ハンス・ユルゲン・ジーバーベルク ドイツ三部作



ニュー・ジャーマン・シネマの一翼を担いながら、日本では今までほとんど紹介されることがなかったハンス・ユルゲン・ジーバーベルクの名前がまことしやかに囁かれるようになったのは、(渋谷哲也、荒井泰、五所純子、各氏出演のUSTREAM番組「ハンス・ユルゲン・ジーバーベルクを語る」によると)ドゥルーズの「シネマ」の結論部分でデュラスの『インディア・ソング』(75)と彼の作品が現代映画の代表格として並び賞されたお陰であるらしいのだが、黒沢清監督を「作者の痛快な自信過剰に目の玉が飛び出るほど仰天」させ、相矛盾する二つの思想であるはずの「ブレヒトの叙事演劇とヴァーグナーの音楽美学の映画的結合」(ジーバーベルク)を試みた作品群とは一体どのようなものなのか? ルキーノ・ヴィスコンティの『ルードヴィッヒ』(72)に対抗して作られたという『ルートヴィヒII世のためのレクイエム』(72)、ヒトラーが愛読していたドイツの冒険小説家カール・マイの半生を描いた『カール・マイ』(74)、スーザン・ソンタグが「20世紀最高の芸術作品かつ史上最高の映画」と激賞した約7時間の『ヒトラー、あるいはドイツ映画』(77)という、壮大な"虚構"をモチーフとしたドイツ三部作が、日本語字幕付きで上映される。自分の作品は観るものに開かれた作品であるとジーバーベルク自身が語っている(荒井泰)とのことだから、現在御年77歳のご本人が、日本の観客の反応を一番楽しみにしているに違いない。
(上原輝樹)
2012.8.9 update
2012年8月10日(金)〜8月25日(土)
会場:アテネ・フランセ文化センター 
料金:一般 1回券1,200円/2回券2,000円
アテネ・フランセ文化センター会員=1回券1,000円/2回券1,800円 

公式サイト:http://www.athenee.net/culturalcenter/program/sy/trilogie.html

USTREAM「ハンス・ユルゲン・ジーバーベルクを語る」
出演:荒井泰(研究者)、五所純子(文筆家)、渋谷哲也(ドイツ映画研究者) 
http://www.ustream.tv/recorded/24372360
上映スケジュール
8月10日(土)
14:40
ルートヴィヒII世のためのレクイエム
(134分)
17:30
カール・マイ
(182分)


8月11日(土)
16:00
ヒトラー、あるいはドイツ映画 
第1部+第2部

(計217分)
8月14日(火)
17:00
ヒトラー、あるいはドイツ映画 
第3部+第4部

(計193分)
8月15日(水)
14:50
カール・マイ
(182分)


18:30
ルートヴィヒII世のためのレクイエム
(134分)
8月16日(木)
17:00
ヒトラー、あるいはドイツ映画 
第1部+第2部

(計217分)
8月17日(金)
17:00
ヒトラー、あるいはドイツ映画 
第3部+第4部

(計193分)
8月18日(土)
13:40
ルートヴィヒII世のためのレクイエム
(134分)
16:30
カール・マイ
(182分)


8月21日(火)
17:00
ヒトラー、あるいはドイツ映画 
第1部+第2部

(計217分)
8月22日(水)
17:00
ヒトラー、あるいはドイツ映画 
第3部+第4部

(計193分)
8月23日(木)
14:40
ルートヴィヒII世のためのレクイエム
(134分)
17:30
カール・マイ
(182分)


8月24日(金)
17:00
ヒトラー、あるいはドイツ映画 
第1部+第2部

(計217分)
8月25日(土)
16:00
ヒトラー、あるいはドイツ映画 
第3部+第4部

(計193分)
上映プログラム

『ルートヴィヒII世のためのレクイエム』
1972年(134分)※デジタル上映
監督・脚本/ハンス・ユルゲン・ジーバーベルク
撮影/ディートリヒ・ローマン
出演/ハリー・ベア、ペーター・ケルン、ペーター・モーラント、ギュンター・カウフマン 

バイエルン国王であり、リヒャルト・ヴァーグナーのパトロンとしても知られるルートヴィヒII世(1845-1886)。ヴァーグナーのオペラを髣髴とさせる書き割りセットを背景に、ルートヴィヒII世をめぐる夢幻的な物語が、ヴァーグナーからヒトラーを結ぶドイツ史を照らし出す。既存の映画美学を否定する「未来の音楽としての映画」として制作された「ドイツ三部作」の第一作。


『カール・マイ』
1974年(182分)※デジタル上映
監督・脚本/ハンス・ユルゲン・ジーバーベルク
撮影/ディートリヒ・ローマン
出演/ヘルムート・コイトナー、クリスティーナ・ゼーダーバウム、ケーテ・ゴルト、アッティラ・ヘルビガー 

ドイツの冒険小説家カール・マイ(1842-1912)の半生を描いた「ドイツ三部作」の第二作。ネイティヴ・アメリカンと白人の友情を描いた「ウィネトウ」を始め、映画化されたマイの小説は多数。ヒトラーも熱烈な愛読者だったと言われる。マイを演じるヘルムート・コイトナーは、40年代から50年代にかけてのドイツを代表する映画作家。クリスティーナ・ゼーダーバウムなど、ナチ時代のスター俳優も出演。


『ヒトラー、あるいはドイツ映画』
1977年(計410分)※デジタル上映
第1部「盃」(91分)
第2部「ドイツの夢」(126分)
第3部「冬物語の終わり」(93分)
第4部「われわれ、地獄の子どもたち」(100分)
監督・脚本/ハンス・ユルゲン・ジーバーベルク
撮影/ディートリヒ・ローマン
出演/ハインツ・シューベルト、ペーター・ケルン、ヘルムート・ランゲ、ライナー・フォン・アルテンフェルス 

「ドイツ三部作」の掉尾を飾る最大の問題作。ヒトラーおよびドイツ史をめぐるさまざまな視覚的、音楽的、言語的要素のシュールレアリスティックな混合。ジーバーベルクの目指す「ブレヒト+ヴァーグナー」の壮大な実験であると同時に、「未来の音楽としての映画」の完成形を模索する。スーザン・ソンタグから「20世紀最高の芸術作品かつ史上最高の映画」と激賞された。
ハンス・ユルゲン・ジーバーベルク Hans-Jürgen Syberberg
1935年12月8日、フォアポンメルンのノッセンドルフに生まれる。52年から53年にかけて、ブレヒトの劇場であるベルリナー・アンサンブルの舞台を撮影した最初の8ミリ作品を制作。53年、西ドイツに移り、56年からミュンヘンで文学と芸術史を学ぶ。デュレンマットの不条理性に関する論文で博士号を取得。65年に最初の長編ドキュメンタリー『フリッツ・コイトナー、シラーの「たくらみと恋」を稽古する』、68年に初の長編劇映画『人間はどれだけの土地が必要か』を監督。72年の『ルートヴィヒII世のためのレクイエム』にはじまる「ドイツ三部作」では、戦後ドイツの歴史意識に挑戦するような耽美的世界としてのナチズムとドイツの関係を描き出し、ドイツ国内では激しい議論を呼んだ。爾来ジーバーベルクはドイツでは完全なアウトサイダーであり続けている。一方アメリカやフランスなど国外での評価は高く、「ブレヒトの叙事演劇とヴァーグナーの音楽美学の映画的な結合」(ジーバーベルク)を試みたその作品群は、映画界だけでなく、スーザン・ソンタグやジル・ドゥルーズといった知識人に至るまで広く影響を与えている。


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