ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー没後30周年
特別講義「ファスビンダーと現代」



(彼らなりに)最大限の撮影技巧を凝らした『あやつり糸の世界』(73)の直後に撮影された『マルタ』(73-74)は、前作とは対照的に(一部の例外を除いて)たったひとつのレンズを使ってミニマルな方法で撮影された作品だが、この作品について、撮影監督のミヒャエル・バウハウスは、「映画的強度に満ち、整合性が貫かれている、個人的に最も好きなファスビンダー作品」と1974年の時点で語っている。一方、『ローラ』(81)は、『マリア・ブラウンの結婚』(79)『ベロニカ・フォスの憧れ』(82)と並ぶ、戦後ドイツ史三部作を構成する一作である。ファスビンダーは、歴史には独自の構造があり、第三帝国も決して偶然出来上がったものではないと語っているが、この作品では、経済復興期の戦後ドイツ、1957年を舞台にその時代特有の民主主義の構造をシニカルに炙り出そうと試みている。『マルタ』における"結婚"、『ローラ』において複雑な三角関係に投影される"政治"、この"結婚"と"政治"という、2つのテーマを通じて、21世紀の今、見えてくるものは何か?ファスビンダー作品に、"現代において見失われているポジティヴさ"を読み取ろうという、ドイツ映画研究者渋谷哲也氏のレクチャーも予定されている。
参考:Rainer Werner Fassbinder (The Museum of Modern Art, New York)
(上原輝樹)
2012.5.8 update
ファスビンダーの誕生日は1945年5月31日、第二次大戦のドイツ降伏の直後に生まれている。没日は1982年6月10日。政治の季節からドイツ社民党政権時代を経て再び社会が保守化するさなかである。彼はひたすら映画・演劇活動を行なうことによってドイツ社会を批判・挑発した。嗜虐的で露出趣味でマニアックな映画が氾濫している現在、70年代前衛のニュージャーマンシネマは今から見ると"牧歌的"ですらある。その中でファスビンダーは個人(自分自身)の人間関係を普遍化し、そこに社会との接点を構造的に浮き彫りにした。過去との対決は親との対決であり、独裁者とは映画監督のことである。具体的だからそこには変化への希望が仄見える。『絶望』を『光への旅』へとさらりと読み替え、「Radio-activity」で軽やかにぎこちなくダンスしてみせるファスビンダーのセンス。これこそが現代において見失われているポジティヴさではなかろうか。
渋谷哲也(ドイツ映画研究者)
2012年5月11日(金)・5月12日(土)
会場:アテネ・フランセ文化センター 
料金:一般=1日券1000円/2日券1800円 アテネ・フランセ文化センター会員=800円 

公式サイト:http://www.athenee.net/culturalcenter/program/rwf/lecture.html
上映スケジュール
5月11日(金)
18:00
マルタ (116分)
※デジタル上映
20:00
講義「ファスビンダーと結婚の風景」
講師:渋谷哲也
5月12日(土)
16:30
ローラ (113分)
※デジタル上映
18:30
講義「演劇・文学そして政治―ファスビンダーの様式性について」
講師:渋谷哲也
上映プログラム


『マルタ』
1973-1974年(116分)
監督:ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー
撮影:ミヒャエル・バルハウス
出演:マーギット・カーステンゼン カールハインツ・ベーム 

マルタは、父親の死後、イタリアで見かけたヘルムートとドイツで偶然再会し、結婚する。マルタはよき妻として夫ヘルムートの抑圧に従うが、ヘルムートは要求を徐々にエスカレートさせていく

『ローラ』
1981年(113分)
監督:ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー
撮影:クサヴァー・シュヴァルツェンベルガー
出演:バーバラ・ズコヴァ アルミン・ミューラー=シュタール 

新任の建設局長フォン・ボームが、建設会社の経営者シュッケルトの愛人である娼婦ローラに心を奪われる。戦後ドイツの経済復興期を背景に、公私の利害が複雑に交錯したローラと二人の男の三角関係を描く。
ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー Rainer Werner Fassbinder
1945年5月31日、バート・ヴェーリスホーフェン生まれ。1967年に劇団「アクツィオーン・テアーター」に参加。同劇団解散後の1968年、仲間たちとともに劇団「アンチテアター」を設立。劇団メンバーとの挑発的かつ実験的な長編映画制作を始める。1978年に発表した『マリア・ブラウンの結婚』により、ニュー・ジャーマン・シネマを代表する監督として世界的に認知される。『リリー・マルレーン』(1980/81)『ケレル』(1982)では国際的スターを起用した大作映画を撮り上げる。ドイツ映画の未来を託される希有な存在となった矢先の1982年6月10日、37歳で急死。彼の映画は、女性の抑圧、同性愛、ユダヤ人差別、テロリズムなどスキャンダラスなテーマが多く、常に激しい議論を巻き起こした。遺された42本の監督作品は、今日にも多くの問題を提起し続けている。


ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー没後30周年
特別講義「ファスビンダーと現代」について、皆様のご意見・ご感想をお待ちしております。
なお、ご投稿頂いたものを掲載するか否かの判断については、
OUTSIDE IN TOKYO 編集部の判断に一任頂きますので、ご了承ください。





Comment(0)

印刷