ビートニク映画祭



昨年の『オン・ザ・ロード』劇場公開に続く、朗報である。『ジャック・ケルアック/キング・オブ・ザ・ビート』(85)は、意外にもと言っては失礼だが、大変素晴らしい掘り出し物だ。今回が日本では初の劇場公開となる『ジャック・ケルアック/キング・オブ・ザ・ビート』は、"ビート"とは何か、ケルアックとはどのような人物だったのか、ということを知る上で、最高の映像作品であると言って良い。80年代中頃にフィルムで撮影された当時の再現映像は、50年代アメリカ(主に)東海岸の寒々しく、荒涼とした空気を捉えており、そこに対照的な躍動感を齎した"ビートニク"のリズムが際立って可視化されている。ウォルター・サレスの『オン・ザ・ロード』はロードムービーの佳作だが、"戦勝国アメリカ"の戦後、50年代の荒涼とした"路上"のリアリティを描き、現代に繋がるアクチュアリティを獲得しているのは、ポール・トーマス・アンダーソンの『ザ・マスター』(12)であり、コーエン兄弟の『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』(13)であるだろう。『ジャック・ケルアック/キング・オブ・ザ・ビート』は、『ザ・マスター』と『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』が21世紀になって描くことになる"戦勝国アメリカ"のブルースを、一人の卓越した男の半生を通じて活き活きと浮かび上がらせる、詩情豊かな秀作である。併せてこの機会に、伝説的ミュージシャンたちが出演する、コンラッド・ルークスの『チャパクア』(66)とロバート・フランクの『キャンディ・マウンテン』(87)、ディランのイギリスツアーを追った傑作ドキュメンタリー『ドント・ルック・バック』、60年代後半イギリスのカウンター・カルチャー・シーンを捉えた『スウィンギング・ロンドン1&2』も見ておきたい。
(上原輝樹)
2014.3.18 update
3月22日(土)~28日(金)
会場:オーディトリウム渋谷 
料金:一般 1,400円/学生・シニア 1,200円/高校生 800円/中学生以下 500円
前売1回券 1,200円(本映画祭のお好きな回お一人様一回分ご使用になれます)
前売3回券 3,000円(会期中も販売/本映画祭のお好きな三回分ご使用になれます/シェアしてのご利用も可)
整理番号制/自由席 

公式サイト:http://king-of-the-beats.com
上映スケジュール
3月22日(土)
13:00
ジャック・ケルアック/
キング・オブ・ザ・ビート

(72分)
上映後:
トークショー
柳下毅一郎(映画評論家)×青山南(翻訳家)
15:00
裸のランチ
(117分)




17:15
チャパクア
(82分)




19:00
シッダールタ
(85分)






3月23日(日)
13:00
スィンギング
・ロンドン1&2

(114分)







15:15
ジャック・ケルアック/
キング・オブ・ザ・ビート

(72分)
16:45
キャンディ・マウンテン
(91分)



18:30
ドント・ルック・バック
(96分)
上映後:
トークショー
湯浅学(音楽評論家)×樋口泰人(boid)
3月24日(月)
19:30
ジャック・ケルアック/
キング・オブ・ザ・ビート

(72分)





3月25日(火)
13:00
ジャック・ケルアック/
キング・オブ・ザ・ビート

(72分)





15:00
ドント・ルック・バック
(96分)



17:00
シッダールタ
(85分)




18:45
チャパクア
(82分)
上映後:
トークショー
富田克也(空族)×相澤虎之助(空族)


3月26日(水)
13:00
ドント・ルック・バック
(96分)








14:50
ジャック・ケルアック/
キング・オブ・ザ・ビート

(72分)
16:20
キャンディ・マウンテン
(91分)



18:10
スィンギング
・ロンドン1&2

(114分)




3月27日(木)
13:00
裸のランチ
(117分)









15:15
チャパクア
(82分)




17:00
ドント・ルック・バック
(96分)



19:00
ジャック・ケルアック/キング・オブ・ザ・ビート
(72分)



3月28日(金)
13:00
チャパクア
(82分)









15:00
キャンディ・
マウンテン

(91分)



17:00
ジャック・ケルアック/
キング・オブ・ザ・ビート

(72分)
18:45
裸のランチ
(117分)






上映プログラム

©John Antonelli
【日本初公開】
『ジャック・ケルアック/キング・オブ・ザ・ビート』
(Kerouac, the Movie)
アメリカ/1985/72分/カラー&モノクロ
監督:ジョン・アントネッリ
出演:ジャック・ケルアック、ウィリアム・バロウズ、アレン・ギンズバーグ、ジャック・クルター(ケルアック役)ほか 

1957年に発表した『オン・ザ・ロード/路上』で一躍時代の寵児にのぼりつめたジャック・ケルアック。この映画は"ビートニクの帝王"としていまだに根強い人気をもち続けるケルアックのドラマチックな人生を再現したドキュドラマである。マサチューセッツの小さな街ロウエルに出現した時から,マリン・カウンティ、そしてカリフォルニアにいたるまでのケルアックの姿がドラマと本人の映像、バロウズやギンズバーグなどの証言によって浮き彫りにされる。
『チャパクア』(Chappaqua)
アメリカ/1966/82分
監督・脚本:コンラッド・ルークス
撮影:ロバート・フランク/美術:レギ・パグニズ/音楽:ラヴィ・シャンカール/音楽監修:フィリップ・グラス
出演:ジャン・ルイ・バロー、コンラッド・ルークス、ウィリアム・バロウズ、アレン・ギンズバーグ、ラヴィ・シャンカール、オーネット・コールマン、ムーンドッグ 

