OUTSIDE IN TOKYO
KALTRINA KRASNIQI INTERVIEW

全編沖縄でロケーション撮影された『遠いところ』は、十代で子どもの親になった主人公アオイ(花瀬琴音)が、同じように幼く、暴力で感情を表現するしか術を持たない夫ケンゴ(佐久間祥郎)、頼れない親、若さを搾取する大人達といった過酷の環境の中で、親友の女子ミオ(石田夢実)とも溝が出来ていき、貧困と暴力の連鎖の渦に巻き込まれていく。それでもアオイは我が子と共に、なりふり構わず、必死に"今、ここ"を生きていく、沖縄のもう一つの現実を描いた力強いリアリズム映画である。

『遠いところ』が沖縄で先行上映されてスマッシュヒットを放ったというニュースを聞いたのは、この映画を試写で見た直後のことだったが、誰よりもその事実にホッと胸をなでおろしたのは、本作の監督、工藤将亮、その人自身だったに違いない。京都で生まれ育ったという工藤監督が、なぜ、どのようにして、沖縄の過酷な現実を題材にしたこの映画を撮るに至ったのか、その経緯からお話を伺った。

1. 映画を通じて沖縄と出会った

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OUTSIDE IN TOKYO(以降OIT):監督の作品を初めて拝見したのですが、沖縄の現実をリアルに描いていて、中々見るのも辛いような場面もあるのですが、勇気のある、とても力強い作品だと思いました。監督は京都ご出身で、今まで様々な商業映画の現場で経験を積まれてきたわけですが、今なぜ沖縄を題材とした映画を、自ら脚本を書いて描こうとされたのか、教えて頂けますでしょうか?
工藤将亮:沖縄に興味を持つきっかけになったのは、僕が東陽一監督の助監督をやっていた時に、東さんが随分前に沖縄で撮られていたドキュメンタリーを(『沖縄列島』1969)、東組の勉強で見始めたのが最初でした。学校がドキュメンタリーの映画学校で、先生方も沖縄でよく撮っていたので、沖縄を舞台にした映画は他にも好きな作品は沢山あるのですが、真剣に沖縄のことを考え出したのは、ジャン・ユンカーマン監督の『老人と海』(1990)をみた頃ですかね、やはり内地と沖縄の違いというのを認識し始めて、その頃から沖縄についてのノンフィクションの本やルポルタージュを好きで読むようになりました。そうしたものが強烈に頭の中に印象として残っていて、そこから自分が企画を考えた時に、こうした沖縄の若年母子を題材にした作品に結実してきたという次第です。

OIT:その後、実際に工藤監督が実際に沖縄に行かれたのは、いつ頃のことですか?
工藤将亮:僕が実際に沖縄に行って取材を始めたのが2019年のことです。僕は以前、シグロという制作会社で、東陽一監督の助監督として働いていました。そこで昔東監督が沖縄のドキュメンタリーを撮っていて、ジャン・ユンカーマン監督という偉大な方もそこにいて、それで見始めたら止まらなくなっちゃいました。今まで自分は沖縄のことを全然知らなかったんだと思いましたし、そこから沖縄の歴史を勉強し始めました。最初は映画がきっかけで、その後、ノンフィクションとかルポルタージュを貪るように読み始めたのが、2014年とか2015年のことでした。

OIT:実際に沖縄で何かを体験したということよりも、きっかけは、映画だったということなんですね。
工藤将亮:そうですね、他にも『パラダイスビュー』(1985)とか、僕が学生の頃、高嶺剛監督のカメラマンをやっていた方(東司丘宇天(としおかたかお))が僕らの担任だったので、その辺の作品も見てはいたのですが、強烈に印象に残ったのは東監督とジャン監督のドキュメンタリーでした。座・高円寺のドキュメンタリーフェスティバルでも、すごく古い映画なんですけど、『沖縄エロス外伝 モトシンカカランヌー』(1971/NDU)とか、貪るように見てました。本当に根こそぎ見ているという感じでした。

OIT:何にそれほど惹かれたんでしょう?
工藤将亮:同じ“日本”とされているところなのに全然違いますよね。そもそも僕は、映画を見るまで、沖縄が50年前まではアメリカに占領されていたということすら知らなかったんです。パスポートがなければ、本国と出入り出来ないとか、台湾とは国交があってボートで移民がたくさん入ってたりとか、そうしたことも全く知りませんでした。それで映画を見て、“南国”のイメージが覆ったというか、知らないことを知ったと言いますか。どんどん勉強していくようになりました。


『遠いところ』

ヒューマントラストシネマ 渋谷他、全国順次公開中

監督・脚本:⼯藤 将亮
エグゼクティブプロデューサー:古賀俊輔
プロデューサー:キタガワユウキ
アソシエイトプロデューサー:仲宗根久乃
共同脚本:鈴木茉美
撮影:杉村高之
照明:野村直樹
サウンドデザイン:Keefar、伊藤裕規
美術:小林蘭
音楽:茂野雅道
主題歌:唾奇
出演:花瀬琴⾳、⽯⽥夢実、佐久間祥朗、⻑⾕川⽉起/松岡依都美

2022年/カラー/ヨーロピアンビスタ/5.1ch/128分
配給:ラビットハウス

© 2022「遠いところ」フィルムパートナーズ

『遠いところ』
オフィシャルサイト
https://afarshore.jp
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