アヴィ・モグラビ監督特集

イスラエルの映画作家アヴィ・モグラビの最新作『Z32』が山形国際ドキュメンタリー映画祭のコンペ部門に選ばれたのを記念し、東京日仏学院で特集上映が行われる。近日公開されるイスラエル映画『戦場でワルツを』は確かに創造性豊かな素晴らしい映画だが、監督のアリ・フォルマン自らが語っている通り、『戦場でワルツを』は侵略者である元イスラエル兵士の視点から描かれた映画であり、アラブ人の視点は一切描かれない。その点について疑問を抱く観客も多いと思う。恐らく、モグラビ作品の場合は、イスラエル社会の"捩じれ"と真っ向から対話を試みた映画の新しい実験とも言うべきもので、アリ・フォルマンの映画に接する態度とは明白に異なる批評性で、イスラエルのリアリティを伝えてくれるものに違いない。上映後には、監督本人を迎え、映画評論家村山匡一郎、そしてアート・ディレクター、ローラン・グナシアとの対談が予定されている。

アヴィ・モグラビ Avi Mograbi
怒れる闘士である映画 監督、アヴィ・モグラビは、イスラエル社会における対立 の中心にそのカメラを置く。彼は、発話に対して、イメー ジの力を特権的に扱いながら、国境での横暴と屈辱のイメージを提出する。彼自身が、しばしば画面に登場し、カメラに向かって彼の国の傷と愚かしい行動をナンニ・モレッティにも比較できるような笑いのないユーモアをまじえて語る。彼は、各作品でドキュメンタリーの形態を問い直そうと試み、新しいフォルムを実験している。その試みは、批評家によって敬意を持って迎えられ、数々の映画祭で賞を与えられている。

「僕は、メディアに対抗して仕事をしているわけではない。僕は、僕の映画が現実に起こっている何がしかのことも変えると思っていない。僕が映画を作るとき、投資についても、あるいは芸術面、政治図においても見返りを求めていない。僕がなぜ映画を撮るのか、それは、そうせざるを得ないと感じているからだ。」(アヴィ・モグラビ)
対談:アヴィ・モグラビ監督×村山匡一郎(映画評論家) 2009.12.3 update
 2009年10月2日に東京日仏学院で行なわれたモグラビ監督と映画評論家村山匡一郎氏との対談の採録を掲載しました。
 素材提供:東京日仏学院
 採録:OUTSIDE IN TOKYO
日時:2009年10月2日(金)、3日(土)
会場:東京日仏学院2階エスパス・イマージュ 入場料:会員:500円、 一般:1000円
*当日の1回目の上映の1時間前より、すべての回のチケットを発売します。前売り券の販売はございませんのでご了承ください。
お問い合わせ・チケット販売:東京日仏学院(03-5206-2500) http://www.institut.jp
協力:フランスキュルチュール、在日フランス大使館、ユニフランス・フィルム、ドック&フィルム・インターナショナル、
レ・フィルム・デュ・ロザンジュ、山形国際ドキュメンタリー映画祭事務局

10月2日(金)
11:00
ディテール11〜13(12分)
8月、爆発の前(1時間12分)

13:30
待って、兵士たちが来た、もう電話を切らなきゃ(13分)
わたしはいかにして恐怖を乗り越えて、アリク・シャロンを愛することを学んだか(1時間1分)
15:30
二つの目のうち片方のため(1時間40分)
 
18:00
国外追放(11分)
ハッピー・バースデー、Mr.モグラビ(1時間17分)
上映後、アヴィ・モグラビと村山匡一郎の対談あり
10月3日(土)
11:30
待って、兵士たちが来た、もう電話を切らなきゃ(13分)
わたしはいかにして恐怖を乗り越えて、アリク・シャロンを愛することを学んだか(1時間1分)
14:00
国外追放(11分)
ハッピー・バースデー、Mr.モグラビ(1時間17分)

16:00
二つの目のうち片方のため(1時間40分)
上映後、アヴィ・モグラビと村山匡一郎の対談あり
19:30
ディテール11〜13(12分)
8月、爆発の前(1時間12分)
 

プログラムは都合により変更されることがありますのでご了承下さい。
なお、開催中の2日間、午前10時〜午後19時まで1階ロビー、もしくは2階廊下にて『リリーフ』(5分)と『アット・ザ・バック』(32分)のヴィデオ上映をいたします。
上映作品
※詳細情報提供:東京日仏学院

『ディテール11〜13』
原題:Detailes 11-13
(イスラエル=フランス/2004年/12分/DVD/カラー/英語字幕)

