カプリッチ・フィルムズ ベスト・セレクション
先鋭的であること:映画批評の現在とは



東京日仏学院、今年一発目の特集上映「カプリッチ・フィルムズ ベスト・セレクション」がいよいよ始まろうとしている。フランスで最も先鋭的な作品の製作・配給・出版を手掛けるレーベルとして注目されている"カプリッチ・フィルムズ"の傑作群が一挙上映され、『猫、聖職者、奴隷』の木下香監督、boidの樋口泰人氏、カプリッチ・フィルムズのティエリー・ルナス氏らが登壇するトークショーも予定されている。もはや自明のものではなくなった"映画批評"は、現代において未だ有効なのか?という疑問符を頭の片隅に抱きつつも、ロバート・クレイマー、ジャン=クロード・ルソー、ストローブ=ユイレ、アルベルト・セラら、その作品自体がラディカルな映画批評そのものである傑作群に触れ、トークショーの熱に絆されるうちに、そんな疑問符はどこかに消し飛んでいるに違いない。
(上原輝樹)
2012.1.27 update
2012年2月3日(金)~2月26日(日)
主催・会場:東京日仏学院
料金:一般1,000円/会員500円

ゲスト:ティエリー・ルナス(カプリッチ・フィルムズ代表、映画批評家、プロデューサー)
上映スケジュール
2月3日(金)
12:30
閉ざされた谷
(140分)
16:00
労働者たち、農民たち
(123分)
19:00
あなたの微笑みはどこに隠れたの?
(104分)
※上映前に、ティエリー・ルナス(カプリッチ・フィルムズ)による作品紹介あり
2月4日(土)
11:30
労働者たち、農民たち
(123分)
14:30
領主のBM
(84分)
17:00
猫、聖職者、奴隷
(80分)
※上映後、ティエリー・ルナス(カプリッチ・フィルムズ)と木下香の対談あり

2月5日(日)
11:30
冬休みの情景
(91分)
14:00
騎士の名誉
(110分)
17:00
鳥の歌
(98分)
※上映後、ティエリー・ルナスと樋口泰人の対談あり


2月10日(金)
13:30
鳥の歌
(98分)
16:00
領主のBM
(84分)
18:30
閉ざされた谷
(140分)




2月12日(日)
13:30
あなたの微笑みはどこに隠れたの?
(104分)
16:00
猫、聖職者、奴隷
(80分)
※上映後、木下香によるティーチ・インあり
18:30
冬休みの情景
(91分)
20:30
道化の前で
(118分)

2月24日(金)
11:30
道化の前で
(118分)

13:30
シベリア
(81分)


16:00
騎士の名誉
(110分)
19:00
マイルストーンズ
(195分)

2月25日(土)
11:00
カーリング
(92分)

13:30
シベリア
(81分)


16:00
マニケヴィル
(88分)
18:30
セクシャルな関係はそこにはない
(78分)
2月26日(日)
11:00
マニケヴィル
(88分)

13:30
カーリング
(92分)


16:00
マイルストーンズ
(195分)
上映プログラム


『マイルストーンズ』
1975年/アメリカ/195分/35ミリ/カラー/英語/日本語字幕付
監督・脚本・撮影・編集::ロバート・クレイマー、ジョン・ダグラス
出演:ロバート・クレイマー、ジョン・ダグラス、グレイス・ペイリー、メリー・チャペル、シャロン・クレプス、他 

ひとつの時代が終わり、そこに新しい誕生の可能性が示唆される、"運動"の世代の自画像であり、1970年代の映画を代表する傑作。50人を超える登場人物からなる6つの物語が互いに干渉を繰り返しつつ巨大なモザイクを作り出す。アメリカの左翼ラディカルの生き残りたちの生活と生きざまが、政治的にも個人としても変化に直面した人々の社会の質感の中に入り込み、複雑にからみ合う。
「『マイルストーンズ』は火=空気=土=人間だ。それは70年代のアメリカを見つめると同時に、過去へ、そして未来へと旅する。これは再び誕生することについて、そして思想、顔、映像、そして音が再び誕生することについての映画である。」ロバート・クレイマー、ジョン・ダグラス 

フィルム提供:カプリッチ・フィルムズ
『閉ざされた谷』
1995年/フランス/140分/DVD/カラー/フランス語/日本語字幕付
監督・脚本・撮影・音響・編集・製作:ジャン=クロード・ルソー 

