ペドロ・コスタ&ルイ・シャフェスのカルト・ブランシュ



小津安二郎監督に敬意を表し、MU[無]と名付けられた、映画と彫刻が交錯する展覧会を原美術館で行う映画作家ペドロ・コスタと彫刻家ルイ・シャフェスが「白紙委任状」を受けて選んだ、彼らの血となり肉となった9本(+ペドロ・コスタの2作品)の映画が、全て35mmフィルムで上映される。それだけでも充分素晴らしいのだが、その上、大充実のトークショーも!
2012.11.26 update
ペドロ・コスタ Pedro Costa
1959年リスボン生まれ。リスボン大学を経てアマドーラの国立映画演劇学校に学び、アントニオ・レイスに師事。長編映画の第一作「血」(1989年)を発表。以後『溶岩の家』(1994)、『骨』(1997)でポルトガルを代表する監督のひとりとして世界的に注目される。その後、少人数のスタッフにより、『骨』の舞台になったリスボンのスラム街フォンタイーニャス地区で、2年間にわたって撮影し、『ヴァンダの部屋』(2000)を発表、ロカルノ国際映画祭や山形国際ドキュメンタリー映画祭で受賞した後、日本で初めて劇場公開される。『映画作家ストローブ=ユイレ あなたの微笑みはどこに隠れたの?』(2001)の後、『コロッサル・ユース』(2006)、『何も変えてはならない』(2009)は、カンヌ映画祭他世界各地の映画祭で上映され、高い評価を受け、日本でも劇場公開された。中編新作の『Sweet Exorcist』(2012)は、オムニバス映画『ギマランイス歴史地区(仮題)』の一作で、第13回東京フィルメックス特別招待作品。
ルイ シャフェス Rui Chafes
1966年リスボン生まれ。リスボン芸術大学で彫刻を学んだ後、ドイツのデュッセルドルフ芸術アカデミーに学び、主に鉄による彫刻を制作。90年代に入ると国際的に個展・グループ展への出品を重ね、ポルトガル現代美術界を代表する作家の一人となる。ヴェネチアビエンナーレ(1995年)、サンパウロビエンナーレ(2004年)などの大型国際展にもポルトガル代表として出品。日本ではハラミュージアム アーク(原美術館別館)の「ポルトガル現代美術展」(1993年)に出品している。また、美術館やアートセンターでの個展は、ポルトガル以外でもドイツ、イタリア、スペイン、デンマーク、ブラジルなどで開催している。2005年にポルトガル第二の都市ポルトのセラルヴェス美術館で開催した「FORA! /OUT!」展からコスタとのコラボレーションを始める。
2012年12月1日(土)~3日(月)、7日(金)~13日(木)
※12/1(土)と12/3(月)の上映後、ペドロ・コスタ&ルイ・シャフェスによるトークあり
会場:オーディトリウム渋谷 
料金:一般 1,300円/学生・シニア 1,200円/高校生以下 1,000円/3回券(劇場窓口での販売)3,300円
*「MU[無]─ペドロ・コスタ&ルイ・シャフェス」(原美術館)「『終焉のさなかに』/『映画作家ペドロ・コスタ/オール・ブロッサムズ・アゲイン』特別上映」(アテネ・フランセ文化センター)のチケットの半券をお持ちの方は入場料金200円引き 

公式サイト:http://a-shibuya.jp/archives/4339
上映スケジュール
12月1日(土)
20:40
父ありき
(97分)
上映後:
ペドロ・コスタとルイ・シャフェスによるトーク 

12月2日(日)
20:40
吸血鬼
(82分)






12月3日(月)
19:00
トラス・オス
・モンテス

(111分)
上映後:
ペドロ・コスタとルイ・シャフェスによるトーク
    
12月7日(金)
20:40
アニキ・ボボ
(71分)

12月8日(土)
20:10
街の灯
(86分)

