OUTSIDE IN TOKYO
KUROSAWA KIYOSHI INTERVIEW

ショーン・ベイカー『タンジェリン』インタヴュー

3. 俳優とのインプロビゼーションが好きなのは、僕自身は役を演じているわけではないのに、
 そのシーンに参加できている、という感覚を持つことができるからです

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OIT:撮影現場ではアドリブも結構あったのですね。
ショーン・ベイカー:そうですね、僕は常にそう仕向けています。書いたものにそれほど執着があるわけではないので。そもそも、僕は“物書き”ではないので、もし俳優たちがもっとリアルな表現を加えることができるのであれば、それを歓迎します。俳優から「こんな言い方しないよね?郊外からきたホワイト・ボーイじゃあるまいし」とか言われるので、OK、じゃあ、やってみてよ、って言うんです。僕の場合は、今まで本当に俳優たちに恵まれてきたおかげで、実りの多い共同作業をやってくることができました。というのも、すべての俳優がそうした共同作業のプロセスを好きなわけではないんです。今までやってきた俳優の中にも、一言一句言うべき台詞を書いてほしい、その通りにやるから、台詞を考えるのは僕の仕事ではないからね、という人は結構多くいましたから。まあ、確かにその通りだけど、僕の場合は、ちょっと違うやり方をしているので、アドリブで共同作業ができる俳優たちとやりたいと思ってるんです。

OIT:『The Florida Project』もそのやり方でやってるんですか?
ショーン・ベイカー:新作では、ウィレム・デフォーとやってるんですけど、彼は僕の今までの作品を見てくれて、今回、一緒にできることをとても楽しみにしていると言ってくれたんです。彼は、今まで数え切れないくらいの様々な監督と、様々な環境で芝居をしてきた素晴らしい俳優ですが、自由な機会がある時もあれば、全くない時もあったわけです。彼は、今回のプロジェクトにとってパーフェクトな存在でした。というのも、彼ほどのキャリア、プロフェッショナルな修練を積んできた偉大な俳優が、自ら進んで”間違い”を見せてくれるのです。こんなことは滅多にないことです。僕が、前作『チワワは見ていた ポルノ女優と未夫人の秘密』(12)で経験して素晴らしかったことは、ドリー・ヘミングウエイ、彼女はマリエルの娘、アーネスト・ヘミングウエイの孫にあたるわけですが、彼女が5行くらいの台詞のうち3行を完全に間違っているのですが、まったく動揺を見せないのです!彼女は普段はモデルでキャットウォークしていて、プロの俳優ではないからとか、そういうことではなくて、彼女はそれで、あら?今の違ってた?OK、じゃあ、次はこういう風にやらせて!って感じで、まったく自意識過剰じゃないんです。僕はもの凄く自意識過剰な人間なので、自分では考えられないことです。多くのプロの俳優は自意識が高いものですから、ウィレムのような素晴らしい俳優が、自ら進んで”間違い”を見せてくれて、一緒に取り組んでくれるなんて夢のような体験でした。

OIT:監督は演技はしないのですか?
ショーン・ベイカー:いやいや、演技なんて、とんでもない!幾つか前の作品で、1シーンだけ演じてみたのですが、編集した時に自分で削りました(笑)。台詞すらない役なのに、なぜあれほど固くなってしまうのか、、。でも、俳優とのインプロビゼーションが好きなのは、僕自身は役を演じているわけではないのに、そのシーンに参加できている、という感覚を持つことができるからなんです。つまり、僕はキャメラの後ろにいて、俳優に台詞を与えながら、彼らと一緒にインプロビゼーションをしている、ただ沈黙しているわけではなく、もし俳優が何かを出してきて、それが70%の出来上がりだなと思えば、僕は残りの30%を捻り出して100%のものに持っていくことができる。今言った台詞だけど、そこをちょっと捻ってみて、最後にこの台詞を足してみよう、って感じでね。そうすると結構いいものになっていく。僕は、キャメラの後ろにいるけど、完全な共同作業で作っていく、そのプロセスがとても好きなんです。

OIT:『タンジェリン』では、トランスセクシュアルであったり、移民であったり、社会の周縁にいる人たちを描いています。監督自身が、彼等のような存在に惹かれるものがあるから撮っていると考えて良いですか?
ショーン・ベイカー:そう言っていいと思いますね。僕は3年間、彼等とともに過ごしたわけですから。本当に自分が興味を持てることでなければ出来ないことだと思います。利己的な理由もそこにはあって、自分にとっては、友達作りのための教育でもあったのです。そして、今でも彼等と交流を続けています、人種や社会的な枠組みを超えた交流なんです。自らの属性を超えた人々と交流を持つことは素晴らしいことです。より世界のことを学ぶことができますし、より人々や文化について学ぶことができるのですから。



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