OUTSIDE IN TOKYO
Wang Bing INTERVIEW

轟々と強風が吹きすさぶゴビ砂漠を舞台に、“反右派闘争”の歴史を紐解いた『無言歌』(10)から3年(完成は2012年)。そんな原作を下敷きにし、脚本も書き、セットまで組んだ前作から離れ、新作『三姉妹~雲南の子』では、監督本人も含めた2台のカメラで雲南省の小さな村の三姉妹を追いかける。『鉄西区』(99-03)、『鳳鳴―中国の記憶』(07)の傑作で知られる本来のドキュメンタリーという領域に戻った感もある。そこには現代中国の都市生活からは想像もできない、ほぼ自給自足の、切り詰めた生活を送る、雲南のある村が映し出される。長女の英英(インイン)10歳は、次女の珍珍(チェンチェン)6歳、三女の粉粉(フェンフェン)4歳の面倒を見ながら、祖父と伯母の言いつけを守って、水汲みから放牧、燃料となる家畜の糞を集めるなど家事に追われる。母親はそんな田舎の貧しい生活に耐え切れず都会へ出て行ってしまった。そして父親もまた、家族を養うために都会へ出稼ぎに出ていった。居候生活のような彼女たちへの風当たりは強く、英英は文句も言わず、黙々と日々の仕事をこなしていく。顔も服も汚れたままで、靴は崩壊しかけており、湿った布団で眠る毎日。妹たちの頭からシラミを取ってやる。だいたいは無表情な彼女だが、ごくたまに子供の表情を覗かせる。だが無邪気な妹たちと違い、その表情はすぐに、大人の顔色を窺い、責任感という重圧の下に隠される。小学校へ行っても、親戚の宴によばれても、一瞬出た笑顔や大きな声はすぐに姿を消し、隅に追いやられる。だが彼女自身は静かに立って前を向き、世の中を見つめる。そこには威厳さえある。父親が一度都会から戻り、妹たちだけを連れて出稼ぎに出る際も、彼女は文句ひとつ言わず、状況を受け入れる。何かを言いたそうな口元もすぐに堅く結ばれる。ワン・ビンはそんな三姉妹を淡々とカメラで捉えていく。観客が手を差し伸べたい気持ちになっても、カメラはひたすら、彼女たちを見つめる。そこでの生活はおそらく、まだ何世代も変わらないだろう。高地で痩せた土地にあまり太陽が照る様子はない。厳しく乾いた風が頬を打つ。彼女はそこで大人になり、どこかへ嫁にやられていくのかもしれない。だが見ている限り、その暮らしがよくなっていくとは思えない。いや、そこにはいつか人も村もなくなるかもしれない。田舎からの出稼ぎで都市に流入する者たちの状況も、必ずしも明るくないことはこれまでのドキュメンタリーで描かれてきたが、田舎にいても同じように希望が見えないことを見せる。ワン・ビンはそんな状況に生きる三姉妹の中に威厳を映し出す。

昨年の東京フィルメックスでの来日が期待されたワン・ビンはその時、パスポートの用紙が足りずに来日を断念したと送られた映像で話していたが、『三姉妹~雲南の子』の公開を前にようやく来日した。

1. ある人物に出逢い、とてもおもしろいと感じた瞬間に、
 その人たちをドキュメンタリーとして撮ってみたいと感じる

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OUTSIDE IN TOKYO(以降OIT):監督は(現地で)高山病にかかっていたと聞きましたが。
ワン・ビン(以降WB):そうなんですよ。

OIT:そんなに高いところですか?
WB:海抜3200メートルから3500メートルくらいのところです。

OIT:そこは実際に撮影で訪れる前にすでに何度か行っていた場所なのですか?
WB:最初に(三姉妹と)出逢ってだいたい1年半ほど経ってから撮影に行きました。

OIT:(撮影の時ではなく)初めて行かれた時はカメラを回していたのですか?
WB:少し撮りましたね。30分ほどカメラを回しました。

OIT:感覚的には、どの時点から映画を撮り始めるという気持ちになっているのですか。
WB:やはり、ある人物に出逢い、強烈な印象を受け、とてもおもしろいと感じた時ですね。その瞬間に、その人たちをドキュメンタリーとして撮ってみたいと感じるのです。

『三姉妹~雲南の子』
英題:THREE SISTERS

5月25日(土)より、シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー

2012年ベネチア映画祭オリゾンティ部門グランプリ
2012年ナント三大陸映画祭 グランプリ&観客賞 ダブル受賞

監督:ワン・ビン
撮影:ホアン・ウェンハイ、ワン・ビン
録音:フー・カン 編集:アダム・カービー、ワン・ビン
製作:シルヴィー・ファグエ、マオ・ホイ 出演:ルウ・イエ、シュー・ツェンツー、ヤン・ハオユー、リー・シャンニェン

フランス、香港/2012/153分/16:9/stereo
配給:ムヴィオラ

© ALBUM Productions, Chinese Shadows

『三姉妹~雲南の子』
オフィシャルサイト
http://www.moviola.jp/sanshimai


『収容病棟』インタヴュー

『無言歌』インタヴュー
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