OUTSIDE IN TOKYO
PARK CHAN-WOOK INTERVIEW

パク・チャヌク『イノセント・ガーデン』インタヴュー

4. 見えるものは意識に作用するものであって、聴こえるものは無意識に作用する

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Q:家の内装の緑色が凄く効果的でしたが、あれも監督のご希望通りでしたか?
パク・チャヌク:幸い今回撮影に使わせてもらった家は人が住んでいなかったので、自由に直していいという許可を得ることが出来たんです。ですから今回映画を撮る為に内装も全部変えて、全部作り直しました。結果的に緑色に落ち着いたのは、美術監督とか撮影監督と何度も何度もテストを重ねてこの色を選んだんです。一口に緑色と言っても微妙な違いがあって、本当に少しの違いでも違った印象になるものです。だから色々な緑を試してみて、その中で選んだのが今回の色でした。私が最初に考えていたのは、もっと広い家だったんですよ。撮影に使った家は狭かったので、緑色を使うと広く見えるのではないかというのも狙いの一つでした。それから、冷たい印象も出せると思いました。緑色は、色だけを見たら爽やかで綺麗ですよね、ところが展開されている物語は非常におぞましい、怖い展開になっていきますので、そうなってくると緑色が冷たい印象に感じられると思うんです。だから背景を緑色にすれば助けになると思いました。

Q:インディアは、人に見えないものが見えたり聴こえたりする、凄く敏感な女の子という設定です。その為、“音”がかなり作り込まれてたと思うんですが、それはほとんど全部人工的に作ったんだと思うのですが、“音”についてお話を伺えますか?そして、監督の映画は音楽がいつも素晴らしいのですが、今回もフィリップ・グラスのデュエット曲があったり、本当に素晴らしかったです。
パク・チャヌク:これまで私は映画を作る時に、音響の面でいつも色々な努力を傾けてきました。私は映画において音響の部分は充分に探求されていない部分だと思っています。だからこそまだまだやることがたくさんある。人はどうしても視覚的なものばかりに拘ってしまって、作り手も見る人もそうなんですけど、なかなか映画における音、音響というものに対して研究が進んでいない気がするんですね。だから私としては本当にやることがまだまだ残ってますし、面白いことがたくさん出来るのではないかと思っています。もちろん視覚的なものが大事ではないということではなくて、両方とも大事なんですよね。見えるものは意識に作用するものであって、聴こえるものは無意識に作用するものだという風に思います。ここで私が言う“音”というのは、音楽とか台詞を除いたいわゆるサウンド、音響についてのことなんですね。映画を観終わった後に、今回の映画の音響良かったなっていう人、なかなかいないと思うんですよ。いないと思うんですけど、無意識の内に感じ取って下さってる方はいると思うんですね。だからこそとても大事だと思いますし、これからも努力を傾けたい分野です。ただ今回の『イノセント・ガーデン』については結構専門家の方が、音響に対しても指摘をして下さるケースが多かったんです。恐らく、今回は、背景が静かなので、結構こちらも色々音に気を使って入れていたので、そこを観て頂けたのかなと思います。強調して作った音っていうのは今回新たに映画の為に作ったのが殆どでした。ですから記憶に残っている音があるとしたら、この映画の為に新たに作ったものだと思って頂いていいですね。それとインディアのキャラクターが凄く敏感だっていうこともありましたので、観てる人の神経をちょっと逆撫でするような音、そして張りつめた緊張感を強調出来るような道具として音を使いました。音楽はおっしゃる通りフィリップ・グラスさんにピアノ曲を書いて頂いたんですが、最初のシナリオにはエリック・サティ風の曲って書かれてたんですよ。でも私は、インディアの特長を考えると完全な自閉症ではないんだけれども、ちょっと自閉症の傾向がありますから、曲も反復するような、何度も繰り返すようなメロディとか、パターン化された曲の方がいいと思って、自分なりにシナリオに”フィリップ・グラス風の曲”って書いたんです。ただ、まさか書いてる時はご本人がやってくれるなんて夢にも思わないので、他の作曲家にフィリップ・グラス風に書いて下さいねって頼むつもりだったんです。ところがご本人がやりますって言って下さったので、本当にびっくりして興奮してしまいました。彼との作業は本当に幸せでしたね、あれほどの大家、生きている伝説と言える方に、こうして下さい、ああして下さいとこっちが要求できるなんて、夢にも思えなかった、本当に素晴らしい経験になりました。


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