OUTSIDE IN TOKYO
Francis Ford Coppola Interview

フランシス・フォード・コッポラ。20代ともなれば、その名前を知らない人は意外と多いが、そこにいちいち驚いてもいられない。それが現実だ。『ゴッドファーザー』の三部作くらいはDVDやテレビで見ていても、72年の1作目から『ゴッドファーザー3』が1990年ということを考えた上で、パート1、パート2に興奮した同じ人たちがそれだけ間隔が開いてもいそいそと映画館に足を運んだことはなかなか理解できないかもしれない。『ワン・フロム・ザ・ハート』(82)『アウトサイダー』(83)なども巨匠と認知されるほどの良い映画だが、傑作と謳われた『地獄の黙示録』が79年ともなれば、やはり“過去の巨匠”と思われても仕方ないのか。92年の『ドラキュラ』まではコッポラ映画というだけで映画館に通った者たちも、97年の『レインメーカー』の興行的な失敗以降(またDVD時代と共に)、非情にも従順な観客の足も遠のいていったのかもしれない。それ以降はプロデューサーとして彼の名前を目にするようになる。だが2007年の『コッポラの胡蝶の夢』からコッポラが復活の“あがき”を見せ始めたように見えた。時代を越えた大作系のイメージから小さな物語へ戻ることで。そしてアルゼンチンが舞台(主演はヴィンセント・ギャロ)の『テトロ 過去を殺した男』(09)で、彼が初期の『カンバセーション…盗聴…』(74)で見せたような、本当に小さな物語を描くことで、キャリアの初期に映画に向けていたエネルギーを取り戻そうとしているのがひしひしと感じられた。そして今回の『Virginia/ヴァージニア』だ。峠を過ぎたミステリー作家が売れない本のブックツアーで田舎を廻り、そこで怪しい保安官から町のホテルで起きた凄惨な殺人事件について聞かされ、美しい少女と、作家エドガー・アラン・ポーの亡霊と出会うという物語。物語を牽引するナレーターにはトム・ウェイツ、売れない作家にはヴァル・キルマー、謎の美少女にはエル・ファニング。怪しげな湖の対岸のバイクギャングなど、夢の美しい幻想世界と現実の滑稽さとの間を巧みに行き来する。『コッポラの胡蝶の夢』(07)はルーマニアのミルチャ・エリアーデの作品がソースで、『テトロ~』は主人公が作家、そしてポーとくれば、コッポラの文学への傾倒も無視できない。

そこでぜひインタビューを、となったわけだが、僕自身は他媒体の取材の通訳も引き受けることになったので、(時間も限られていたし)同じ質問ばかりでは気の毒なのもあり、『Virginia/ヴァージニア』に関しては他の記事を参照してもらう方がいいだろうと判断した。大事なのは、彼が最近の小さな作品を三部作と考えていること。つまり、自分の映画作りを取り戻すための習作、とは言わないまでも、修行期間と捉えていることだ。彼はこれらのほとんどを自己資金で賄っていると話している。彼の妻が参加する映画製作会社だけでなく、言わずとしれたナパ・バレーのワイン・ビジネス、文芸誌ZEOTROPEなどの資本で賄っている。だがそれは、規模は違っても、ロジャー・コーマンの助手として映画界への足がかりを得て撮った『ディメンシャ13』(63)から、前代未聞の資金難に陥っても完成させた『地獄の黙示録』など、資金を独自のパワーで調達してきた彼ならではの方法として有効だ。投資家やハリウッドのスタジオの誰にもおもねることなどないのだから。またこの三部作を繋いでいるのは夢だ。『~胡蝶の夢』はギリシャのお酒を飲んだ時の幻惑で見た夢から、今回は実際にエドガー・アラン・ポーが夢に出てきて語り始めたという。

だがこのままより研ぎ澄まされた、誰にも邪魔されない作品を撮っていくのかと思えば、彼はまた新しい方向に進み出したようだ。というわけで、ここでは彼の映画の初期衝動から聞いてみた。

1. 映画作りというのは、ほとんど問題解決のプロセスでしかない。
 ほとんどの楽しさは、最初の段階にするリサーチと脚本を書く作業にある

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OUTSIDE IN TOKYO(以降OIT):そもそも映画作家になりたいと早くから考えていたというその最初の衝動を教えてもらえますか?そして現在に至る状況にどう繋がっているのでしょう?
Francis Ford Coppola(以降FFC):まず、私は若い頃、演劇の勉強をする学生だった。芝居をやったり、あと子供たちのためのサマーキャンプの管理人なんかをしていた。それで演劇でやっていきたい、劇作家になりたいと思っていた。それで演劇の勉強をしたいと思い、演劇の学部がとてもいい学校(ホフストラ大学)があるということでそこへ進んだんだ。でもその間も、テクニカルなこともやっていた。照明や舞台周りの手伝いもしながら、自分なりに一生懸命、芝居を書いていたんだけど、自分でもとてもひどいものだと思って、そのうちより演出の方に行くようになった。やっぱり自分の戯曲がよくないと思ったから。でもある時点までは演劇で大学院に進もうと考えていたんだけど、ある日、エイゼンシュタインの映画を見て。

OIT:それはいつのこと?
FFC:その年の10月だったかな。それで進路を映画学校(カリフォルニア大学ロサンゼルス校/UCLA)に変えて、映画作家になろうと思ったんだ。

OIT:そこまでいいと思った映画作りの楽しさはあなたにとってどこにあるのですか?
FFC:皆無さ。仕事は大変だし、環境は劣悪だし、いつも問題に見舞われるし、なんとかその日を乗り越えられることを祈るような状況が続くんだ。あるとすれば、ほとんどの楽しさは、最初の段階にするリサーチと脚本を書く作業だな。

OIT:映画を撮るプロセスよりも、脚本を書いたりするプロセスの方が楽しめるということですか?
FFC:映画作りというのは、ほとんど問題解決のプロセスでしかないんだ。

OIT:では、そこまでして撮る喜びはどこにあるの?
FFC:喜びはどこかって?美しいメディアだし、そこで働けることは特権であり、学ぶことがたくさんある。喜びは、ごくたまに、自分がいいと思えること、美しいと思うことが達成できた時だね。


『Virginia/ヴァージニア』

8月11日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次ロードショー

監督・製作・脚本:フランシス・フォード・コッポラ
音楽:オズバルド・ゴリホフ
製作総指揮:アナヒド・ナザリアン、フレッド・ルース
出演:ヴァル・キルマー、エル・ファニング、ブルース・ダーン、ベン・チャップリン、トム・ウェイツ

(C)Zoetrope Corp.2011

2011年/アメリカ/89分/カラー/アメリカンビスタサイズ
配給:カルチュア・パブリッシャーズ

『Virginia/ヴァージニア』
オフィシャルサイト
http://virginia-movie.jp/
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