(上原輝樹) |
参考文献:「ニュー・ブラジリアン・シネマ」 ルシア・ナジブ編 鈴木茂監修・監訳 Petit Grand Publishing, Inc. |
2011.5.26 update |
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上映プログラム |
『バラベント』 1962年/モノクロ/79分/日本初公開 第13回カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭最優秀作品メダル受賞 製作総指揮:ロベルト・ピレス 製作:ロベルト・ピレス、ブラーガ・ネット、レクス・シンドラー、デヴィッド・シンガー 監督:グラウベル・ローシャ 原案・脚本:ルイス・パウリーノ・ドス・サントス、グラウベル・ローシャ、ジョゼ・テレス 原案・脚本:撮影:トニー・ラバトニ 美術:エリオ・モレーノ・リマ 編集:ネルソン・ペレイラ・ドス・サントス 音楽:カンヒキーニャ 出演:アントニオ・ピタンハ、ルイザ・マラニョン、ルシー・デ・カルバーリョ、アルド・テイシェーラ、リジオ・シルバ ブラジル北東部バイーア地方。アフリカからの奴隷の最古の集積地。人々は、祈祷師にすがり、呪いをかけ、トランスに接して、さらに信仰にのめり込む。アフリカからの黒人奴隷文化に根ざした漁師たちの素朴な生活が息づく海岸の村に、ある日、白いスーツの青年が都会から戻って来る。以前村を出た漁師仲間。男は、人々のとらわれている因習、特に民間信仰カンドンブレから人々を解放しようとする。これをきっかけに村にはさまざまな波が立つ。地引き網漁の網元による零細漁民の支配、何とか支配から独立を計ろうともくろむ青年、彼を見つめる周囲の眼、屈折した人種的偏見、それに男女関係さえも・・・。 因習こそが、この地域の政治的かつ社会的な抑圧、そして絶望的な貧困の原因であった。全編に響き渡る民謡、人々の活力、ハイチのブードゥーに通じるカンドンブレの儀式の生々しさなど、まさしくバラベント(大地と海が一変し、愛、生活、社会が変貌する激しい瞬間)の予感を捉えた作品である。 |
『黒い神と白い悪魔』 1964年/ブラジル・コパカバーナ・フィルム製作/モノクロ/118分(完全版) 1964年ポレッタ・テルメ自由映画祭最優秀作品賞 1966年サンフランシスコ映画祭大賞受賞 1964年カンヌ映画祭出品 製作:ルイス・アウグスト・メンデス、グラウベル・ローシャ、ジャルバス・バルボサ 監督・脚本:グラウベル・ローシャ 原案・台詞:グラウベル・ローシャ、パウロ・ジル・ソアレス 撮影:ヴァルデマール・リマ 美術:パルロ・ジル・ソアレス 編集:ラファエル・フスト・バルベルデ、グラウベル・ローシャ 音楽:バッハ、ビラ=ロボス 歌:セルジオ・リカルド 出演:ジェラルド・デル・ヘイ、イオナー・マガリャーエス、オトン・バストス、ソニア・ドス・ウミルデス、リジオ・シルバ、マウリシオ・ド・バッレ、マロン、ジョアン・ガマ、ミルトン・ローザ、アントニオ・ピント、モンテ・サントの住人たち ルイ・ゲーラ監督の『小銃』(65年)とともに、ブラジル映画のヌーヴェル・ヴァーグ<シネマ・ノーヴォ>の誕生を世界に告げた作品。不毛な土地で生活に追いつめられた貧しい牛飼いマヌエロは、死んだ牛のことで領主にむち打たれ、はずみで領主を殺してしまった。お尋ね者となったマヌエルは放浪の預言者として信者を集める邪教の師にすがり、その黒人とともに各地を渡り歩き、政府軍と戦うまでになる。彼らに所領を踏みにじられた教会や大地主は、やがて群盗カンガセイロの殺し屋として名高いアントニオ・ダス・モルテスを雇い討伐に差し向けた。フォークロアと象徴の間から生まれたかのような得体の知れないこの男は正義と何の縁もない。