OUTSIDE IN TOKYO
OTAR IOSSELIANI INTERVIEW

知性が溢れ出る会話。時に差し挟まれる美しい皮肉。全くもって人を魅了する人だ。コニャックに満ちたグラスを片手に悠然と語る姿は巨匠と呼ぶに相応しく、全てを見抜くようなあの瞳を前にすると、全身にビリビリと緊張が走る。質問の核を確かに捉えたうえで次々に展開していく語りはすばらしく、インタビューであることを忘れるほどに引き込まれた。膨大な知識と決して簡単ではなかった人生が融合し、イオセリアーニ独自の文脈が形成されている。彼の脳内はまるで小宇宙のようだ。

イオセリアーニの新作の邦題は『汽車はふたたび故郷へ』に決定したようだが、原題は『Chantrapas(<歌わない子>=役立たずの意味)』という。ゲオルギアの映画青年が思想的自由のない故郷を離れてパリへ行くも、今度は商業主義的不自由に捉えられる。果たして彼は自分が望む映画を撮ることができるのか。検閲によって上映が許されない映画。監視、暴行、亡命。言葉にすると悲劇的だが、イオセリアーニの手にかかると全てが軽やかで優雅、そしてどこかユーモラス。それは、映画に確かなリズムがあるからに他ならない。イオセリアーニ作品におけるリズムについては、本インタビューでも語られている。ぜひご一読いただきたい。決して野蛮人に堕さない、精神的貴族のイオセリアーニ。周りに服従せず、頑固なまでに自身の映画を求める主人公の姿は、オタール・イオセリアーニ自身以外の何ものでもない。

1. リズムという概念はあらゆる職業にとって重要です

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Q:監督は、映画において大事なのはセリフではなくリズムだとおっしゃっていますが、映画におけるリズムとはどんなところから生まれるとお考えですか?
オタール・イオセリアーニ(以降OI):映画は時間の中に流れる芸術です。その点ダンスや音楽に似ています。そして、不可逆的にダンスと音楽にはリズムとテンポがあります。リズムという概念はあらゆる職業にとって重要です。人間には脈拍がありますが、それが人生のリズムを作り出しています。ナポレオンの脈拍は43でした。我々アーティストは最小限でも70です。したがってアーティストたちは非常に速いリズムで生きているのです。人生のリズムはこうして定まっていきます。

ナポレオンは若死にしましたが一分間に43の脈拍でしたから、本当であれば120歳まで長生きできたはずです。天皇ヒロヒトは50。したがって長命でありました。憶測に過ぎませんが、おそらくブッタの脈拍は20かそれ以下だったのではないかと思います。瞑想に入ると脈拍が少なくなり、リズムがおちてきます。特にニルヴァーナ状態に入るとそれがより遅くなります。

現代の若者はPVを観るのが大好きです。しかし、そこではリズムがあまりにも速いので、我々の世代の人間はついていけません。ギリシャの大詩人ホメロスはとても長い詩を書いています。ロシアの女詩人アンナアフマートワがホメロスの詩について「なんと愛すべき長さ」と言いました。こうした長い詩であれば、読む者にとってはその間に少しリラックスをして、じっくりと考える時間があります。

映画における話をしましょう。例えば、二時間の作品があります。それを早回しにして一時間に縮めたとする。そうすると何もかもが失われます。かつて私の作品がベルリンで上映されたとき、1秒間に25コマの映写機が使われていました。それを知らなかった私は、自分の作品が1時間45分だと思って散歩に出かけていました。ちょうど終わったと思った時間に戻ってみると、すでに作品の上映は終わっていました。24コマの作品を25コマで回したので映画は短くなり6分早く終わっていたのです。その際にようやく私はリズムとは何なのかを理解しました。

映写機のスピードはアメリカのヘルツで決まっています。映写機は48ヘルツです。したがってスピードは1秒で24コマということになります。ところがヨーロッパで一般的に流通しているのは50ヘルツです。なので、私は映画を1秒に25コマで撮ることに決めました。24コマというアメリカのシステムによって押し付けられていたものよりも6分だけ長くなるわけです。私にとっては困った事態でした。今わたしはどのようなスピードで映画を撮ればいいのかわからない状態です。

ヘルツによって変わるのは映画の長さだけではなく、音のトーンも変わります。「ラ」の音に例えていうと、「ラ」がシャープになるのです。セリフだけでなく音楽もノイズも全て1トーンあがります。それが問題です。

『汽車はふたたび故郷へ』
原題:CHANTRAPAS

2012年2月18日(土)より岩波ホールほか全国順次ロードショー

監督・脚本:オタール・イオセリアーニ
撮影:ライオネル・カズン(グルジア)、ジュリー・グルンバウム(フランス)
美術:マニュ・ド・ショヴィニ
音楽:ジャルジ・バランチヴァゼ
出演:ダト・タリエラシヴィリ、ビュル・オジェ、ピエール・エテックス

2010年/フランス、グルジア/ドルビーデジタル/126分
配給:ビターズ・エンド

© 2010 Pierre Grise Production

『汽車はふたたび故郷へ』
オフィシャルサイト
http://bitters.co.jp/kisha/


オタール・イオセリアーニ映画祭2012

レクチャー:
オタール・イオセリアーニ監督
マスタークラス
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