OUTSIDE IN TOKYO
KALTRINA KRASNIQI INTERVIEW

工藤将亮『遠いところ』インタヴュー

2. 沖縄の自然も美しいんですけど、一生懸命生きている彼女たちの美しさに強烈に惹かれている、
 魅せられている

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OIT:今回のこの企画はどのように実現したのでしょうか?
工藤将亮:ある映画祭でプロデューサーのキタガワ(ユウキ)さんと出会ったんです。そこがスタートです。キタガワさんとは同じ歳ということもあって、すっかり意気投合して、お互いに次は何をやろうかという話をしていく中で、この企画の話に自然になっていきました。その時のことをキタガワさんが覚えていてくれて、後で改めて話をしたら、いいですねって言ってくれた。でもそこから、内地に住む僕たちが、沖縄に入っていて、本当にこういう題材のものを映画にして良いのか?っていう議論や、自問自答をかなりやって、企画書やプロットを何度も書き直しました。2018年位までは、そうした作業をやっていました。そこで、いよいよプロデューサーのキタガワさんが決断してくれて、沖縄那覇育ちの仲宗根(久乃)さんというプロデューサーの方がついてくれることになって、お金も何もなかったんですけど、3人で取材を始めたという感じでした。

OIT:物語は、主人公少女の受難の物語といいますか、夫は仕事もしない暴力夫で、社会的差別構造のある中で、ほとんどシングルマザーのような状態で、孤軍奮闘で子どもを育てなければならないというお話ですけれども、なぜこのような物語になったのでしょうか?
工藤将亮:まずは辺野古に住み込みで取材を始めました。沖縄の歴史と風土をちゃんと知ることから始めたいと思ったんです。この土地で一体、どういうことが行われてきたのかということですね。その上で、キャバクラとかで実際に働いている女の子たちと出会って、そこで彼女たちと話をさせてもらったり、取材をさせてもらい、さまざまなエピソードを聞かせてもらいました。そして、僕が色々なエピソードを紡いでいく中で、例えば、児童相談所に行ったり、養護施設に行ったりして、さらに色々なお話を聞かせて頂きました。そうしたものが、僕の中で自然に1本の物語に紡がれていったというのが実際のところで、何か特別な狙いがあったとか、そういうことではないんです。でもなんで、このストーリーなのかといえば、その核となる部分は、自分も彼女(主人公のアオイ)と似たような環境にいたということなんです。だから、皆さんがこの映画を見て受ける印象以上に、僕は彼女が可哀想だとは全然思わないんです。自分もこういう感じだったので。すごく個人的なことですけど。僕には映画があって今がありますが、彼女たちにはなぜそういうものがないのか、ってことが途中で見えてきたりした。じゃあ、沖縄にはどういう特異性があるのだろうか——とか、それってどうしようもないよね、っていう現状にぶつかったりしていく中で、性別も生まれも違うけれど、やっぱり似たような環境で育った人間として、自分ができることってなんだろうって思えたんです。僕はそういうものに常に興味があって、可哀想だとか悲惨だとかいう目線ではなくて、家族や友達の一つのストーリーという風に感じています。取材に応じてくれた女の子たちとは今でも仲が良くて、出来上がった映画も見に来てくれました。僕としては、多分、目線が彼女たちと同じなのかなと思います。語弊があるかもしれませんけど、彼女たちの一生懸命生きている感じが、とても綺麗なんですよね。沖縄の自然も美しいんですけど、その彼女たちの美しさに強烈に惹かれている、魅せられているというのが本音です。

OIT:シンパシーを感じるというのは、監督の育たれた環境と似ているということですか?
工藤将亮:そうです。親から暴力も振るわれていましたし、母も途中からシングルになりましたけど、世の中にはよくある話だと思うんです。おばあちゃんに育てられましたけど、祖母は女手一つで、母親たち3姉妹たちや僕を育ててくれた。だから全然、学術的に調査したとか、そういうレベルの話ではなくて、自分のことを探しに行く感じですよね。

OIT:そうすると、もうこの映画は自分が作るしかない、と思うような企画だったわけですか?
工藤将亮:そんなことも考えてなかったです。何でこれを作るのか?っていうことはもちろん考えましたけど。ただ作るんだっていう一心のみでした。どこかから資本が入ってきたというわけでもないので、本当に無茶なことしてるなって思うんですけど、熱意で色々とやっていく内に、スタッフとかキャストがどんどん集まってきた。この映画を一緒に作ってくれたチームっていうのは、僕のこの思いを一緒になって感じてくれていた人たちだったなって思います。

OIT:この作品で面白いなって思ったのは、メインの役柄は新人の方々が演じていますが、脇役で、尚玄さんやカトウシンスケさん、宇野祥平さん、中島歩さんといったインディーズ映画界隈で良く知られた俳優さんたちが、いい感じで“悪役”を演じてるんですよね。この辺の方々は、元々監督の知り合いだったりするのですか?
工藤将亮:宇野さんは違いますが、元々知り合いだった人もいます。新人の主人公達には台本を事前に見せないって決めていて、当日か前日に台本を渡していたんですけど、アオイを演じた彼女(花瀬琴音)は出来るだけリアクションに徹しているんです。外からのアクションに対するリアクションですね。そうした時に、やっぱり、台本をしっかり理解した上で色々なアクシデントや不測の事態、困難な所に一緒に立ち向かってくださる人という意味で、力強い俳優さんたちの存在を必要としていたので、役をお願いしました。やっぱりインディーズですから、こういった作品の趣旨や姿勢に賛同してくださって、いいじゃない、ってことで引き受けてくださる方に一からお願いしたいという方針で動いていました。


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