OUTSIDE IN TOKYO
Wang Bing INTERVIEW

2009年に中国当局の精神衛生センターが発表したデータによると、中国の精神病患者は1億人を超えているのだという。人口が約13億人だから、非常に大雑把な言い方をすれば、中国では13人に1人(約7.7%)が精神疾患を煩っているということになる。一方、精神病大国と言えそうな日本に目を向けてみると、厚生労働省が発表しているデータによると、人口1億2700万人の内、320万人程度(約2.5%)ということだから、これらを単純に比較してみるだけでも、中国の精神病患者数の多さは群を抜いている。世界保健機関(WHO)は、中国社会における価値観の変化に伴う混乱、貧富の差の拡大といった社会変動が、この現象の背後にあることを指摘している。

ワン・ビン(王兵)監督が、新作『収容病棟』を撮った動機に、そうした社会問題への深い関心があったのかどうかは定かではない。とにもかくにも、ワン・ビンは、精神病患者が収容されているとされる”収容病棟”の中にキャメラを携えて入っていき、彼/彼女らとともに時間を過ごし、彼/彼女らを「理解」しようと試みる。そこでキャメラが捉える、収容患者ひとりひとりの奇矯な振る舞いは、やはり観客の目を奪わずにはいないだろう。しかし、スクリーンを凝視し続けて見えてくるのは、ここに居合わせた人々、ひとりひとりの個性豊かな人間性であり、見るものを精神の複雑な高みに誘ってくれる、映画の新たなる地平である。

そこでは、同性同士の”性欲”を超えた”愛”の存在が見事に描かれている(アラン・ギロディの『湖の見知らぬ男』然り!)。そして、ジョイ・ディヴィジョンの名曲「LOVE WILL TEAR US APART」を想起させる、『'TIL MADNESS DO US PART(狂気がわれわれを分つまで)』という本作の英題は、本作のメロドラマ的本質すら喚起して止まない。 そんな感想を抱きながら、「恵比寿映像祭」に来日したワン・ビン監督にお話を伺う機会を得た。そこで監督が語ってくれたことには、とても重要な事が含まれている。それは、「ある人にとってはここの病院に居るということが良いことである、ある人にとっては非常に辛いことである」という監督の言葉に集約されている。是非、映画をご覧になって、本インタヴューを読んで頂きたいと思うが、本作に関して言えば、その逆であっても何ら問題はないだろう。

1. 普通では見られないものを他の人に見せるというような、
 そういう映画になってはいけないということは強く意識しました

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OUTSIDE IN TOKYO(以降OIT):映画を紹介する時に、衝撃的という表現はあまり使わないようにしていますけれども、『収容病棟』は、かなり“衝撃的”であると言わざるを得ない作品だったと思います。と同時に、大変素晴らしい映画だと思いました。前作の『三姉妹~雲南の子』(12)と同じ、雲南省で撮られていますが、今作を撮るに至った経緯を教えて頂けますか?
ワン・ビン:実は『三姉妹~雲南の子』の撮影の時に、雲南省にある友人が出来て、その友人というのがこの病院のお医者さんだったのです。そして、彼に、この病院を撮影出来るか聞いてもらったのです。その時点では自分自身、まずこれは駄目だろう、いくらなんでも撮れないだろうと思っていました。ところが撮っていいと許可が降りたのです。しかも歓迎してくれるということだったので、自分でもそれはとても意外なことという風に受け止めました。というのも、今まで、多くの精神病院は撮影を認めてくれなかったわけです、普通は撮らせてくれない。しかしこの病院は許可してくれたっていうことにとても驚かされたわけです、と同時に困惑を感じたのです。何故自分はこの精神病院で映画を撮るのか、一体ここで何を撮ればいいのかという大きな困惑です。そして、精神的なプレッシャーもかなり強く感じました。何が撮れるか、どういう風に撮るべきなのかということを深く考えました。ここの精神病院にいるのはもちろん精神病を患っている人なわけですから、そういう人達は普段は社会の目に晒されていない、自分がそれを撮ることによって珍しいものを、普通では見られないものを他の人に見せるというような、そういう映画になってはいけないということ、そこは強く意識しました。ですから本当に自分が必要とするもの、本当にそこに居る人達の姿をきちんと撮っていくということ、その為に自分は努力して撮影していこうという風に思ったわけです。

『収容病棟』
英題:TIL MADNESS DO US PART

6月28日(土)より、シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開

監督:ワン・ビン
撮影:ワン・ビン、リュウ・シャンフイ
編集:アダム・カービー、ワン・ビン

2013年/香港、フランス、日本/237分(前編122分、後編115分)
配給:ムヴィオラ

© Wang Bing and Y. Production

『収容病棟』
オフィシャルサイト
http://moviola.jp/shuuyou/


『無言歌』インタヴュー

『三姉妹~雲南の子』インタヴュー
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