フォンテーヌ・ドゥ・ヴォクリューズのソルグ川の湧出点、地理学の書物、ジョルジョーニのタブロー、ルクレチウスについてのベルクソンの注釈、ペトラルカの詩的フォルム。それらは響きと反響の環状のシステムに配置された、『閉ざされた谷』を織りなす諸要素である。1999年ベルフォール映画祭・グランプリ受賞作品。ジャン=マリー・ストローブとダニエル・ユイレが「ヨーロッパで最も偉大な映画作家の一人」と称賛したジャン=クロード・ルソーの長編第2作。 

フィルム提供:カプリッチ・フィルムズ
『道化の前で』
1997年/スウェーデン/118分/デジタル上映/カラー/スェーデン語/フランス語字幕付・作品解説配布
監督・脚本:イングマール・ベルイマン
出演:ボリエ・アールステット、マリー・リチャードソン、エルランド・ヨセフソン、ペルニラ・アウグスト、他 

1925年10月、シューベルトの熱心な愛好家にして発明家カールは、ウパサラの精神病院に収監された。病室の中で彼はトーキー映画を発明するという革命的な計画を育む。マッド・サイエンティスト、オズヴァルド教授の助けとともに、カールはシューベルト最期の日々を語る愛の物語を即興的に演出する。1998年カンヌ国際映画祭「ある視点」部門出品作。
「80歳ともなれば、ふつう映画作家はより落ち着いた映画を手掛けるものだというのに、ベルイマンは夢と狂気に立脚した、リスクを伴う作品を撮ることを選んだ。この作品は若々しい熱情を逆説的に反射し、そして『夢の中の人生』(80)以来の方向性をより高みに達するかたちで引き延ばしている。」(リュック・ムレ) 

フィルム提供:カプリッチ・フィルムズ
『労働者たち、農民たち』
2000年/フランス=イタリア/123分/35ミリ/カラー/イタリア語/日本語字幕付
監督:ダニエル・ユイレ、ジャン=マリー・ストローブ
原作:エリオ・ヴィットリーニ 

あまりにも野心的な長編「労働者たち、農民たち」の主題は、題名の示唆する通り、労働者たちと農民たちの対立を超えた共生、そして人間と大地のエンペドクレス的な共生である。季節は夏、舞台となるのは終戦後まもないイタリアの山中の村。映画に登場し証言するのは、社会的混乱の中、行き場をなくし、山中で新たな村を再建しつつある戦争難民たち12名であり、彼らがそれぞれ微妙に食い違う固有の観点から報告するのは、前年の秋からその年の初春にかけての苦難や対立とそれを乗り越えた喜びである。撮影監督レナート・ベルタによる導入部の森の380度のパノラマ・ショットは「奇跡のショット」と呼んでも過言ではない。この映画の僅か69のカットは、木の葉に当たる太陽光の驚くほど豊かな変化、せせらぎの音や鳥のさえずりを鮮烈に「刻印」し、圧倒的な「土地の霊力」を伝える 

アテネ・フランセ文化センター提供
『映画作家ストローブ=ユイレ/あなたの微笑みはどこに隠れたの?』
2001年/フランス=ポルトガル/104分/カラー/35ミリ/フランス語/日本語字幕付
監督:ペドロ・コスタ
出演:ジャン=マリー・ストローブ、ダニエル・ユイレ 

ジャン=マリー・ストローブとダニエル・ユイレが、1999年秋にル・フレノワでのワークショップで行なった『シチリア!』の編集作業の様子を、二人を敬愛するポルトガルの鬼才ペドロ・コスタが記録したドキュメンタリー。彼らの創作のプロセス・瞬間だけでなく、ときに滑稽でさえあるストローブ=ユイレ夫婦の物語や映画への愛が、膨大な議論や感情のやりとりを通じて描かれる。 

アテネ・フランセ文化センター提供
『騎士の名誉』
2006年/スペイン/110分/35ミリ/カラー/カタルーニャ語/フランス語字幕・作品解説配布
監督・脚本:アルベルト・セラ
出演:リュイス・カルボ、リュイス・セラ

