OUTSIDE IN TOKYO
Mike Mills INTERVIEW

マイク・ミルズ『人生はビギナーズ』インタヴュー

2. 父が75歳でカミングアウトし、そうする勇気を持ち、
 全てのリスクを冒す覚悟ができた時、彼はあらゆる意味で生き返った

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Q:クリストファーは自分の洋服を持ちこんだとか。
MM:クリストファーが持ってきたものほとんどなかったと思う。でもひとつおかしなことがあるよ。父は生前、よく首にチーフを巻いていたんだけど、クリストファーも実生活で同じように(チーフを)身につけているんだ。おもしろい偶然だよね。だから映画で巻いているチーフはクリストファーのものもあれば、彼のものとよく似た(買った)ものだったと思う。実際のディテールで僕が覚えているのはそれくらいかな。

Q:では、彼が映画で身につけていた衣装はあなたの父親の洋服だったわけではないんですね。
MM:うん、そうではないね。洋服は買ったものや借り物だ。

Q:ゴールデングローブ賞にクリストファーがノミネートされましたが。
MM:受賞レースで言えば、僕らが一番楽しかったのは、ニューヨークのゴッサム(インディペンデント映画)賞で、『ツリー・オブ・ライフ』とタイで、アンサンブル演技賞と作品賞をもらって、その時はクリストファーも一緒に出てくれた。受賞できるとは思っていなかったから2人ともすごく驚いて、とても感動的な時間だった。クリストファーは本物のジェントルマンで、過去のヒーローのような紳士を地で行く人だけど、何の準備もしてなかったのに手慣れていて、ステージに上ると、身内やスタッフに感謝の意を示すのも忘れず、本当に昔のジェントルマンそのものだった。オスカーに関しては、どうなるかなんて分からない。僕にはそれがどういう意味を持つのかもよく分からないしね(笑)。

Q:オリバーとアンナは似た者同士ですね。2人をそう描いた理由は何ですか。
MM:え、似てるかな?まあ、似ているとすれば、2人の恋愛体験だろうね。2人は多くの別れを経験し、2人の前でいくつも愛が崩壊してきた。それぞれがそんなことを経験してきた。それが互いに引き寄せられた理由のひとつだと思う。実生活でもそういうことはあると思う。誰かに魅力を感じ、意識がそれをどう分かるのかも分からないんだけど、どういうわけか分かるものなんだよね。とても深い方法で自分にチャレンジを投げ、互いに似ているかもしれないがために、同じ問題を経験してきた可能性はある。僕はそんなことが起きるのを実際に何度も見てきたよ。おもしろいのは、互いにそれを経験していれば、「自分と似ているから互いに理解し合える」んだと思えること。でもそれは同時に2人を別れへ導く理由にもなる。これまでも人と別れてきたわけだから、結局2人も別れてしまうのだろうって思うんだ。

Q:2人の恋愛が平行して進んでいき、老いを迎える父の姿を見ることで、自分の人生の送り方についても考えさせられる。我々は現在、たくさんの年配者がいる社会で暮らしていて、日本では特にそうですが、もっと考えていかなければいけない問題が増えていく一方です。私たちはどうしたら人生の後半をより幸福で楽しいものにしていけるのでしょう。
MM:(笑)僕は映画監督に過ぎないから、それは全く分かりません。でも僕の実際の父が教えてくれたのは、“僕の母”が亡くなった後、彼は死んだように見えた。そのまま萎んでしまい、ゆっくりと壊れ、どんどん小さくなっていくように。でも彼が75歳でカミングアウトし、そうする勇気を持ち、全てのリスクを冒す覚悟ができた時、彼はあらゆる意味で生き返ったんだ。彼は急に4歳児くらいのように活き活きとし、エネルギーに満ちあふれているように感じた。スピリチュアルな意味でもエネルギー的にも常に力に満ち溢れ、とても活き活きしてワイルドで若さに溢れていた。75歳から78歳の父親がどれだけ若返ったかを目の当たりにするのはすごい驚きだった。まるで僕より若いんじゃないかって。僕よりずっとワイルドで。年齢に対する概念や、年齢がどれだけ僕らを制限しているか、また歳を重ねることでどんどん気弱になっていくと言われることが必ずしも真実ではないことを知る。僕の知る限り、彼は最もパワーのあるワイルドな老人で、癌を抱えていてもそれを患う人には全く見えなかった。

Q:あなたは最初、クリストファーとメラニーに手紙を書いたようですが、それはなぜ手紙だったのでしょう。
MM:それが最低限、礼儀正しいと思ったから、かな(笑)。これから一緒に長い旅をしていこうとする人に脚本を送るわけだから、まずは自己紹介をしなければいけないでしょ?自分の考えを説明しながら、なぜ彼らがその役に完璧でふさわしいかも伝えなければならない。正直に言うと、たぶんほとんどの監督が手紙を書いていると思うよ。知り合いではない俳優に脚本を送る場合。監督である自分がパーソナルに曝け出せる限りしか俳優もパーソナルになってくれないと思うんだ。だから本当に深く入ってほしいと思っているなら、まずは自分を曝け出して、開かなければいけないと思う。この映画の場合は特にそれを俳優に伝えることが大事だった。それに、父や僕のマネをする必要がないことも知っておいてほしかった。それが仕事の目標ではなく、「クリストファー、ユアン、メラニー、君たちが観客がリアルに感じるように表現すること」が大事だということをまず伝えたかった。でも、基本的に礼儀正しいことだと思う。


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