OUTSIDE IN TOKYO
KUROSAWA KIYOSHI INTERVIEW

ショーン・ベイカー『タンジェリン』インタヴュー

4. ”ポップ”であることは、一般的であるというだけでなく、ユニバーサルに訴求する力もある

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OIT:アメリカでは、ドナルド・トランプのような人物が大統領になりましたが、映画業界にも何かしらの影響を与えるとお考えですか?
ショーン・ベイカー:そう思いますね。最高の芸術ほど反動的であろうとするものであるからです。これから作られていく映画は政治的なものがかなり増えていくだろうと思います。映画業界自体はリベラルな人間が多いので、トランプが選挙で勝ったことは、皆一様に驚きと悲しみとともに受け止めたわけですが、もしかしたら、今までは社会派という感じではなかった人たちも、これからは政治的なステイトメントが含まれた映画を作っていくきっかけになっていくのかもしれません。恐らく、僕の『タンジェリン』や新作などは、トランプ政権やそれを支持する人々は見たいと思わないアメリカの側面を描いている映画であるかもしれないし、こういう事態にならないと、芸術が変わらないというのはちょっと残念なことですが、間違いなく影響はあると思います。少なくともこれからの賞レースは非常に興味深いものになるのではないか、政治性の高いものが頭角を表して支持を得るのではないかと思います。

OIT:ケン・ローチ、、、
ショーン・ベイカー:いや、まさに僕もその名前を出そうとしたところです!

OIT:(笑)ですよね。ケン・ローチの作品は、明らかに社会性、政治性が強い作品であると言えると思いますが、監督の作品は、一見、もっとポップですが、実は社会性もミックスされていて、より若い人であるとか、幅広い層にアピールするのではないかと思います。そういう風に、感覚的により幅広い人々に訴求したいという思いはありますか?
ショーン・ベイカー:まさしく、そう思っています。僕はフィルムメイカーとして、ケン・ローチを大変尊敬しています。彼は全てのキャリアを社会性の強い映画を作ることに捧げていて、僕はそんな彼のスタイルが大好きなのですが、自分が年を経るに従って、より若い、幅広い層にアピールするにはポップであることが必要だと思うようになりました。彼等は、ポップ・ミュージックが大好きですし、ポップなイメージに惹かれています。ポップは、そのように一般的であるというだけでなく、ユニバーサルに訴求する力もあるのです。カラフルでポップな感覚というのは、本当に幅広い層で受け入れられています。訴求したいメッセージが、ポップのフィルターを通せば、より伝わりやすいのであれば、それを活かさない手はありません。僕の場合は、それほど意図的だったわけでなくて、自然な形でそのようになってきたのですが、作品を重ねるごとに、よりポップな仕上がりになってきています。新作もそうなっているのですが、ハイパーアクティブという感じではありませんが、実にカラフルな作品に仕上がりつつあります。テーマ的には、子供の貧困を扱っているのですが、視覚的快楽に訴える作品です。とても興味深く、奇妙なことだと思いますが、ひとつの進歩、進化なのだと思います。

OIT:最後に『タンジェリン』というタイトルについて伺いたいのですが、まずはオレンジ色という意味がありますね、そして、フルーツの名前であること、そして、そこまで意図しているかはわからないのですが、モロッコにタンジールという地名があります。
ショーン・ベイカー:そのように解釈を拡げて頂いて、とても嬉しいです。このタイトルにしたひとつの意図は、観客の皆さんに、そうして想像の翼を拡げてほしいということです。私の意図としては、その言葉そのものというよりは、何か異質なものを感じさせる言葉であり、なぜか、その言葉に何度も立ち戻ってしまって、僕自身、その意味を言葉で定義するのは難しいのですが、その色であるとか、フルーツであるとか、感覚的にしっくりくる感じがしたんです。それと、ヒントが作品の中にありますので、僕の口から言うのはやめておいた方がよいかもしれません(笑)。あと、先程のケン・ローチの話ですが、新作『わたしは、ダニエル・ブレイク』をまだ見ていなくて、アメリカに帰ったらすぐにでも見たいと思ってるんです。

OIT:丁度、東京でも今(2016年12月現在)、ケン・ローチの初期の作品の特集上映が行われているところです。
ショーン・ベイカー:おお、そうなんですね、僕の新作が子供が出てくる映画なので、丁度『ケス』を見直したばかりですよ。



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