンテ・サントの住人たち

ルイ・ゲーラ監督の『小銃』(65年)とともに、ブラジル映画のヌーヴェル・ヴァーグ<シネマ・ノーヴォ>の誕生を世界に告げた作品。不毛な土地で生活に追いつめられた貧しい牛飼いマヌエロは、死んだ牛のことで領主にむち打たれ、はずみで領主を殺してしまった。お尋ね者となったマヌエルは放浪の預言者として信者を集める邪教の師にすがり、その黒人とともに各地を渡り歩き、政府軍と戦うまでになる。彼らに所領を踏みにじられた教会や大地主は、やがて群盗カンガセイロの殺し屋として名高いアントニオ・ダス・モルテスを雇い討伐に差し向けた。フォークロアと象徴の間から生まれたかのような得体の知れないこの男は正義と何の縁もない。子供まで殺され、カンガセイロに身を投じることを余儀なくされたマヌエルは妻とともにどこまでも逃げる・・・。 黒い神たる黒人神父と白い悪魔・殺し屋アントニオとの間で翻弄される主人公。ブラジル北東部に実在した幾多のカンガセイロのイメージから生まれ、民衆の想像力の中で発酵していったフォークロアの世界を映像化し、代表作『アントニオ・ダス・モルテス』と対になる重要作品である。神話伝説に通じる時代活劇世界でありながら、荒涼とした風土と生活の細部がドキュメンタリーのように描かれ、それでいてバラッドのあふれるフォークロア・ミュージカルでもあるようなこの多面的な世界によって、ローシャは作家としての本領を世界に向けて発揮した。
『狂乱の大地』
1967年/ブラジル・マパ・フィルム=ディフィルム製作/モノクロ/107分/日本初公開
1967年カンヌ映画祭ルイス・ブニュエル賞・国際映画批評家連盟賞
ロカルノ映画祭グランプリ・批評家賞
ハバナ映画祭批評家賞・優秀映画賞受賞
製作総指揮:セリート・ビアナ
共同制作:ルイス・カルロス・バレート、カルロス・ディエゲス、レイムンド・ヴァンデルレイ、グラウベル・ローシャ
監督・原案・脚本:グラウベル・ローシャ
撮影:ルイス・カルロス・バレート
美術・衣裳:パルロ・ジル・ソアレス
編集:エデュアルド・エスコレル
音楽:セルジオ・リカルド、カルロス・ゴメス"O Guarani"、ビラ=ロボス"Bachianasno.3.6"、ジュゼッペ・ヴェルディ『オテッロ』序曲
出演:ジャルデル・フィーリョ、グラウセ・ローシャ、パウロ・アウトラン、ジョセ・レウゴイ、パウロ・グラシンド

架空の共和国エル・ドラドを舞台に、抑圧と解放をめぐり揺れ動く人々の様を、現実、観念、象徴、回想・幻想、さらに夢想を交錯させて語る壮大な寓話。
理想に燃えたジャーナリストにして詩人パウロ・マーティンスは、保守政治家ジアスに眼をかけられていが、地方へ行き出会った活動家のサラと意気投合し、民衆に人気の進歩派議員ヴィエイラを貧困と不正義を変革する新しいリーダーとして知事に押し上げた。しかし選挙に勝つと、ヴィエイラはこれまでのしがらみにとらわれ何一つ変革ができない。失望したパウロは首都に戻ると、国内一の企業家フエンテスに近づくが大統領選への動きの中で裏切られる。パウロは武装闘争に向けて立ちたいと再びヴィエイラと組むのだが・・・。 
政治と文化の対立と土着状況の中での、必然的に起こる挫折を痛々しくそして荒々しくえぐり出す。公開当時、すべてを否定していくこの映画のアナーキーな方向性が、映画界を超えて多大な論争を巻き起こし、メディアだけでなく、国会でさえ論じられた。
ローシャは「私にとって何よりも重要な作品」と語る。実際、比喩として浮かび上がるブラジル社会への透徹した分析眼は、アントニオ・ダス・モルテスものを超える。幼少より馴染んだ世界に依拠していたアントニオ・ダス・モルテスものに対し、この作品は、知的操作によってより深い表現を意識的に探求したもので、ローシャ自ら「論争的・扇動的映画」と呼んだ。
『アントニオ・ダス・モルテス』
1969年/ブラジル・マパ・フィルム=フランス・クロード・アントワーヌフィルム製作/カラー/100分
1969年カンヌ国際映画祭監督賞、ルイス・ブニュエル賞受賞
製作・監督・原案・脚本・美術:グラウベル・ローシャ
撮影:アフォンソ・ベアード
編集:エドゥアルド・エスコレル
音楽:マルロス・ノブレ、ヴァルテル・ケイロス、セルジオ・リカルド、ブラジル北東部の民謡
出演:マウリシオ・ド・バッレ、ウーゴ・カルバナ、オデーデ・ラーラ、オトン・バストス、ジョフレ・ソアレス、ロリバル・ハリス、マーリオ・ブスマン、ローザ・マリア・ペンナ、ビニチウス・サルバトーリ、エマノエル・カバルカンティ、サンテ・スカルダフェッリ、コンセイサン・センナ、ミラグレスとアマルゴーサの住民たち