アルコール・ドラッグ中毒の治療にサナトリウムを訪れた男が体験する幻想世界をシュールなタッチで描く異色ドラマ。監督・主演・脚本・製作は伝説の映画監督コンラッド・ルークス。撮影は『キャンディ・マウンテン』(監督)の写真家・映画監督のロバート・フランク。音楽は世界的なシタール奏者ラヴィ・シャンカール。
『シッダールタ』(Siddhartha)
アメリカ/1972/85分/35mm上映
監督・脚本:コンラッド・ルークス
原作:ヘルマン・ヘッセ/撮影:スヴェン・ニクヴィスト/美術:マルコム・ゴールディング/音楽:ヘマン・クレール 、グリプラサンナ
出演:シャシ・カプール、シミ・ガーレワール、ロメーシュ・シャールマー 

文豪ヘルマン・ヘッセの世界的ベストセラーで、ビートニク世代のバイブルと言われた同名小説を原作に、シッダールタ(釈迦)の悩める一生を描く。ビートニクたちと交流し東洋思想に傾倒していたコンラッド・ルークスの『チャパクア』に続く2作目にして最後の作品。撮影はイングマール・ベルイマン作品で知られるスヴェン・ニクヴィスト。72年ヴェネチア国際映画祭銀獅子賞受賞。
『キャンディ・マウンテン』(Candy Mountain)
スイス・フランス・カナダ/1987/91分/35mm上映
監督:ロバート・フランク、ルディ・ワーリッツァー
脚本:ルディ・ワーリッツァー/撮影:ピオ・コラッディ/音楽:ハル・ウィルナー、デヴィッド・ヨハンセン
出演:ケヴィン・J・オコナー、ハリス・ユーリン、トム・ウェイツ、Dr.ジョン、J・ストラマーほか 

現代を代表する写真家でもあり、ビートニク直系のロバート・フランクとライター、ワーリッツァーの共同監督による、ジム・ジャームッシュなどに大きく影響を与えたロードムービー。トム・ウェイツ、Dr.ジョン、J・ストラマーなど玄人好みのミュージシャンが多数出演しているのも見どころの一つ。
『裸のランチ』(Naked Lunch)
イギリス・カナダ/1991/117分
監督・脚本:デヴィッド・クローネンバーグ
原作:ウィリアム・バロウズ/撮影:ピーター・サシツキー/音楽:ハワード・ショア
出演:ピーター・ウェラー、ジュディ・デイヴィス、イアン・ホルム、ジュリアン・サンズ、ロイ・シャイダーほか 

59年に発表され、その先鋭的言語表現とドラッグ感覚に濃く彩られた内容で一大センセーションを巻き起こしたウィリアム・バロウズの同名小説の映画化。バロウズの愛読者で、映画化の企画を長年温めていたというデヴィッド・クロネンバーグが監督、脚本を手がけ、製作は『シェルタリング・スカイ』のジェレミー・トーマス、撮影は『戦慄の絆』のピーター・シャシスキー、音楽は『ビッグ』のハワード・ショアが担当。
『ドント・ルック・バック』(Dont Look Back)
アメリカ/1967/96分/35mm上映
監督:D・A・ペネベイカー
出演:ボブ・ディラン、ジョーン・バエズ、アラン・プライス、ドノバン 

フォーク・ロックムーヴメントの先駆者ボブ・ディランの、64年のイギリスツアーを追ったドキュメンタリー。アコースティック・ギターから転向した彼の、初のエレクトリック・アルバム"Bringing It All Back Home"に収録されている"Subterranean Homesick Blues"を冒頭に、ファンの嬌声と取材陣に迎えられてのロンドン空港到着の模様から始まり、約2週間にわたるツアーを、コンサート・シーンとプライヴェート・シーンを織り交ぜて映し出す。
『スウィンギング・ロンドン1&2』
(Tonite Let's All Make Love in London & Fire in the Water)
イギリス/1967・1977/114分
監督:ピーター・ホワイトヘッド
出演:ザ・ローリング・ストーンズ、エリック・バードン、マイケル・ケイン、ジュリー・クリスティ、ヴァネッサ・レッドグレイヴ、アレン・ギンズバーグ、ジミ・ヘンドリクス、ピンク・フロイド、ジョン・レノン 

60年代後半、英国を席捲したいわゆる"スウィンギング・ロンドン"のムーブメントをめぐり、その中心地ロンドンの光景をとらえたドキュメンタリー。当時のカウンター・カルチャーを代表する音楽シーンから、ザ・ローリング・ストーンズを追った記録映像のほか、当時ニュー・タイプの映画スターとして売っていたマイケル・ケイン、ジュリー・クリスティ、ヴァネッサ・レッドグレイヴや、ポップ・アートの旗手アラン・オルドリッジ、デイヴィッド・ホックニーほかへのインタビューが当時を象徴する曲に乗せて綴られる。監督はザ・ローリング・ストーンズの「チャーリー・イズ・マイ・ダーリング」などの作品で知られる映像作家、ピーター・ホワイトヘッド。尚、最初の公開時のタイトルは、パート1が「トゥナイト・レッツ・オール・メイク・ラブ・イン・ロンドン」。パート2は「アクエリアス」である。


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