子供まで殺され、カンガセイロに身を投じることを余儀なくされたマヌエルは妻とともにどこまでも逃げる・・・。 黒い神たる黒人神父と白い悪魔・殺し屋アントニオとの間で翻弄される主人公。ブラジル北東部に実在した幾多のカンガセイロのイメージから生まれ、民衆の想像力の中で発酵していったフォークロアの世界を映像化し、代表作『アントニオ・ダス・モルテス』と対になる重要作品である。神話伝説に通じる時代活劇世界でありながら、荒涼とした風土と生活の細部がドキュメンタリーのように描かれ、それでいてバラッドのあふれるフォークロア・ミュージカルでもあるようなこの多面的な世界によって、ローシャは作家としての本領を世界に向けて発揮した。 |
『狂乱の大地』 1967年/ブラジル・マパ・フィルム=ディフィルム製作/モノクロ/107分/日本初公開 1967年カンヌ映画祭ルイス・ブニュエル賞・国際映画批評家連盟賞 ロカルノ映画祭グランプリ・批評家賞 ハバナ映画祭批評家賞・優秀映画賞受賞 製作総指揮:セリート・ビアナ 共同制作:ルイス・カルロス・バレート、カルロス・ディエゲス、レイムンド・ヴァンデルレイ、グラウベル・ローシャ 監督・原案・脚本:グラウベル・ローシャ 撮影:ルイス・カルロス・バレート 美術・衣裳:パルロ・ジル・ソアレス 編集:エデュアルド・エスコレル 音楽:セルジオ・リカルド、カルロス・ゴメス"O Guarani"、ビラ=ロボス"Bachianasno.3.6"、ジュゼッペ・ヴェルディ『オテッロ』序曲 出演:ジャルデル・フィーリョ、グラウセ・ローシャ、パウロ・アウトラン、ジョセ・レウゴイ、パウロ・グラシンド 架空の共和国エル・ドラドを舞台に、抑圧と解放をめぐり揺れ動く人々の様を、現実、観念、象徴、回想・幻想、さらに夢想を交錯させて語る壮大な寓話。 理想に燃えたジャーナリストにして詩人パウロ・マーティンスは、保守政治家ジアスに眼をかけられていが、地方へ行き出会った活動家のサラと意気投合し、民衆に人気の進歩派議員ヴィエイラを貧困と不正義を変革する新しいリーダーとして知事に押し上げた。しかし選挙に勝つと、ヴィエイラはこれまでのしがらみにとらわれ何一つ変革ができない。失望したパウロは首都に戻ると、国内一の企業家フエンテスに近づくが大統領選への動きの中で裏切られる。パウロは武装闘争に向けて立ちたいと再びヴィエイラと組むのだが・・・。 政治と文化の対立と土着状況の中での、必然的に起こる挫折を痛々しくそして荒々しくえぐり出す。公開当時、すべてを否定していくこの映画のアナーキーな方向性が、映画界を超えて多大な論争を巻き起こし、メディアだけでなく、国会でさえ論じられた。 ローシャは「私にとって何よりも重要な作品」と語る。実際、比喩として浮かび上がるブラジル社会への透徹した分析眼は、アントニオ・ダス・モルテスものを超える。幼少より馴染んだ世界に依拠していたアントニオ・ダス・モルテスものに対し、この作品は、知的操作によってより深い表現を意識的に探求したもので、ローシャ自ら「論争的・扇動的映画」と呼んだ。 |
『アントニオ・ダス・モルテス』 1969年/ブラジル・マパ・フィルム=フランス・クロード・アントワーヌフィルム製作/カラー/100分 1969年カンヌ国際映画祭監督賞、ルイス・ブニュエル賞受賞 製作・監督・原案・脚本・美術:グラウベル・ローシャ 撮影:アフォンソ・ベアード 編集:エドゥアルド・エスコレル 音楽:マルロス・ノブレ、ヴァルテル・ケイロス、セルジオ・リカルド、ブラジル北東部の民謡 出演:マウリシオ・ド・バッレ、ウーゴ・カルバナ、オデーデ・ラーラ、オトン・バストス、ジョフレ・ソアレス、ロリバル・ハリス、マーリオ・ブスマン、ローザ・マリア・ペンナ、ビニチウス・サルバトーリ、エマノエル・カバルカンティ、サンテ・スカルダフェッリ、コンセイサン・センナ、ミラグレスとアマルゴーサの住民たち ローシャ自身が「私にとって、真に映画的といえる最初の試み」と語る作品。 