ローシャ自身が「私にとって、真に映画的といえる最初の試み」と語る作品。
アラゴアス州の小さな町では、若い聖女のもとに集った大勢の信者が激しく踊るのを憂慮した警察署長が旧知の殺し屋アントニオ・ダス・モルテスを呼び寄せた。信者の中にカンガセイロがいて、アントニオは早速この男に深手を与える。しかし町を支配する地主の姿勢を知り、信者の様子を見、聖女と話すうち、殺す相手を間違えていたのではないかと思うようになる。折しも地主の妻が優柔不断な情夫を差し措き、アントニオに夫の殺害を持ちかけた。そんなとき地主の雇った別の殺し屋一味が町に到着する。アントニオが真の敵は誰かを知る頃、彼らは信徒たちを惨殺し、両者の対決は迫っていた・・・。 

タイトル・バックの大蛇を刺しつらぬく聖ゲオルギウス。その伝説がこの映画の下敷きである。聖書の英雄がブラジルでは土着化し黒人奴隷の解放の伝説に転化された。映画の中ではブラジルの原始宗教と共鳴し合い、フォークロアのパトスをかき立てる。伝承のバラッドに、ブラジルのシンセサイザー音楽の開祖マルロス・ノブレのスコアが絡みあい全編セッションといっても良い。
『黒い神と白い悪魔』とともに、一匹狼の死神アントニオが活躍する姉妹編だが、アントニオの無差別な殺戮が、革命と民衆の解放に事態を逆転させていくさまがアントニオに焦点を当てて描かれる。ローシャの作風は、より直接的に西部劇へと傾斜し、そんな世界の空気を、ユーモアさえ交えて体感させようとする。残虐非道な支配者のもとで、殺し屋がいつの間にか虐げられている農民を解放する役回りを演じるという逆転−−そこに民衆の願望が伺える。
『大地の時代』
1980年/ブラジル・エンブラフィルム製作/カラー/ 151分/日本初公開
1980年ヴェネツィア国際映画祭出品
製作:キム・アンドラーデ
監督・原案・脚本:グラウベル・ローシャ
撮影:ロベルト・ピレス、ペドロ・モラエス、ロケ・アラウホ
美術・衣裳:パウラ・ガエタン・、ラウル・ウィリアム
編集:カルロス・コックス、ラウル・ソアレス、リカルド・ミランダ
音楽:ロジェリオ・デゥアルテ、ビラ=ロボス
出演:マウリシオ・ド・バッレ、ジェス・バラダン、アントニオ・ピタンハ、タルシシオ・メイラ、ジェラルド・デル・へイ、アナ=マリア・マガリャーエス、ノルマ・ベンゲル、カルロス・ペトロヴィッチョ

