2014年第19回釜山国際映画祭レポート<前編>

テキスト・写真(作品写真以外):上原輝樹
2014.10.23 update
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1. 圧倒的な規模の映画祭上映会場

アジア最大の映画祭へと成長した、釜山国際映画祭(BIFF/Busan International Film Festival)を初めて訪れて、内容、会場ともにその規模の大きさに驚かされた。

開会式や閉会式が行われるセンタムシティのメイン会場、「映画の殿堂」釜山シネマセンターのオープンスクリーンは、その巨大さと、全体に被さる曲線形のアーキテクチャに目を奪われ、その存在感、容積の大きさに圧倒される。この"巨大さ"が釜山国際映画祭の一面を雄弁に語っている。映画祭専用に建築されたシネマセンターのアーキテクチャは、(新国立競技場の新デザイン案が物議を醸している)ザハ・ハディッドやフランク・ゲーリー、ダニエル・リベスキンドらと共に脱構築主義者として知られるコープ・ヒンメルブラウのデザインによるものだ。


コープ・ヒンメルブラウのデザイン、釜山シネマセンター

2011年9月に作られたシネマセンターの長大なエスカレーターを乗り継いで6Fまで昇ると、いずれも徒歩で数分の距離にあるセンタムシティのロッテシネマ、CGV新世界センタムシティ、釜山視聴者メディアセンターといった、近隣の上映施設を見渡すことができる。これらと、無料シャトルバスで15分程度の距離にある海雲台(ヘウエンデ)のMEGABOXが、2014年の主な上映会場だ。ロッテシネマもCGV新世界センタムシティもMEGABOX内の映画館も、いわゆるシネコンである。

中でも、2013年に完成したばかりのCGV新世界センタムシティは、世界最大の百貨店としてギネス認定を受けたという超巨大ショッピング施設で、シネコンの他に、「Cine de Chef」という革張りのソファーが豪華なアート・フィルム・ハウスまで入っていて、映画の社会的地位が日本におけるよりも高いだけではなく、より広く受け入れられていると感じた。映画祭の各会場に集まる観客も、若者が圧倒的に中心を占めている。物価が違うので安易な比較は出来ないが、若者が集まる要因の一つとして、映画の入場料金が1本7~800円程度と安いことも挙げられるだろう。
センタムシティのロッテシネマとCGV新世界センタムシティ   釜山視聴者メディアセンター

この釜山シネマセンターを中心としたセンタムシティや海雲台(ヘウエンデ)界隈に宿をとれれば、ビーチリゾートに生まれ変わった釜山の、グローバリズムの快適さが行き届いた映画祭を満喫出来たに違いないのだが、私の場合、そうは行かなかった。直前に釜山行きが確定したために、飛行機とホテルを押さえるのが、出発の直前になってしまったからだ。映画祭期間中はどの宿も早く予約が埋まってしまう上に、韓国の3連休が重なって、映画祭会場界隈のホテルはどこも満室、結局、地下鉄Yeon-san駅、ラブホテル街のブティックホテル(ラブホテルを改修したもので、入口はラブホテルそのもの)しか見つからず、そこに宿を取った。タクシーの運転手に行き先を告げると、おおっと仰け反られ、そこは外国人が泊まる場所ではないと呆れられたが、致し方ない。

しかし、映画祭エリアで快適に過ごしただけではわからなかったに違いない、都市特有の地下鉄の匂いと繁華街の夜明けのゴミの匂いが漂うエリアでの数日間の滞在は、むしろ幸甚だったと言うべきかもしれない。旅行者にとっては、やはり快適と言わざるをえない"グローバリズム"が行き渡ったエリアと、英語も日本語も解さない"オールドスタイル"のエリア、その二つがひとつの街で共存し、隣接している風景の面白さと、新旧世代が互いに主張する社会のダイナミズムを体感出来た気がするからだ。
2. 79カ国から312作品に及ぶ、"アジア"を濃厚に意識した充実のプログラム

さて、肝心の映画祭のプログラムについて簡単にご紹介したい。2014年の釜山国際映画祭では、79カ国から312の作品がスクリーンで上映された。

2014年釜山国際映画祭の開幕を告げるオープニング作品は、侯孝賢(ホウ・シャオシェン)がエグゼクティブ・プロデューサーを務めた、『モンガに散る』(10)の鈕承澤(ニウ・チェンザー)の新作『Paradise in Service』(台湾)、クロージング作品の、アンソニー・ウォン主演、李保樟(Lee Po-Cheung)7年振りの新作『Gangster Pay Day』(香港/中国)は、コメディとメロドラマのハイブリッドで、現代の香港を描きながらも、1980〜90年代の香港映画黄金時代を想起させる(http://www.hollywoodreporter.com/news/busan-gangster-pay-day-looks-739826)と高い評価を得ている。

巨匠たちの新作が上映される「Gala Presentation」では、近日、東京国際映画祭でも上映される許鞍華(アン・ホイ)の『黄金時代/The Golden Era』(香港/中国)、張芸謀 (チャン・イーモウ)監督作品、コン・リー主演の文芸大作『Coming Home』(中国)、韓国映画、現役世代最大の巨匠イム・グォンテク102本目の作品『Revivre』(韓国)、東京フィルメックスでも上映されるモフセン・マフバルマフの『The President』(グルジア/フランス/イギリス/ドイツ)の4作品が上映された。

『The President』 『Revivre』

「A Window on Asian Cinema」では、陳可辛(ピーター・チャン)の『Dearest』(香港/中国)、杜琪峰(ジョニー・トー)の『Don't Go Breaking My Heart 2』、蔡明亮(ツァイ・ミンリャン)の『西遊/Journey to the West』といった巨匠の新作から、インド、中国、イラン、イラク、ミャンマー、キルギスタン、パキスタン、バングラディッシュといった国々の新鋭の作品まで、アジアの才能にフォーカスした作品(28カ国から57作品)が選定されている。日本からも、塚本晋也『野火』、篠崎誠『Sharing』、廣木隆一『さよなら歌舞伎町』、石井裕也『ぼくたちの家族』、熊切和嘉『私の男』、三池崇史『喰女-クイメ-』、河瀬直美『2つ目の窓』、杉野希妃『欲動』、園子温『TOKYO TRIBE』といった多くの作品が招待上映された。

『Dearest』 『西遊/Journey to the West』

「Korean Cinema Today -Panorama」では、『The Pirates』のようなブロックバスターから、加瀬亮の舞台挨拶が注目を集めたホン・サンスの『自由が丘で/Hill of Freedom』やキム・ギドクの『One on One』、ポン・ジュノの名作『母なる証明/Mother』の白黒版、そして今年のカンヌ国際映画祭で上映され、東京フィルメックスのコンペティションでも上映されることになった『扉の少女/A Girl at My Door』まで、韓国映画の"今"を伝える21作品が上映された。また、韓国のインディペンデント映画10作品を集めた「Korean Cinema Today -Vision」、60年代に社会性の強いメロドラマで注目を浴び50本の作品を残した映画作家CHUNG Jin Wooの8作品が上映された「Korean Cinema Retrospective」と、韓国映画の現在のみならず、過去と未来を伝える試みにも余念がない。

『自由が丘で/Hill of Freedom』 『扉の少女/A Girl at My Door』
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