OUTSIDE IN TOKYO
AHARON KESHALES & NAVOT PAPUSHADO INTERVIEW

少女を殺害した容疑でひとりの男が取り調べを受けているのだが、その取り調べの仕方が尋常ではない。刑事たちは容疑者に殴る蹴るの暴行を働き、分厚い電話帳で男の顔面を強かに殴りつける。しかし、この拷問シーンは、『ゼロ・ダーク・サーティ』(12)や『シリアナ』(05)のそれに比べれば左程真に迫ったものではない。『オオカミは嘘をつく』は、リアリズムの映画というよりは、寓話的なホラーであり、スリラーであり、ブラックコメディの要素も入ったジャンル映画なのだ。だからといって、この映画をスルーすることなど到底出来なかったのは、容疑者に罪を自白させるという”大義”のもと、一方的に暴力をふるう刑事たちが暗喩しているのは、イスラエル国家、そのものの姿であるからだ。そんな秀逸なおとなの寓話を作り上げた監督コンビ、アハロン・ケシャレスとナヴォット・パプシャドのお二人に、まずはイスラエルでこの映画がどのように受けとめられたのかを聞いてみた。

1. イスラエルの観客は秘めたメッセージを鋭く捉えてくれたと思う
 (ナヴォット・パプシャド)

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OUTSIDE IN TOKYO(以降OIT):リアリズムの映画というよりはある種、寓話的なホラーであり、スリラーであり、ブラックコメディの要素も入ったジャンル映画といえるかと思いますが、この映画はイスラエルではどのように受け止められたのでしょうか?
アハロン・ケシャレス:感触はとても良かったです。実際イスラエル人は、この手の映画を得意としません。アメリカ、日本、韓国などのホラー映画が上映されていますが、成功したためしがありません。怖いものを大スクリーンで見るのが嫌なのです。ですが驚くことに、この映画は違いました。ヒットを記録した映画のひとつになりましたし、イスラエルのアカデミー賞を5つも受賞しました。
3ヶ月間好批評のトップを飾り、批評家連盟からも賞を貰いました。もてはやされ、賞賛され、何ヶ月も愉しんでもらいましたが、この成功は予想していませんでした。複雑なおとぎ話的な映画ですから、誰も観てくれないのではと思っていました。嬉しかったですね。
OIT:この映画には今(2014年10月10日現在)パレスチナで行われている暴力の連鎖への批判が隠されているかと思うのですが、イスラエルの観客もそういったメッセージというか、気配を感じ取ったと思われますか?
ナヴォット・パプシャド:確実に解ってくれました。非常に知的な観客ですから。ジャンル映画や技法的なことについては知らないことも多いでしょうが、このフィルムの根底に流れるメッセージへのヒントや鍵をそこかしこに散らした撮り方については理解してくれていました。確かにイスラエルの映画は直接的です。“紛争”について描くと、それ一辺倒になります。かなり政治的になることもあるし、ドラマ的なアプローチを取ることもあります。ですが、この映画は違うアプローチをとりました。ジャンル映画ですから、楽しく、また暴力的で、観賞後に対話を生み出す程度に挑発的であるというエンターテイメントの側面を満たさなければならない。ですから、メッセージを秘めるという、より困難な撮影方法を選びました。イスラエルの観客はそれを鋭く捉えてくれたと思います。

『オオカミは嘘をつく』
原題:Big Bad Wolves

11月22日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー

監督・脚本:アハロン・ケシャレス、ナヴォット・パプシャド
製作:ヒリック・ミハエリ、アヴラハム・ピルヒ、タミ・レオン、モシェ・エデリー、レオン・エデリー
撮影:ジオラ・ビヤック
編集:アサフ・コルマン
音楽:フランク・ハイーム・イルフマン
出演:リオル・アシュケナージ、ツァヒ・グラッド、ロテム・ケイナン、ドヴ・グリックマン、メナシェ・ノイ、ドゥヴィール・ベネデック、カイス・ナシェフ、ナティ・クルーゲル

© 2013 Catch BBW the Film, Limited Partnership. All Rights Reserved.

2013年/イスラエル/110分/スコープサイズ/5.1ch/カラー
配給:ショウゲート

『オオカミは嘘をつく』
オフィシャルサイト
http://www.bigbadwolves.jp
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