12月9日(日)
20:10
エンペドクレスの死
(132分)
12月10日(月)
13:00
ヴァンダの
部屋

(178分)
16:20
吸血鬼
(82分)


20:10
バルタザールどこへ行く
(95分)
12月11日(火)
11:00
吸血鬼
(82分)

13:00
コロッサル・ユース
(155分)

16:50
トラス・オス
・モンテス

(111分)
20:10
彼女について知っている二、三の事柄
(87分)
12月12日(水)
11:00
アニキ・ボボ
(71分)

12:30
バルタザールどこへ行く
(95分)

14:25
街の灯
(86分)

16:20
父ありき
(97分)


20:10
アンドレイ・ルブリョフ
(182分)
12月13日(木)
11:00
トラス・オス
・モンテス

(111分)
13:10
彼女について知っている二、三の事柄
(87分)
15:00
コロッサル・ユース
(155分)
20:10
ヴァンダの
部屋

(178分)

上映プログラム

©1942 松竹株式会社
『父ありき』
1942年/モノクロ/35ミリ/97分/英語字幕版 With English Subtitles
監督:小津安二郎
出演:笠智衆、佐野周二 

妻を亡くし、男手ひとつで息子を育て上げた元教員の生涯を描く。笠智衆演じる父親の、子どもを思う心情が切々と胸に迫る。子ども時代と成長してからの、親子で流し釣りをする姿が強く印象に残る名編。小津生誕100年のシンポジウムの際にパネリストで参加したペドロ・コスタが「小津はパンクだ」と発言し、話題となった。
『吸血鬼』
1930-31年/モノクロ/35ミリ/82分
監督:カール・ドライヤー 

映画史上最も偉大な作家の一人、カール・ドライヤーが前衛的カメラワークと音楽で作り上げた怪奇映画の古典。村へやってきた旅の青年は、不気味な宿で衰弱した娘を発見し、やがて姿の見えぬ吸血鬼との闘いにいたる。ドライヤーが自分自身のプロダクションを立ち上げて撮影した初のサウンド映画で、極度におさえられた台詞や、名手ルドルフ・マテの撮影による夢とも現実ともつかない淡いモノクロ映像が恐怖を感じさせる。
『トラス・オス・モンテス』
1976年/カラー/35ミリ/111分
監督・録音・編集:アントニオ・レイス、マルガリータ・コルデイロ
出演:トラス・オス・モンテスの住民たち 

ポルトガル現代詩を代表する詩人アントニオ・レイスが、精神科医マルガリータ・コルデイロと共に作り上げた70年代ポルトガル映画を代表する傑作。 幾重にも重なる村の時間と記憶。川遊びなどに興じる子供たちの姿が、春夏秋冬、過去と未来が交錯する夢幻的な時間の中に浮かび上がる。フランスの批評家たちを驚嘆させ、ペドロ・コスタにも大きな影響を与えたという作品。
『アニキ・ボボ』
1942年/モノクロ/35ミリ/71分
監督・脚本:マノエル・ド・オリヴェイラ
出演:ナシメント・フェルナンデス、フェルナンダ・マトス、オラシオ・シルヴァ 

104歳にして未だ現役のポルトガル人映画作家、オリヴェイラの驚嘆すべき長篇デビュー作。傍らをドゥーロ川が流れ、陽光降り注ぐポルトの街を舞台に、自由に躍動する少年少女たちを活写してネオレアリズモの先駆的作品と見なされている。「アニキ・ボボ」とは警官・泥棒という遊びの名前。街角の路地に息づく人々の詩情を描きながら、子供たちに宿る残酷さと友愛を大胆に描き切った。
© Roy Export S.A.S. All Rights Reserved.
『街の灯』
1931年/モノクロ/35ミリ/86分/サイレント
監督・出演:チャールズ・チャップリン 

