OUTSIDE IN TOKYO
KUROSAWA KIYOSHI INTERVIEW

小森はるか『息の跡』インタヴュー

3. 佐藤さんが、パフォーマンスをしてくれるようになっていった

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OIT:映画の中で、佐藤さんとの関係性が段々と出来て行くさまがカメラを通じて見えてくる訳ですが、急にあのような関係が出来るものではないですね。その辺は、どういう風に出来ていったのでしょうか?
小森はるか:基本的に、佐藤さんの方から撮ってほしいっていうのはないんです。撮影に応じてくれてるっていう状態が続いていたんですけど、ある時、店の外に出て行くじゃないですか、「たね屋の仕事、よく見ておけよ」って言って。色々連れて行ってくれ始めた辺りから変わったな、と思います。佐藤さんの方から、これを撮っておいた方がいいぞっていう意志を持ってくれ始めたのが、多分あの頃からなんです。私がいてもいなくても、やってることはあんまり変わらないんですよ。朗読も毎日やってるし。

OIT:見せるためにやってる訳じゃなくて。
小森はるか:朗読は毎日、朝と晩の日課なんです。

OIT:やってるのを勝手に撮ったと。
小森はるか:勝手に撮らせてくれる人だったんです、お客さんが来ても、カメラの前と同じように話されています。お客さんって言っても、お店のお客さんじゃなくて、本を買いに来るようなちょっと変わったお客さんで、結構いらっしゃるんですけど、そういう人には手記を読んで聞かせてくれる。それは、私がカメラを持ってたから起きたことではなかったんですね。そうじゃなくて、佐藤さんが自分から映像に写したいものを見せてくれるように変わった。店が無くなる日が近づいてきたのも、大きなきっかけだったと思うんですけど、あの冬の辺りから、佐藤さんの方から「次いつ撮りに来るんですか」と聞いてくれるようにもなりました。

OIT:積極的に映画作りに参加してくださったと。
小森はるか:それが嬉しかったです。いつかそうなったらいいなと思っていたので。

OIT:冬の辺りっていうのは、車で、山の方に肥料を持って行く辺りですか?
小森はるか:そうです、あと杉の木の標高を測ったりとか。

OIT:木の高さを計測する、その正確さに対するこだわりとか、最初は見えなかった佐藤さんのそういう部分がどんどん見えてくる訳ですね。それは思いも寄らない展開だったんですか?
小森はるか:あの場面を撮影する前から、会話のなかでそういう性格の方だということは感じていました。発明した栽培技術の特許を取るのとかもそうだったと思うんですけど、ちゃんと調査をして、仮説を立てて、物事を見る、そうやって技術を身につけていく方だった。その現場をパフォーマンスしてくれるとは思っていなかったですけど。

OIT:パフォーマンスっていうのは?
小森はるか:佐藤さんが木の年輪を測ってるんですけど、すでに何度も測ってるからあの場で測る必要はなかったんですよ。データは計算済みで、それは本にも書かれているから知ってたんです。だけど測ってる様子を撮影のために見せてくれたんです。

OIT:佐藤さんのリテラシーが撮影をしている内に上がってきたと。
小森はるか:(最初は)記録したいって言って付いてくる学生に付き合ってくれてたという部分もあると思うんです。だけど、佐藤さん自身もカメラに記録されることを利用してくれるようになっているんじゃないかと感じました。それもわたしにとっては、すごくありがたいことでした。

OIT:それはちょっと分からなかったですね、もっと素朴なのかと(笑)。
小森はるか:素朴さもあると思うんですけど、本人はそれほど意図的ではなくて、多分撮影していくうちにそうなっていっただけだと思うんですけど。



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