『第9地区』
今度のエイリアンは、地球侵略もせず、神のように未来を啓示するわけでもない。UFOが故障して行き場のなくなった"難民"である。このエイリアンと人間との混乱した関係性を極めて"現実的な社会問題"として見る側に突きつける新感覚のSF体験だ。
南アフリカ共和国、ヨハネスブルグに巨大な宇宙船が飛来。船内で弱り果てた姿で発見されたエイリアンたちが難民として隔離されてからおよそ20年が経った。エイリアン問題を管轄する多国籍機関MNUは、第9地区という都市部でスラム化した難民キャンプから、郊外の第10地区へと移住させる計画を立てる。
言うまでもなく、エイリアンとはアパルトヘイト政策下での黒人、あるいは被差別対象となるマイノリティのメタファーであろう(制作サイドはあまり意識をしていないと言うが)。人類(白人、権力者、マジョリティ)の目線で描かれるエイリアンは、無知で凶暴で、警察や地域住民との軋轢を生み出し、その歪な見た目から"エビ"などと蔑称で呼ばれる隔離し保護すべき"厄介者"である。
移住の強制執行の責任者を任されたMNUエージェントのヴィカス(シャルト・コプリー)は、言葉の通じないエイリアンから移住承認のサインを脅しすかして取り付けるが、その最中にウィルスに感染。体がエイリアン化をはじめる...。
人間ヴィカスは、バイオテクノロジーの好奇な研究対象として、あるいはエイリアンの仲間として、追われる "厄介者"となる。ここで見ているものの視座が180度転換する。孤独な逃避行をつづけるヴィカスは、地球脱出を密かに試みるエイリアンの親子に匿われ、互いに協力することになる。
最後には"エビ"などと蔑称されるほど生理的嫌悪感すら覚えるほどの異形のエイリアンに感情移入し、エイリアンの子どもの動きを微笑ましく見ている自分に気づき、思わず笑ってしまう。お見事。
第82回アカデミー賞で4部門(作品賞、脚色賞、視覚効果賞、編集賞)にノミネートされるのもうなずけるアイデアと気力のこもった新人監督の息吹を感じるこの作品は、新世代SF映画として印象に残る一作になるはず。
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『第9地区』
原題:DISTRICT 9
4月10日(土)より丸の内ピカデリーほか全国ロードショー!
監督:ニール・ブロムカンプ
脚本:ニール・ブロムカンプ、テリー・タッチェル
製作:ピーター・ジャクソン、キャロリン・カニンガム
共同製作:フィリッパ・ボウエン
製作総指揮:ビル・ブロック、ケン・カミンズ
共同製作総指揮:ポール・ハンソン、エリオット・ファーワーダ
撮影監督:トレント・オパロック
美術:フィリップ・アイヴィ
編集:ジュリアン・クラーク
音楽:クリントン・ショーター
音楽監修:ミッシェル・ベルチャー
出演:シャルト・コプリー、デヴィッド・ジェームズ、ジェイソン・コープ、ヴァネッサ・ハイウッド
2009年/アメリカ/111分/ビスタサイズ/ドルビーSRD+DTS+SDDS
配給:ワーナー・ブラザース映画、ギャガ
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