1981年に死去したグラウベル・ローシャの遺作である。
鮮やかな色調のシーンが次々に続く。夜明けの山並み、バイーアの祭、リオのカーニヴァル ダンス、ブラジルの政治状況の総括、ブラジリアでの工事現場、バイーアの海岸で行われる歴史劇といった具合に、バイーア、ブラジリア、リオ・デ・ジャネイロを舞台にし、過去と現在を往還る映像と音によるシンフォニー。観光案内や第三世界の定番のような、あるいはテレビで見慣れた映像は現れることがない。人々のエネルギーが画面にみなぎる。映像に稀な力があり、ヴィデオアートとも違う映像詩が展開する。ローシャ自身は「ブラジルの肖像の脇に置かれた私の肖像画」という言葉を遺した。映画の解体を先取りするかのようなこの試みを、あるいは反シンフォニーと呼ぶべきだろうか。ポストモダンを経た現代にこそ、その真の意味が理解されるべき作品である。30年以上の時を経て再びファンの眼に触れる条件は整った。ヴェネツィア国際映画祭で上映された際、作家のアルベルト・モラヴィアやミケランジェロ・アントニオーニ等が絶賛した事でも話題になった作品。
Glauber Rocha グラウベル・ローシャ
1938年3月14日、ブラジル北東部バイーア州ヴィットリア・ダ・コンキスタ生まれ。59年から61年まで法律を学びながら「ジュルナル・ド・ブラジル」紙及び「メトロポリタノ」紙の映画コラムを担当、以後もサルヴァドール市とリオ・デ・ジャネイロでジャーナリストとして働く一方、映画・演劇サークルの中心的オルガナイザー、イデオローグとなった。同コラムは63年、「ブラジル映画の批判的検討」なる題で出版された。ブラジル出身の国際的映画人アルベルト・カヴァルカンティやブラジルの<シネマ・ノーヴォ>の先駆者ともいえる作品『野蛮なアフリカ』(33年)他の監督フンベルト・マウロなど、当時すでに忘れられていた遺産に光をあて、ブラジル映画を歴史的現実の中で見つめなおそうとしていたもので、その後のローシャのフンベルト・マウロの影響が濃いといわれる長編第一作『バラベント』を発表した後、その編集を担当した僚友、ネルソン・ペレイラ・ドス・サントスの作品『乾いた生』(63年)に協力する。続いて、民俗的伝説を背景に、カンガセイロ(匪賊)とその殺し屋アントニオのかかわりを描いた『黒い神と白い悪魔』を発表。この作品によってローシャは<シネマ・ノーヴォ>の最も先鋭な代表者とみなされるようになった。<シネマ・ノーヴォ>はブラジルの若い映画をさす呼称であると同時に、リオ・デ・ジャネイロを根拠地とするローシャたち映画作家が結成したグループの名称でもあった。ディフィルムという配給会社を併せ持つ彼らは、30人ほどの監督を擁し、ワウテル・リーマJr.の『水車小屋の少年』(65年)、カルロス・ディエゲスの『大都会』(66年)をはじめ、年間20本程度の映画を送り出した。
ローシャ自身は、『狂乱の大地』(67年)、『アントニオ・ダス・モルテス』(69年)と問題作を発表し、映画作家としての地位を確立した。『狂乱の大地』は、カンヌ映画祭で国際映画批評家連盟賞、ロカルノ映画祭でグランプリ・批評家賞を受賞。『アントニオ・ダス・モルテス』がカンヌ国際映画祭監督賞を受賞するに及んで、その名は国際的にも広く知られるようになった。西欧での評価の高まりとともにヨーロッパにも活動の場を広げ、ゴダールの『東風』(69年)に出演し、ヨーロッパで資金調達し、アフリカへ出かけて『七つの頭のライオン』(70年)を撮影、またスペインのプロデューサー、ペドロ・ファゲスの招きでカタルーニャ地方に腰を据え、『切られた首』(70年)を撮影するなど派手な活動を続け、作品も次々に評判を呼んだ。
しかしブラジルに戻ってみると、政治的抑圧は厳しくなっており、1971年には、亡命を余儀なくされ、1970年代の終わりまでヨーロッパ、キューバ、南米などを転々とした。そのため、1968年に本国で企画が始まった『癌』は、完成が遅れ、しかもイタリアで仕上げる結果となった。作風もそれまでの圧倒的な政治的熱気は影を潜め、神秘的、秘教的な初期の短篇の世界が甦ってきた。1971年から72年にかけてはキューバに滞在し、1972年にドキュメンタリー『ブラジルの歴史』(マルコス・メデイロスとの共同作品)に着手、1974年までかけて、これも最後はイタリアで完成させた。翌年の「クラロ」は撮影もイタリアであった。
ローシャは1976年ブラジルに帰国、翌年には短篇ドキュメンタリー2本を作り、そのうち『ディ』は、画家のディ・カヴァルカンティをとった作品で、カンヌ国際映画祭で短編審査員賞を受賞したが、遺族により公開が差し止められ、1978年に始めた長編『大地の時代』の企画も困難を極めるなど、苦難が続いた。 その後、ポルトガルで次回作を準備中に気管支炎をこじらせ病状が悪化、リスボンからリオ・デ・ジャネイロの病院に搬送された末、1981年8月に敗血症で死去した。