不景気で風彩もあがらず、服装もみすぼらしく、職もなく住むところもない男はひとり気ままなフーテン暮らし。そんな彼がひとりの娘に恋をした。街角で花を売っている、盲目の貧しい娘。彼は彼女の目を治す為に、金を稼ごうと一大決心をする。ひとりの男と盲目の娘との愛のやりとりを、パントマイムと僅かな字幕で表現し、儚く哀しい愛を可笑しみの中に描いた、映画史に残る傑作。
『エンペドクレスの死』
1986年/カラー/35ミリ/132分
監督:ジャン=マリー・ストローブ、ダニエル・ユイレ 

ドイツの詩人、フリードリヒ・ヘルダーリンの1798年執筆の未完の二幕悲劇をストローブ=ユイレが脚色し、映画化した。「決して変化しない元素が、愛や憎しみによって結合・分離することで存在は変化して見える」と説いた古代シチリアの詩人哲学者エンペドクレスが民衆と訣別し、自ら死を選ぶまでが、シチリアのラグーサとエトナ山中腹を舞台に、難解ながら流麗な詩句で物語られる。
『バルタザールどこへ行く』
1966年/モノクロ/35ミリ/95分
監督:ロベール・ブレッソン
出演:アンヌ・ヴィアゼムスキー、ヴァルター・グリーン 

フランス、ピレネー山麓の小さな村を舞台に、バルタザールと名づけられた一頭のロバと少女マリーがたどる悲劇的運命をとおして人間の受難と罪悪を描く。後に『中国女』『ワン・プラス・ワン』などのゴダール作品を筆頭に多くの映画に出演し、作家としても知られる女優、アンヌ・ヴィアゼムスキーの初出演にして代表作。他のブレッソン作品と同様に演技経験のない素人を起用し、撮影された。
国立近代美術館フィルムセンター所蔵作品
© 1967-ARGOS FILMS-ANOUCHKA FILMS-LES FILMS DU CAROSSE-PARC FILM
『彼女について知っている二、三の事柄』
1967年/カラー/35ミリ/87分
監督:ジャン=リュック・ゴダール
出演:マリナ・ヴラディ、アニー・デュプレー 

鬼才J=L・ゴダールが雑誌に掲載された実話をもとに主婦たちの売春を描いた異色作。パリ近郊の団地に住む主婦たちの売春というショッキングなテーマながら、戦後フランスの経済成長と、そこで暮らす人々、急速な資本主義を批判したゴダールのアイロニカルな視点が垣間見える。ヌーヴェル・ヴァーグの盟友、F・トリュフォーが製作を担当し、フランス映画界の一線で活躍したマリナ・ヴラディが日常に飽き足らない主婦を妖艶に演じている。
『アンドレイ・ルブリョフ』
1967年/モノクロ&カラー/35ミリ/182分
監督:アンドレイ・タルコフスキー
出演:アナトリー・ソロニーツィン、イワン・ラビコフ、ニコライ・グリニコ 

モスクワ・アンドロニコフ修道院で修業を積んだアンドレイたち僧侶は、旅芸人が権力を風刺して捕えられるのを目撃する。圧制に苦しむ民衆を目の当たりにしてアンドレイの苦悩は深まる。ロシアの伝説的イコン画家アンドレイ・ルブリョフの生涯を描き、10のエピソードにより、15世紀のロシアと人間、社会と民衆を重層的に積み上げて映画を構成し、知られざる歴史の真実に迫った意欲作。
『ヴァンダの部屋』
2000年/カラー/35ミリ/178分
監督:ペドロ・コスタ 

商業映画の世界に失望したペドロ・コスタが、リスボンの捨てられた街、フォンタイーニャス地区に2年間、カメラを据え製作され、世界を震撼させた代表作。取り壊される街の騒音の中、3メートル四方の小さな部屋に住むヴァンダ・ドゥアルテ。ヴァンダを中心として、人と街を見つめ続けるカメラが、美しく濃密な映像と消え去ろうとしている時間を観客と共有し始める。
『コロッサル・ユース』
2006年/カラー/35ミリ/155分
監督:ペドロ・コスタ 

