OUTSIDE IN TOKYO
KUROSAWA KIYOSHI INTERVIEW

ショーン・ベイカー『タンジェリン』インタヴュー

2. ”ワークショップ”と呼ぶような作業を、マイク・リー先生の影響を受けてやっています

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OIT:私はこの映画を、iPhoneで撮影した作品であるということをもちろん知った上で、東京国際映画祭で六本木ヒルズのスクリーン7という巨大なスクリーンで見て、何の遜色もない仕上がりで驚かされました。
ショーン・ベイカー:僕もそのスクリーンで見たかったですね。

OIT:とはいえ、普通にiPhoneで撮っただけでは、シネマスコープサイズで、このような仕上がりにはなりませんね。
ショーン・ベイカー:もちろん、その通りです。普通に撮っただけでは、その辺のビデオ映像と何ら変わらないものになります。1秒間に24コマ撮影できなければ映画的なルックにはなりませんし、ポスプロでカラー調整を行って、粗い粒子も加えていますが、何より、アナモルフィックレンズのアダプターを装着する必要がありました。僕らが豪華に装飾を施した特別仕様のiPhoneを使って撮影したんじゃないかと思っている人が多いようなのですが、実際はそれほどでもありません。この小さなレンズアダプターとiPhoneを安定して支えるためのスタビライザー、手で持つ部分がある、ステディカム社の製品ですが、それ位なんです。でも、それも5sだから必要だったようなもので、今の6sPlusなら、内蔵されているスタビライザーが優秀なので必要ないかもしれません。とはいえ、その時はスタビライザーがなかったら、揺れてしまって使い物にならなかったと思います。たとえレンズがもの凄く小さくて、それを持つ手が全く揺れていないと思ったとしても、人間の手というのはどうしても揺れてしまうものですから、それをスクリーンに映すと、とても見られる画には仕上らなかったはずです。

OIT:撮影の現場は、どのように進んでいったのでしょうか?何回もシーンをやり直すようなことがあったり、事前にリハーサルを行ったりしたのでしょうか?
ショーン・ベイカー:まず、順撮りではなかったですね。というのは、予算がないので、スケジュール的に役者さんとロケーションをいつ使えるのかということを併せて調整する必要があったからですけど、撮影スタイルはとてもカジュアルなものでした。午前11時くらいまでに歩いて現場に行けばよくて、撮影がいつもこんな感じでカジュアルにできればいいのにと思いましたよ。日中に撮る必要があるものをしっかり撮れれば、それで良かったので、大きなプレッシャーと闘う必要がなくて、とてもやり易かったんです。リハーサルの代わりに、僕は”ワークショップ”と呼ぶような作業を、マイク・リー先生(笑)の影響を受けて、やっています。文献で読んだだけなんですが、マイク・リーの場合は、ひとつのアイディアをベースにワークショップをやっていく、僕らの場合は、もうちょっと確固とした物語がある中で、この部屋と同じようなシンプルな部屋を借りて、椅子を3つ用意して、そこに二人の主役と途中で引き摺り出されるダイナを演じるミッキー(・オハガン)に参加してもらって、例えば、アレキサンドラ(マイヤ・テイラー)が曲を歌って、でもその曲を気に食わない、と二人が言い出す、という設定でアドリブでやってみてもらう、というような感じでした。僕が今改めて思うのは、今まで僕は全ての作品で役者さんに本当に恵まれてきた、ということです。彼等は、生まれつきの天才的資質と言うべきコメディセンスと、アドリブで演技をできる技術を持っている。主役の二人にユーモアのセンスがあるということをわかってはいましたが、あそこまでアドリブで面白いことを言えるとは、正直、思っていなかったんです。あの二人のリハーサルを見ているだけでも、僕にとっては本当に大きな喜びでした。実は、その時のワークショップで喋ったことはすべて録音していて、一番面白かった部分は文字に起こして、後で脚本に落とし込んだりしていたんです。シーンによっては、リハーサルは敢えて行わず、その環境に身を置いていきなり演じてもらうということもありました。ひとつの例が、ナッシュ(イアン・エドワーズ)が登場するシーンです。彼はスタンダップコメディアンで以前から僕は彼のファンでしたが、会うのは僕もスタッフも撮影当日が初対面で、その日は丸一日アドリブ合戦に明け暮れました。

OIT:脚本は、最初に作っていたけれども、ワークショップの中でさらに発展させていったと。
ショーン・ベイカー:ワークショップを始めた時には、“トリートメント”(長めのあらすじ)と“スクリプト”(脚本)の間の“スクリプトメント”のようなものが10ページほどあって、撮影に入る頃には45ページ、撮影中もずっと脚本を書き続けていましたので、撮影が終わった段階で大体70ページくらいの量になっていました。通常、2時間くらいの映画ですと、120ページくらいが普通なんですけどね。



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