OUTSIDE IN TOKYO
NOBUHIRO SUWA INTERVIEW

諏訪敦彦『ライオンは今夜死ぬ』インタヴュー

6. フランスの映画製作の環境は恵まれているが、日本は酷過ぎる。
 構造的に搾取が行われている

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Q:湖のシーンとか特にそうですけど、南仏の色彩が素晴らしくて、撮影がトム・アラリですね、色彩設計の話というのはされたんですか?
諏訪敦彦:トムとは、そんなに詳しい打ち合わせはしてないです。ただまあ今回、トム・アラリもそうだし、彼を中心にしたメインスタッフのチームっていうのは全部あの世代で、ギヨーム・ブラック組がベースになってるんです。トム・アラリって撮影監督はすごい面白くて、彼は助手の経験がなくて、いきなり撮影監督なんですよ。だからシャッターどこにあるんだっけという感じで、助手に、もうトムはーって(笑)言われる。そういう撮影監督なんですけど、もの凄く大胆な人で、こんなとこに照明置くんだみたいな感じですけど、全部お任せしました。湖のシーンでも結構フィルターを使ってるんですよね、ハリウッドブラックマジックっていうフィルターを使ったりして、ナチュラルであるっていうことに囚われない。僕にも色々な提案をしてくれて、僕が普段やらないようなことを敢えて提案してくるっていうことを結構意識的にやってくれた。ここは切り替えそうだとか、カット割ってもいいじゃないとか、僕が割らないっていうことをよく知った上で、いや割ってもいいんじゃないかという提案を結構してくれた、だから湖のシーンもここは切り替えそうよっていう感じで、だったら正面からいって正面切り返しとか、彼がそういう風に加担してくれたことは大きかったですね。光に関しては本当に僕の方からこうしてほしいって言ったわけじゃなくて、彼が設計した光です。屋敷の壁紙の色が最初に決まったので、あれが基調になってると思いますけど。

Q:あれは塗ったんですか?
諏訪敦彦:ああいう家だったんです、本当にオリジナルの壁なんですよ、なかなかないんですよ。あのぐらいの年代の建物っていうのはいっぱいあるんだけど、壁がオリジナルでそのままっていうのはなかなかなくて、あの屋敷はそれが素晴らしかったのでもうここにしようっていうことで即決でした。あれが基調になってますね。

Q:弟のアルチュールはその現場では一緒にいたわけではないんですか?
諏訪敦彦:役者としてだけですね、彼は。だから時々、出演が必要な時に来て、子ども達の指導者役ですね。

Q:彼は監督ですね。
諏訪敦彦:『汚れたダイヤモンド』(16)という映画を撮りました。でもあの世代はやっぱり面白いと思っていて、ジャン=ピエール・レオーは僕が最初に観たフランスのヌーヴェルヴァーグのシンボルだけど、この映画のスタッフは本当に次の世代、新しいフランスのヌーヴェルヴァーグそのものだと思いましたね、この映画が橋渡しになってくれて良かったなと思っています。

Q:諏訪監督は、日本とフランス両方で映画を製作されているので聞かせていただきたんですけど、フランスと日本の映画製作で何が決定的に違いますか?
諏訪敦彦:ベーシックに言うとそんなに大きく変わらない、違うのは余裕ですね、フランスのスタッフには余裕があります。例えば撮影時間は8時間が基本で、土日は休み、5日以上連続して撮影してはいけないっていうのが決まりなので、8時間以上撮影することはほとんどないです。押した場合は次の開始時間を遅らせるとか、そういうところはきちんと守られている。小さなことだけどお昼休み1時間はみんな仕事を止めます、みんなで一緒にご飯食べましょうねっていってご飯をみんなで食べる。日本だとそういう時でも、誰かしらずっと仕事をしてますね。みんなでちゃんとご飯食べようねとか、そういうことを大事にしてるのはすごく豊かなことです。あと児童保護もしっかりしていて、子ども達は撮影現場に一日4時間しか拘束できないんです。厳密に言うと現場入って出るまで4時間、学校がある期間は3時間以上やってはいけない、もし見つかると撮影中止です。子どものギャラは本人の口座にしか振り込まない、その口座は18歳まで誰も触れないっていうのがはっきりしています。フランスのスタッフは映画、演劇に関わってる人間は登録されていると、1年間に一定期間以上仕事をすれば、残りの期間の生活費を貰えるんです。それはそんなにどんどん仕事がある状況ではないから、その間は保障しましょうねっていうことで社会保障が守ってくれるんですね。例えば助監督の子が編集の仕事もしたい、勉強したいと言ったら申請して通れば勉強する期間の生活費と勉強するお金を出してくれる。彼らは一つ現場が終わったらお休みとか、次何しようかなとか、そういう風に自分達の生活を持続していくっていう余裕があるので、“生活”があります。日本だと生活を犠牲にしなきゃならない。フランスは本当に恵まれ過ぎといったら恵まれ過ぎだけど、日本はあまりにも酷すぎるから。それでも情熱で支えられている、それでもこれだけ映画が作られ、若い人達が頑張って面白い映画を作ってるってすごいことだと思うけど、まあ搾取ですよ、構造的には。それでも誰も止めない。ヨーロッパでは日本映画が未だに尊敬されてますから。でもそこに甘えていていいんですか?って感じはしますよね。自分はフランスで撮れてるからいいけど、自分だけ良ければいいっていうものでもないですから。

Q:最後に聞きますが、次の作品はいつになりますか?
諏訪敦彦:僕ですか?次はいつになるんでしょうね、8年はかからないようにしたいです(笑)。

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