『ヴァンダの部屋』に続き、再び、ペドロ・コスタがリスボンのフォンタイーニャス地区にカメラを向けた。アフリカのカーポ・ヴェルデから移り住み34年間、この地区に住んできたヴェントゥーラ。彼は妻に家を出て行かれ、貧民窟と建てられたばかりの近代的な集合住宅の間を行き来し、人々を訪ね歩く。ヴェントゥーラが口にする言葉と、自らのペンで紡ぎだす手紙。そこには人間と土地についての壮大な叙事詩が立ち現れてくるのだった。
MU[無]─ペドロ・コスタ&ルイ・シャフェス
2012年12月7日(金)〜2013年3月10日(日)
原美術館[東京・品川]

「映画」と「彫刻」という異なる表現領域で活躍する二人のポルトガル人アーティストによる異色の展覧会。
原美術館に繰り広げられる光と影、動と静―相反する要素が対決し、生み出される空間、時間とは。
「映画」と「彫刻」という異なる表現領域で国際的に活躍するポルトガルの鬼才、ペドロ・コスタとルイ・シャフェス。ドキュメンタリーとフィクションの境界線に立つユニークな映画監督ペドロ・コスタは、ロカルノ国際映画祭、山形国際ドキュメンタリー映画祭で受賞するなど高い評価を受け、静謐な映像美と破壊的な世界観の共存する作品で観客を魅了し続けています。またルイ・シャフェスは、ヴェネツィア ビエンナーレ、サンパウロ ビエンナーレ等の国際展にポルトガル代表として出品するなどの活躍を見せ、主に鉄を用いて彫刻表現のさまざまな可能性を追求しています。
プライベートでも親しい二人が、日本映画の巨匠小津安二郎監督に敬意を表し「MU[無]」と名付けた本展は、邸宅としての記憶が存在する原美術館の空間を意識して制作された新作各3点を加えた映像インスタレーション5点、彫刻5点の計10点で構成されます。ペドロ・コスタの代表作「ヴァンダの部屋」「コロッサル・ユース」の映像素材が、ルイ・シャフェスの鉄の彫刻とともにインスタレーションとして新たな形で提示されるのも見どころの一つです。光と影、動と静―相反する要素が対決し、生み出される空間、時間とは―異なる二つの才能が出会うこの異色の展覧会で、一期一会の体験をして頂ければ幸いです。
【関連情報】
「『終焉のさなかに』/『映画作家ペドロ・コスタ/オール・ブロッサムズ・アゲイン』特別上映(仮題)」
12/5(水)、7(金)18:30-/2本立て/デジタル上映/両作とも日本語字幕付き/一般1,000円、会員割引あり
アテネ・フランセ文化センターにて。http://www.athenee.net/culturalcenter
・『終焉のさなかに』(During the End/2003/70分/監督:ジョアン トラブロ)
ルイ・シャフェスの芸術世界に迫るドキュメンタリー。作品と制作現場、インタビュー、彼が影響を受けたアーティスト達から想を得た映像等。
・『映画作家ペドロ・コスタ/オール・ブロッサムズ・アゲイン』(All Blossoms Again/2007/51分/監督:オーレリアン ジェルボー)
「コロッサル・ユース」制作中のペドロ・コスタ監督を記録。「骨」、「ヴァンダの部屋」、「映画作家ストローブ=ユイレ/あなたの微笑みはどこに隠れたの?」 等の映像を交えつつ、コスタの映画観を紐解く。


ペドロ・コスタ&ルイ・シャフェスのカルト・ブランシュについて、皆様のご意見・ご感想をお待ちしております。
なお、ご投稿頂いたものを掲載するか否かの判断については、
OUTSIDE IN TOKYO 編集部の判断に一任頂きますので、ご了承ください。





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