アラン・レネ追悼特集



2014年3月1日に91歳でその生涯の幕を閉じた映画監督アラン・レネの追悼上映が、『慎み深い革命家、アラン・レネの方法論』の上映で始まり、"革命の不可能性"の下、革命について思考する思想家/映画批評家廣瀬純氏のレクチャーで幕を閉じるかたちでプログラムされていることの意味を考えずにいることは難しい。21世紀の現代においてアラン・レネの多種多様なフィルモグラフィに思いを馳せる時、「常にイノベイティブで新しい境地を開拓」してきたレネの映画=人生と向き合う姿勢に"革命的であること"を読み取らずにいることはほとんど不可能に近いと思われるからだ。自らの作家性などというものよりも、<映画>というアートフォーム、そのものが纏っている革命性に対して誠実であり続けたに違いないひとりの映画作家の追悼特集として、これ以上根源的で希望に満ちた切り口があるだろうか?21世紀の観客がレネを発見し続ける旅が、新緑の季節の訪れと共に今始まろうとしている。
(上原輝樹)
2014.5.8 update
「レネは集団の記憶について撮り始めた。ナチの強制収容所の記憶、ゲルニカの記憶、国立図書館の記憶。しかしレネは、二人の記憶と、複数の人間の記憶との背理に気づくことになる。異なるレベルの過去はひとりの登場人物、ひとつの家族、ひとつのグループを指示しているのではなく、世界の記憶を構成する、連繋していない場所のように、まったく異なる登場人物たちに差し向けられているのだ」。
ジル・ドゥルーズ「映像=時間」
5月9日(金)、10日(土)
会場:アンスティチュ・フランセ東京 
料金:会員500円、学生800円、一般1,200円。
但し、5月9日10:30の回(*)は入場無料、当日9:30より整理券のみ配布とさせていただきます。
当日の1回目の上映の1時間前より、すべての回のチケットを発売します。
開場は20分前。全席自由、整理番号順での入場とさせて頂きます。 

公式サイト:http://www.institutfrancais.jp/tokyo/events-manager/cinema1405090510/
上映スケジュール
5月9日(金)
10:30
慎み深い革命家、アラン・レネの方法論
(59分・無字幕)
ガーシュイン
(52分・無字幕/作品解説配布予定)
13:30
薔薇のスタビスキー
(115分・英語字幕)
16:30
去年マリエンバードで
(93分・日本語字幕)

19:00
あなたはまだ何も見ていない
(115分・日本語同時通訳、英語字幕)
5月10日(土)
12:30
恋するシャンソン
(120分・英語字幕)


15:30
風にそよぐ草
(104分・日本語字幕)
18:30
あなたはまだ何も見ていない
(115分・日本語同時通訳、英語字幕)
上映後: 廣瀬純によるレクチャーあり
上映プログラム

『去年マリエンバートで』(L'Année dernière à Marienbad)
1960年/93分/35mm/モノクロ/日本語字幕付
出演:デルフィーヌ・セイリグ、ジョルジョ・アルベルタッツィ、サッシャ・ピトエフ
原作:アラン・ロブ=グリエ 

記憶と幻想が錯綜する、不可思議な寓話。時間軸、構図、人物像まで、あらゆる映画の形式と決別したアラン・レネ監督の傑作。豪華城館に紛れ込んだ男が、女と再会する。「去年マリエンバードで二人は出会った」と男は告げるが、女は覚えていない。しかし男の話を聞いているうちに、女の記憶は曖昧になり、現実と虚構の境界が消えてゆく......。
「登場人物は現在に属する、だが感情は過去の中に沈み込む。感情が登場人物になる、太陽がないのに公園に描かれた影のように(『去年マリエンバートで』)」。
(ジル・ドゥルーズ、『シネマ2*時間イメージ』宇野邦一ほか訳、法政大学出版局)
『薔薇のスタビスキー』(Stavisky...)
1974年/115分/35mm/カラー/英語字幕付
出演:ジャン=ポール・ベルモンド、シャルル・ボワイエ、アニー・デュプレー、フランソワ・ペリエ、ミシェル・ロンズデール、クロード・リッシュ 

トロツキーがフランス領土に亡命する。そのときスタビスキーはパリにある自分の劇場でオペレッタを上演し、ムッソリーニの口座ために武器密売の仲介をし、優雅な生活を送っていた。1930年代のフランスで暗躍した希代の詐欺師スタビスキーの半生を描く。「私にとって、これは詐欺についての夢想のようなもので、詐欺とはつまり死を忘れるための競争のようなものだと考えた」(アラン・レネ)。
『ガーシュイン』(Gershwin)
1992年/52分/ベータカム/カラー/無字幕
出演:ベティ・カムデン、アドルフ・グリーン、エドワード・ジャブロンスキ、ジョン・カンダー、マーティン・スコセッシ、ベルトラン・タヴェルニエ 

ポピュラー音楽・クラシック音楽の両面で活躍し、「アメリカ音楽」を作り上げた作曲家として知られるジョージ・ガーシュインについて、様々な証言とともに音楽についても造詣が深いアラン・レネが撮ったドキュメンタリー。デッサンと当時の写真、そしてレネ作品のお馴染みの俳優たちのナレーションで、ポピュラー音楽・クラシック音楽の両面で活躍しアメリカ音楽を作り上げた「完璧な音楽家」ジョージ・ガーシュインの生涯、その時代が見事に語られている。
『恋するシャンソン』(On connaît la chanson)
1997年/120分/35mm/カラー/英語字幕付
出演:サビーヌ・アゼマ、ピエール・アルディティ、アンドレ・デュソリエ、ジェーン・バーキン 