アラゴアス州の小さな町では、若い聖女のもとに集った大勢の信者が激しく踊るのを憂慮した警察署長が旧知の殺し屋アントニオ・ダス・モルテスを呼び寄せた。信者の中にカンガセイロがいて、アントニオは早速この男に深手を与える。しかし町を支配する地主の姿勢を知り、信者の様子を見、聖女と話すうち、殺す相手を間違えていたのではないかと思うようになる。折しも地主の妻が優柔不断な情夫を差し措き、アントニオに夫の殺害を持ちかけた。そんなとき地主の雇った別の殺し屋一味が町に到着する。アントニオが真の敵は誰かを知る頃、彼らは信徒たちを惨殺し、両者の対決は迫っていた・・・。 タイトル・バックの大蛇を刺しつらぬく聖ゲオルギウス。その伝説がこの映画の下敷きである。聖書の英雄がブラジルでは土着化し黒人奴隷の解放の伝説に転化された。映画の中ではブラジルの原始宗教と共鳴し合い、フォークロアのパトスをかき立てる。伝承のバラッドに、ブラジルのシンセサイザー音楽の開祖マルロス・ノブレのスコアが絡みあい全編セッションといっても良い。 『黒い神と白い悪魔』とともに、一匹狼の死神アントニオが活躍する姉妹編だが、アントニオの無差別な殺戮が、革命と民衆の解放に事態を逆転させていくさまがアントニオに焦点を当てて描かれる。ローシャの作風は、より直接的に西部劇へと傾斜し、そんな世界の空気を、ユーモアさえ交えて体感させようとする。残虐非道な支配者のもとで、殺し屋がいつの間にか虐げられている農民を解放する役回りを演じるという逆転−−そこに民衆の願望が伺える。 |
『大地の時代』 1980年/ブラジル・エンブラフィルム製作/カラー/ 151分/日本初公開 1980年ヴェネツィア国際映画祭出品 製作:キム・アンドラーデ 監督・原案・脚本:グラウベル・ローシャ 撮影:ロベルト・ピレス、ペドロ・モラエス、ロケ・アラウホ 美術・衣裳:パウラ・ガエタン・、ラウル・ウィリアム 編集:カルロス・コックス、ラウル・ソアレス、リカルド・ミランダ 音楽:ロジェリオ・デゥアルテ、ビラ=ロボス 出演:マウリシオ・ド・バッレ、ジェス・バラダン、アントニオ・ピタンハ、タルシシオ・メイラ、ジェラルド・デル・へイ、アナ=マリア・マガリャーエス、ノルマ・ベンゲル、カルロス・ペトロヴィッチョ 1981年に死去したグラウベル・ローシャの遺作である。 鮮やかな色調のシーンが次々に続く。夜明けの山並み、バイーアの祭、リオのカーニヴァル ダンス、ブラジルの政治状況の総括、ブラジリアでの工事現場、バイーアの海岸で行われる歴史劇といった具合に、バイーア、ブラジリア、リオ・デ・ジャネイロを舞台にし、過去と現在を往還る映像と音によるシンフォニー。観光案内や第三世界の定番のような、あるいはテレビで見慣れた映像は現れることがない。人々のエネルギーが画面にみなぎる。映像に稀な力があり、ヴィデオアートとも違う映像詩が展開する。ローシャ自身は「ブラジルの肖像の脇に置かれた私の肖像画」という言葉を遺した。映画の解体を先取りするかのようなこの試みを、あるいは反シンフォニーと呼ぶべきだろうか。ポストモダンを経た現代にこそ、その真の意味が理解されるべき作品である。30年以上の時を経て再びファンの眼に触れる条件は整った。ヴェネツィア国際映画祭で上映された際、作家のアルベルト・モラヴィアやミケランジェロ・アントニオーニ等が絶賛した事でも話題になった作品。 |
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