イスラエル人のジャーナリストたちが、占領地区を二台の車で通過して いる。彼らは、その会話の中でイスラエル人兵士たちに銃を向けられる 恐怖について話している。
『国外追放』
原題:Deportation
(イスラエル/1989年/11分/DVD/カラー/無字幕 ※背景音のみ)

この短編には母国から追放された三人が登場する。国外追放されるという外的な暴力性は消され、道徳的な話し合いをするという行為が示される。「『国外追放』はドキュメンタリーというよりもささやかなフィクションである。もし何らかの影響を受けているとすれば、ブレッソン、とりわけ『抵抗』だろう」。(アヴィ・モグラビ)
『わたしはいかにして恐怖を乗り越えて、アリク・シャロンを愛することを学んだか』
原題:Comment j'ai appris á surmonter ma peur et á aimer Ariel Sharon
(イスラエル/1997年/61分/ベータカム/カラー/英語字幕付)

イスラエルの選挙戦が近づいてきた1996 年に、映画監督アヴィ・モグラビはアリエル・シャロンという物議を醸し出す政治家についての映画を撮ろうと決意する。ある種の映画内の映画、本作は、アヴィ・モグラビが撮影しているシャロンについての映画と、彼の家庭内で生じていく夫婦の問題を語っている。
『ハッピー・バースデー、Mr.モグラビ』
原題:Happy Birthday, Mr Mograbi
(イスラエル=フランス/1999年/77分/カラー/16mm/日本語字幕付)

ドキュメンタリー映画作家モグラビは、母国イスラエルの建国50周年記念映画の製作を依頼される。と同時に、パレスチナ人プロデューサーからも彼らの視点による記録映画を依頼されてしまう。ユダヤとアラブ。彼の立場は複雑だ。斬新で迫力に満ちた新しいタイプのプライベート・ドキュメンタリー。
『リリーフ』
原題:Relief
(1999年/5分/カラー/DVD/無字幕 ※背景音のみ)

「『リリーフ』は軍によって禁止された結集の映像から作ったヴィデオ作品だ。1948年に何百万人ものパレスチナ人が国外追放された「ナクバ」の記憶のために行われた1998年のデモの映像である。75秒のそのショットを見ている最中に、正しい順番で流すのも、あるいは逆に流すのも同じことだと気づいた。音は撮影時の音だが、速度を落としている。こうした作品の方向に、進んでいきたいと現在思っている。より実験的な作品作りの方向へ。中近東の状況をメタファーとして示すこと。終わりのない、進むことのないこの状況を」。(アヴィ・モグラビ)
『アット・ザ・バック』
原題:At the back
(イスラエル/2002年/32分/DVD/カラー/無字幕 ※背景音のみ)

カメラを持った一人の男がある女性の後を追っている。あるいは彼は彼女に導かれているのだろうか......。アヴィ・モグラビは日本を旅する間ずっと、自分の妻、タマールの背後でカメラを回し続ける。そのカメラは純粋な目のようなものになり、私たち観客の目と合致していく。
『待って、兵士たちが来た、もう電話を切らなきゃ』
原題:Wait, it's the soldiers, I have to hang up now
(イスラエル=フランス/2001年/13分/ベータカム/カラー/英語字幕付)

テレビ画面では日々の出来事の映像が次々と流れている中、アヴィ・モグラビはパレスチナ人の友人と電話で話をしている。その友人は彼の置かれている状況をアヴィに語っているが、突如、兵士たちが現れ、電話が切られる......。
『8月、爆発の前』
原題:Août (avant l'explosion)
(イスラエル=フランス/2002年/72分/35ミリ/カラー/英語字幕付)

アヴィ・モグラビは、8月を嫌っている。彼の目には、イスラエルでの最も耐え難いことを象徴する月なのだ。この月の平凡な31日の中で、彼はカメラとともに道をさまよい、彼自身が彼と彼の妻、彼が今準備中の映画(その映画はエブロンのモスクでの一人のイスラエル入植者によるイスラム教徒虐殺の映画だが)のプロデューサーの役を演じるフィクションのシーンを通じて私たちに彼の内面の思考を届けている。
『二つの目のうち片方のために』
原題:Pour un seul de mes deux yeux
(イスラエル=フランス/2005年/100分/35ミリ/カラー/英語字幕付)

今日、第二次インティファーダ(非武装抵抗運動。イスラエルの占領に反対するパレスチナの民衆蜂起。)が最高潮に達し、パレスチナ人は日常的にイスラエル軍の屈従に耐えている:農民たちは自由に彼らの土地を耕すことはできなかったり、子供たちは学校から戻るのに長く境界線上で足止めをくらったり、年老いた女性は彼女の家に帰ることができなかったり...。イスラエル人監督、アヴィ・モグラビは包囲されたパレスチナ人と遍在するイスラエル軍との間での対話の力を信じている。




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