赴くままに導かれ、ドン・キホーテとサンチョ・パンサは冒険を求めて昼夜なしに旅を続ける。馬に乗って野原を横切り、満天の星空のもとに野営し、語り合い、そして見えざる敵を待ち構える。2006年カンヌ国際映画祭「監督週間」部門出品、2006年ウィーン国際映画祭・国際批評家連盟賞受賞、2006年ベルフォール映画祭・グランプリ受賞作。
「彼らの対話は耳の聞こえない不自由な対話である。キホーテの従者サンチョは主人のことを理解していない。もしこのふたりの人間がケタ外れに愛し合っているとすれば、それはまさしく各々に定められた彼らの運命を、両者ともにまったく掴み取っていないからだ。キホーテは空に話しかける――彼は意味のない気違い染みた譫言を口にする現代的な主体であり、ノイローゼであり、甲冑を纏った狂人だからだ。そしてサンチョは彼に返事を返す――彼は慎ましき人間のアーキタイプであり、彼にとってオリーヴはオリーヴであり、ただそれだけのことだからである。」(フィリップ・アズーリ、「リベラシオン」紙、2007年3月14日) 

フィルム提供:カプリッチ・フィルムズ
『鳥の歌』
2009年/スペイン/98分/35ミリ/モノクロ/カタルーニャ語/英語字幕付
監督・脚本:アルベルト・セラ
出演:リュイス・カルボ、リュイス・セラ・バテル、リュイス・セラ・マサネラ、モンツェ・トリオラ 他

東方の三賢者は救いの主(キリスト)を求める巡礼の最中にある。彼らは当て所なく氷砂漠、そして砂砂漠を横断する。季節に身を委ねて生き、自然との調和を保ち、満天の星の元、彼らはただただ貪り、眠る。2009年カンヌ国際映画祭・「監督週間」部門出品作品、2009年ベルフォール映画祭・長編部門グランプリ受賞作品。
「禁欲的かつ道化的、モンティ・パイソンとストローブの間における、東方の三賢者の遊歩。カタルーニャの若きシネアストの特異な才能の確証」。(ジャッキー・ゴルトベルク、「レ・ザンロキュプティーブル」) 

フィルム提供:カプリッチ・フィルムズ
『猫、聖職者、奴隷』
2009年/フランス/80分/デジタル上映/カラー/英語/日本語字幕付
監督:木下香、アラン・ドゥラ・ネグラ

ファーリー(毛皮に覆われたキャラクター愛好家)のマーカスは、自分の中に"猫"が宿っていると信じている。現代の牧師、ベンジャミンが福音を説くのは、ヴァーチャルな教会においてだ。オンラインゲームの支配者クリスは、自分の部屋から彼所有の "奴隷"たちの性生活を管理している......。"セカンドライフ"を象徴する3つの共同体についてのドキュメンタリー。
「映画でこれほど怖い思いをするのは、サム・ライミの『死霊のはらわた』以来かもしれないが、同時に稀な喜び、そして、世界の大いなるポートレートに立ち会っているという感覚を与えてくれる。(...中略)これは、眩暈をもたらす作品だ。」フィリップ・アズーリ(リベラシオン)

フィルム提供:カプリッチ・フィルムズ
『領主のBM』
2010年/フランス/84分/デジタル上映/カラー/フランス語/英語字幕付
監督・脚本:ジャン=シャルル・ウー
出演:フレッド・ドルケル、ジョセフ・"ジョー"・ドルケル、ジョセフ・ドルケル、ミシェル・ドオベー、モイーズ・ドルケル、フィリップ・"タンタン"・マルタン、他

移動型民族の共同体であるイェニシェにとって、祖先たちへの敬意と信仰への情熱は蛮行と区別なく隣り合わせだ。フレッド・ドルケルはそのひとりである。彼は車泥棒によって生計を立てており、身内の者たちに畏れられ、尊敬されている。ある夜、彼の人生はひっくり返る。天使が彼のもとに現れたのだ。フレッドにとって、それは掴むべきセカンドチャンスの徴だった。フレッドは素行を改めることを選ぶのだが、その選択は彼とその家族とを対立させることになる......。2010年マルセイユ・ドキュメンタリー映画祭出品作品、2010年リスボン国際インディペンデント映画祭・長編部門グランプリ受賞作品。 

フィルム提供:カプリッチ・フィルムズ
『冬休みの情景』
2010年/中国/91分/デジタル上映/カラー/中国語/日本語字幕付
監督 : リー・ホンチー
出演 : バイ・ジュンジエ、シャオホン、ジャン・ナーチー、バオ・ジェンフェン、シエ・イン、他