【グラウベル・ローシャ フィルモグラフィ】

『ある日の坂道』
『Um dia na rampa』1957年/短編
『中庭』
『Patio』1959年/モノクロ/短編
『広場の十字架』
『A curuz na paraca』1959年/モノクロ/短編
『バラベント』
『Barravento』1961年/モノクロ/79分 ※カルロヴィ・ヴァリ映画祭にてメダル授与
『黒い神と白い悪魔』
『Deus e o diabo na terra do sol』1964年/ブラジル・コパカバーナ・フィルム製作/モノクロ/118分(完全版)※1964年ポレッタ・テルメ自由映画祭最優秀作品賞、1966年サンフランシスコ映画祭大賞受賞
『アマゾン』
『Amazonas,Amazonas』1965 年/カラー/短編ドキュメンタリー
『マラニョン』
『Maranahao66』1966年/モノクロ/短編ドキュメンタリー
『狂乱の大地』
『Terra em transe』1967年/ブラジル・マパ・フィルム=ディフィルム製作/モノクロ/107分 ※1967年カンヌ映画祭ルイス・ブニュエル賞・国際映画批評家連盟賞、ロカルノ映画祭グランプリ・批評家賞受賞
『1968年』
『1968』1968年/モノクロ/短編
『アントニオ・ダス・モルテス』
『O Dragao da maldade Contra o Santo Guerreiro (Antonio das mortes)』1969年/ブラジル・マパ・フィルム=フランス・クロード・アントワーヌフィルム製作/カラー/100分 ※1969年カンヌ国際映画祭監督賞、ルイス・ブニュエル賞受賞
『切られた首』
『Cabezas cortadas』1970年/スペイン・プロフィルム=フィルムスコンタクト=ブラジル・マパ・フィルム/カラー/90分
『七つの頭のライオン』
『O Leao de sete cabecas』1970年/フランス・クロード・アントワーヌフィルム=イタリア・ポリフィルム製作/カラー/103分
『癌』
『Cancer』1972年/ブラジル・マパ・フィルム製作/モノクロ/16mm/86分
『ブラジルの歴史』
『Historia do Brasil』1974年/キューバ=イタリア合作/モノクロ/158分/長編ドキュメンタリー
『As Armas e o Povo』
1975年/モノクロ/長編
『クラロ』
『Claro』1975年/イタリア・DPT=SPA製作/カラー/106分
『ディ』
『Di』1977年/カラー/短編ドキュメンタリー ※第30回カンヌ国際映画祭短編審査員賞受賞
『ジョルジェ・マードの映画』
『Jorjajado no Cinema』1977年/カラー/長編ドキュメンタリー
『大地の時代』
『A Idade da terra』1980年/ブラジル・エンブラフィルム製作/カラー/151分


没後30年 グラウベル・ローシャ ベストセレクションについて、皆様のご意見・ご感想をお待ちしております。
なお、ご投稿頂いたものを掲載するか否かの判断については、
OUTSIDE IN TOKYO 編集部の判断に一任頂きますので、ご了承ください。





Comment(0)

印刷