パリの空の下、家探しをきっかけに知り合った7人の男女が繰り広げる勘違いを、エディット・ピアフからジェーン・バーキンまで往年のシャンソンやフレンチ・ポップスにのせて、7人の男女が華やかに繰り広げるラブ・ストーリー。98年ベルリン映画祭生涯芸術貢献賞受賞。「『恋するシャンソン』には、特に都市との繋がりが見えます。身体の延長として、あるいはその隠喩としての都市が見えます。人間、そして建築物の外見についての可能な限りのヴァリエーションとともに」(パスカル・フェラン)
『風にそよぐ草』(Les Herbes folles)
2008年/104分/35ミリ/カラー/日本語字幕付
出演:サビーヌ・アゼマ、アンドレ・デュソリエ、アンヌ・コンシニ、エマニュエル・ドゥボス、マチュー・アマルリック 

人を愛する情熱は、アスファルトの隙間から生える名もなき草のように、強く、しなやかに、決して枯れて絶えることはない...。出会いは偶然だった。歯医者のマルグリットはある日、街でひったくりに遭いバッグを持ち去られる。その財布を拾ったのが、初老の紳士ジョルジュだった...。「アラン・レネはこれまでにないほど親しみやすい、感情の変わりやすさ、気まぐれについて魅力的な物語を作り上げた。人間の行動に対する観察の中で、アラン・レネは科学者、また昆虫学者が対象のメカニスムを細かく分析するような眼差しを一度たりとも失ったことはない。しかし年月と共に、深い愛情や感情といった何かに、大きく感情移入できるようなものへと発展していった」。ジャン・マルク・ラランヌ 「レ・ザンロキュッティーブル」
『あなたはまだ何も見ていない』(Vous n'avez encore rien vu)
2012年/115分/35mm/カラー/日本語同時通訳・英語字幕付
出演:マチュー・アマルリック、ピエール・アルディッティ、サビーヌ・アゼマ、アンヌ・コンシニ、ミシェル・ピコリ 

著名な劇作家であるアントワーヌ・ダンタックの死後、遺言によって、彼の戯曲『ユリディス』を演じた俳優たちが、南仏の邸宅に集められる。彼らはコロンブ座という若い俳優たちの劇団がこの芝居を演じている映画を見せられる。愛、生、死、死後の愛、芝居の舞台の上でそれらはまだ意味をなしているのだろうか? スクリーンで若者たちが演じているのを見ていた俳優たちもいつの間にか台詞を呟き始め、『ユリディス』の舞台を演じ始める...。

「登場人物たちはつねに死の欲望に動かされている、それこそがレネの映画の素晴らしく、感動させるところである。自己同一化の過程において、観客に見えてくるのは何かしらの亡霊である。たとえば、生きることがなかった、あるいは漠然と生きた亡霊の人生だったり、存在しなかった、あるいは消え去ってしまったことさえ分からないような亡霊との関係だったり。」ジャン=セバスチャン・ショヴァン
『慎み深い革命家、アラン・レネの方法論』
(Une approche d'Alain Resnais, révolutionnaire discret de Michel Le Clerc)
1980年/59分/ベータカム/モノクロ&カラー/無字幕
監督:ミシェル・ル・クレーク 

『アメリカの伯父さん』までのアラン・レネの道程を、彼の脚本家たちや、40年代、50年代の知人たちの証言をもとに紹介している。当時のレネがロケハンや撮影風景を生き生きと動き回っている姿を見ることができる。
アラン・レネ
ヌーヴェルヴァーグの勃興に先立つこと10年。アラン・レネは、1948年にデビューして以来、たった一人で陽のあたらない道を歩み続けてきた。早くから革新者であったとはいえ(『ヴァン・ゴッホ』、『夜と霧』、『ヒロシマモナムール』)、彼の作品は先行する作品と袂を分かっていたわけではない。あらゆる理論に抵抗するレネは、映画に元来備わった力に手を加えることなく、逆にその「必然性」が、レネを話法と形式の過激な実験へと導いていく。彼は作家であるよりも演出家であることを望み、映画をひとつのアトリエ芸術と見なす。彼にとって映画とは、集団で営まれ、ほかの芸術分野を取り込み、いくつものノウハウを摂取するアトリエの芸術なのだ。文学(マルグリット・デュラス、アラン・ロブ=グリエ、ホルヘ・センプルンによる脚本)があり、演劇(戯曲の映画化、またはエマニュエル・リヴァ、デルフィーヌ・セイリグ、サビーヌ・アゼマなど舞台女優の起用)があり、音楽(現代の楽曲、またはオペレッタ)があり、そして漫画(『お家に帰りたい』)もある。犯罪映画(『彫像もまた死す』、『戦争は終った』)にはじまり、意識と想像のドラマ(『去年マリエンバートで』、『プロビデンス』)や恋愛の悲劇(『死に至る愛』、『メロ』)にいたるまで、レネは次から次へとトーンを変えてきた。『スモーキング/ノースモーキング』、『恋するシャンソン』、『六つの心』といった近作では、コメディにもっとも比重を置く。そして晩年の作品となる『風にそよぐ草』、『あなたはまだ何も見ていない』でも、視覚的な実験や、脚本における見事な離れ業は健在ながら、多くの観客を楽しませ、笑わせ、感動させる驚くべき才能を大いに発揮。遺作となった『Aimer, boire et chanter 愛して、飲んで、歌って』は第64年ベルリン国際映画祭に出品され、通常若手監督が受賞するアルフレッド・バウアー賞を、「常にイノベーティブで新しい境地を開拓している」という理由で91歳にして受賞した。


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