冬、中国北部、内モンゴルのある小さな町。4人の若者たちは冬休み最後の日の過ごし方がわからないまま道をそぞろ歩いている。彼らは退屈を紛らわせるほんのわずかな機会を待ち構え、気晴らしのためにとりとめのないことについて議論している。不条理なやり取りのなかで、恋の苦しみは学校の先生の批判へと続いていく。2010年スイスのロカルノ映画祭の最高賞の金豹賞を受賞し、その後も世界各地の映画祭で次々に紹介され、2011年アジアファーカス・福岡国際映画祭でも上映されている。 

フィルム提供:カプリッチ・フィルムズ
『マニケヴィル』
2010年/フランス/88分/35ミリ/モノクロ/フランス語/英語字幕付
監督 : ピエール・クルトン
出演 : フランソワーズ・ルブラン、クララ・ル・ピカール、他

『ママと娼婦』の主演女優、フランソワーズ・ルブランはマニケヴィルの老人介護施設に定期的に訪れ、住人たちに対しプルーストの朗読会を行っている。施設に住む住人たちにとって、朗読会は同時にある失われた時間の記憶を思い出す機会となっている。いつしかフランソワーズと施設の中心人物であるクララの間には強い絆が生まれる。
マルセイユ国際ドキュメンタリー映画祭2009 (マルセイユ・エスペランス賞受賞)、ウィーン国際映画祭2009、トリノ映画祭2009出品。 

フィルム提供:カプリッチ・フィルムズ
『カーリング』
フランス/2011年/92分/35ミリ/カラー/ケベック語/仏語字幕付・作品解説配布
監督 : ドゥニ・コテ
出演 : エマニュエル・ビロドー、フィロメーヌ・ビロドー、ソフィー・デマレ、他

過酷な冬の自然のなかで、世間から離れて暮らす2人、父ジャン=フランソワと12歳の孤独な少女ジュリヴォンヌはカーリングに興味を覚える。仕事の合間に、ジャン=フランソワは不器用ながらもジュリヴォンヌを育てている。彼ら親子の壊れやすいバランスはいくつかの奇妙な出来事によって脅かされることになる。
ロカルノ国際映画祭2010最優秀演出賞、最優秀男優賞受賞、バンクーバー国際映画祭2010最優秀カナダ映画作品賞受賞(特別表彰)、トロント国際映画祭2010、ロッテルダム国際映画祭2011出品。 

フィルム提供:カプリッチ・フィルムズ
『セクシャルな関係はそこにはない』
2011 年/フランス/78分/デジタル上映/カラー/フランス語/英語字幕付
監督 : ラファエル・シボニ
出演 : HPG(エルヴェ=ピエール・ギュスターヴ)、シンディ・ドラー、ミカエル・チェッリト、他

本作品はポルノ映画の俳優、監督、プロデューサーであるHPG(エルヴェ=ピエール・ギュスターヴ)の作品の撮影時に撮り集めたメイキング・オフ映像の何千時間から構想されたHPGのポートレートである。このドキュメンタリー作品はポルノグラフィーやポルノグラフィーの特徴である現実に対する情熱を考察している。 

フィルム提供:カプリッチ・フィルムズ
『シベリア』
2011年/フランス/81分/デジタル上映/カラー/フランス語/英語字幕付
監督 : ジョアナ・プレイス
出演 : ブリュノ・デュモン、ジョアナ・プレイス

あるカップルがシベリア鉄道で旅行している。寒く果てしない領土の前で、ジョアナとブリュノはデジタルカメラを持ち、彼らの中にある暗黙の了解や悲痛な思いを記録し、弱さや了解の元となるものを暴いていく。彼らの愛を孤独の中で、異国の中で、そして映画の中での試すこと。疲れ果てた彼らは絶えず愛し合う。最終的に恩寵の瞬間を知るという希望に守られながら。マルセイユ国際ドキュメンタリー映画祭2011、ブリスベン国際映画祭2011ドキュメンタリーコンペティション部門、コルシカ国際ドキュメンタリー映画祭2011コンペティション部門出品 

フィルム提供:カプリッチ・フィルムズ


カプリッチ・フィルムズ ベスト・セレクション
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