OUTSIDE IN TOKYO
TETSUYA MARIKO INTERVIEW

真利子哲也『NINIFUNI』インタヴュー

3. 轟音、そして、寡黙なキャメラマン月永雄大が捉えた“スカイ”

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OIT:今回、拝見して、映画の作り的に、“音”が今までの真利子さんの作品よりも進化したのかなって印象をうけたのですが、“音”の使い方について、そういう意識をしましたか?
真利子:はい。初めから、今作では一番大事にするのが風景と主演とアイドルグループだと決めてたんで、その一つの風景っていうのを何回もロケハンして品定めというか選んでいったんですけど、自分が初めてシナハン行った時に雨が降って、立ち並ぶ鉄塔に張り巡らされた電線と工場の煙がもくもくしているイメージが強く残ったので、風景っていうのがまず念頭にあって、撮影当日に同じ天候に恵まれなくても台詞のない題材である以上、そういうようなことを表現しなきゃいけないって時に、録音の高田さんには常々音で表現したいってことは伝えて、結果的に音が一番出たかな。

OIT:結構、轟音ですよね。映画始まってすぐ、凄い轟音だなと思いました。
真利子:もう本当にこれは思いでしかないんですけど、初めてシナハンいった時にずっと東京で育ってきて、ああいった場所に行った時に車が走ってる音が印象に残ったんですよ。長い国道を勢いよく車が走ってきて、通過するとすぐにまた静かになるっていうのが取り残されていくような気持ちになる。その印象が残っていて、しかも彼が住んでいた場所から事件が起きた場所までほぼ一本の国道で到達できる。ロケハンで色々と検討しましたが、結果的にはその国道で撮影したんです。だから国道の映画っていうところがあって、そこで走ってる車の音っていうのを強烈に残したいなと。主人公の動きとしてはその国道を右往左往するっていうのが何度もあるんです。そういうアプローチの仕方にしました。

OIT:国道の一本道が出てきて、あと逆行の光とか、アメリカン・ニューシネマの感じもちょっとあったんですけど、佐向大さんや冨永昌敬さんの作品のキャメラマン、月永さんとはどうのように知り合ったのですか?
(※この時点では、青山真治監督の『東京公園』を観れておらず、その点に触れることができなかったのが不覚です。)
真利子:西ヶ谷さんが月永さんとはお仕事することが多くて、初めて会ったのは冨永さんのデビュー作『パビリオン山椒魚』の時で、僕はメイキングで入ってて、その時に一緒に仕事をしたっていうのが初めですね。立場上、その時は話すことも少なかったのですけど。

OIT:『イエローキッド』の時は…
真利子:青木穣です。

OIT:ですよね。主人公と背が同じくらいのキャメラマンにあえてした、あえてしたというかそれは偶然だったかもしれないけど良かったっていうようなことを以前仰っていたと思うんですけど、今回はどうでした?
真利子:今回は企画的なこともありますが、個人的にも藝大を卒業して初めての映画なので、出来る限り藝大の生徒を使わない、生徒っていうか今までの仲間っていうのに頼らないで、現場のスタッフを組みたいなっていう個人的な思いがあったので、西ヶ谷さんに声かけてもらったんです。

OIT:そうなんですか。
真利子:『イエローキッド』の時はかなり話しこんで作っていったんですけど、今回は胸を借りるつもりでやりました。家が近いので何度か話にも行きましたけど。

OIT:絵コンテはあったんですか?
真利子:ないです。

OIT:じゃ、脚本があって、あとはその場で演出したと。
真利子:はい、そうです。ただ凄く車のシーンが多かったので、想定できることも限られたものではあったんですけど。

西宮:監督が、ロケ地が決まらないと脚本が書けないというので、まずシナハンをして、アウトラインを書いて、ロケハンをして、ロケ地を決めてから撮影稿を書くという流れでした。

西ヶ谷:iPad上に絵コンテみたいなのを切り貼りで並べて、意外に繊細なことやってんだなって思いました。

OIT:デジカメとかで撮った写真をストーリーボード的に並べると。
真利子:ロケハン行ってどういう風にそれをやろうかっていうことは、自分でやってました。イメージだとしてもスタッフに説明しなくちゃいけないので。

OIT:写真からイメージする監督さんも結構いらっしゃいますよね。ホセ・ルイス・ゲリン監督(『シルビアのいる街で』)は、1枚の写真から発想をスタートさせるって言ってました。
真利子:そうなんですか。『シルビアのいる街で』は脚本段階で話題に上がりました。元々がシナハンの時のイメージが大きかったというのもありますが、セリフがないから何をやるべきかっていうのが説明できないこともあったので、参考にする映画をイメージとしてスタッフと共有することは多かったですね。

OIT:今回、撮影の期間はどれくらいでしたか?
真利子:4日です。

OIT:何とかなったという感じですか?
真利子:そうですね、大分撮りこぼしましたけどね、何とかなりました。

西ヶ谷:きわどかったのは、結構“スカイ”って言いまして日没前後の画を、ト書きに書きまくっていたことです。当たり前のことですが、日没は一日に一回しかないので、複数のシーンで“スカイ”があると、本来だったら一週間くらいでやらなきゃいけないとこなんですけど、そこを月永君に無理いって頑張ってもらいました。
真利子:スカイ狙いが多かったですね。


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