OUTSIDE IN TOKYO
Denis Villeneuve INTERVIEW

ワン・ビン(王兵)『収容病棟』インタヴュー

2. 出来るだけ彼らの生活をじっと直視し、それをカメラに納め、
 そしてこの人達の内なる心の世界というものを覗こうとしました

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OIT:ワン・ビン監督がお生まれになった年に作られた映画でフレデリック・ワイズマンの『チチカット・フォーリーズ』(67)という精神病院のドキュメンタリー映画がありますけれども、それが撮られたきっかけは、精神病院の院長がこの現状は相当まずいと、それを世に知らしめる必要があるからワイズマンに依頼して撮ったという話だったと思いますが、ひょっとするとワン・ビンさんが知り合った友人は、この現状について世の中に知ってもらった方がいいという、そういう意図があったとお考えですか?
ワン・ビン:ことは凄くシンプルでした。この病院の人達は、院長以下全員、マスコミとか映画とか、そういうことをする人達に全く知り合いがいない、全く撮られた経験もない、何もないわけなんです。本当にシンプルに友人として、撮ってもいいと許可をしてくれたわけなんですね。ですから病院側としては、これを撮ってもらって世の中に現状を知らしめたいとか、そういう意図は全くなかったと思います。

OIT:撮影自体、前回の『三姉妹〜雲南の子』と似たスタイルだったのかなと思いますが、撮影のプロセスについて教えて頂けますか?
ワン・ビン:『三姉妹〜雲南の子』と違うのは、撮る対象の人数が今度は多いということ、それから、この人達が閉ざされた環境で生活してるっていうことぐらいで、あと私の基本的な撮影のスタイルは『三姉妹〜雲南の子』と変わることはないわけです。出来るだけ彼らの生活をじっと直視し、それをカメラに納め、そしてこの人達の内なる心の世界というものを覗こうとしました。出来るだけ生活の描写をきちんとするように撮っていったわけです。

OIT:撮影はお二人ぐらいですか?
ワン・ビン:一台で撮りました。カメラは一台ですけれども、もう一人撮影を担当してくれる人がいました。ずっと一人で回していると非常に疲れてくるので、そういう時に変わって撮ってもらうようにしました。だから一台のカメラを二人で使っていたっていうことですね。

OIT:音も同時録音ですね。
ワン・ビン:そうです。

OIT:同じビデオカメラで?
ワン・ビン:別のマイクをカメラに取り付けて録音していきました。

OIT:カメラに付けたマイク以外にも音は色々拾っているんですか?
ワン・ビン:そのマイクをカメラに取り付けてある時もあれば、カメラから取り外して、その位置だと上手く撮れない、あまり相応しくないと思う時に、取り外して下の方に持っていったり、上の方に持っていったり、手で持っていました。

OIT:音についてですが、例えば花火の音だけ最初に聞こえていて、後で画が見える場面がありますが、音のオーバーダビングみたいな処理も編集の段階ではしていないですよね?
ワン・ビン:後でミックスしたっていうことはないです。もうそのままカメラを構えていると同時に録音しています、シンクロですね。撮る距離によって、例えば人物を撮っていて花火がそこら辺で上がっているっていう時は、その花火自体が見えていなくても音が入りますから、音だけにしたところはありますね。弱冠の変化は持たせましたけれども、実際に音が撮れていない状況のところに別のマイクで撮った音を編集でミックスして入れるっていうことはしてないですね、全部その時に同時に撮った音だけです。音のないところに音を入れていくと、人物そのものの動きが全然変わってきてしまいます。ですからこの撮影の時は、とにかく撮っているもの、その前にある音しか入れていないわけです。例えば音のないところに別の音を入れたとして、観客はそれに気付かないかもしれない、しかしその画面の中で撮っている人物っていうのはその音に対して反応するので、その人物の動きさえも変わってくるわけです。例えば、撮られている対象は、ある音が自分の周りにあると、その音に反応して行動します。この音が過ぎてからこっち向こうかなとか、何か話そうかなっていう風にするので、そうした反応は、音を作って入れ込んでしまうと出てこなくなる、また違った反応になるのでそういうことはしないですね。


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