『ザ・フューチャー』

上原輝樹
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ミランダ・ジュライが演じる主人公ソフィーは30代の半ばを迎えている。同棲するジェイソン(ハミッシュ・リンクレイター)との平穏な生活も4年目に入ったある日、ふたりはケガをした猫"パウパウ"と出会う。「アノヒ、オオケガヲシタボクヲ、カレラハシェルターニハコンデクレタ」、"パウパウ"の奇妙にイコライズ処理された声に導かれるように、ふたりの生活がゆるやかに変化してゆく。ふたりは仕事を辞めて、ソフィーは"30日間で30ダンスを創作すること"を決意し、ジェイソンは"地球を守ろる"ために木を売り歩き始める。自らの意思で新たな一歩を歩み始めた二人に、やがて新たな出会いが訪れるだろう。

ソフィーは、<30日間で30ダンス>が思うようにはかどらず、"パウパウ"を持ち込んだ動物シェルターで出会った子連れの年上男性マーシャル(デヴィッド・ウォーショフスキー)との関係に無感情のままに引かれて行き、ジェイソンは木を売り歩く中でジョー(ジョー・パターリック)という老人に出会う。そこでジェイソンは、ジョーの妻との身の上話を聞かされるのだが、ジョーの言葉はまるでジェイソンとソフィーの未来を予見するかのようだった。「ふたりの間にはとてもひどい裏切りが起きる。しかし、それはふたりの本当の関係の、ほんの始まりにすぎないんだ。」

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主演・脚本・監督を務めたミランダ・ジュライは、脚本を執筆中に、フリーペーパーに広告を載せて中古品を売っている人たちを取材した"ペニーセイバー"という、映画とは無関係のプロジェクトで知り合ったジョー・パターリックという一般人のために、"ジョー"という役を書き上げる。"ジョー"はやがて、"パウパウ"と共に、物語の根幹を成す重要な構成要素にまで成長していくだろう。劇中の"ジョー"の台詞は、実際のジョー・パターリックが語ったものであり、そのジョーは、ジュライが映画を撮り終えた翌日に亡くなったという。そして、劇中において、ジョーは"月"の役として生まれ変わる。

ソフィーとジェイソンが、暮らす部屋の荒れ具合が、良くも悪くも低空飛行だったこと匂わせる4年間のふたりの生活ぶりをさらりと表現している。この半径3メートル以内のリアリズムから出発した本作は、"パウパウ"の愛すべき奇声に導かれて、ジュライ自身による、生々しくフェティッシュな魅力を放つ奇妙なダンスを誘発し、微妙に寸法が狂った人々の日常を描きながら、ジョン・ブライオンとビーチ・ハウス(「Master of None」)によるドリーミーな電子音を静寂の中に行き渡らせていくうちに、次第にSF的色調を帯びて行く。

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ジュライの奇妙な動きが、ゴダールの『アルファヴィル』(65)におけるレミー・コーション(エディ・コンスタンティーヌ)のぎこちない動きを連想させるのは、そのせいかもしれない。それは、ゴダールがSF映画というジャンル映画に対して感じていた"照れ"、もしくは"違和感"と同じものを、ミランダ・ジュライが"映画"に対して感じている、その表れのように見える。そうした既存のジャンル映画への"照れ"は、ジャン=クロード・ブリソーの『はじらい』(06)における、ポルノとSFの融合の試みの中で描かれた"宇宙との交信"と共鳴するかのようなジョン・ブライオンの音楽と"パウパウ"の声によって、豊かな色彩と感情を獲得し、日常生活レベルにおいて異界と接続しながら、持続可能な"わたしたちの未来"を考えたいというラディカルな彼女の思想までも素っ気ない素振りで示している。

結局、"未来"への萌芽は、わたしたちが生きてきた"過去"の中にしかないのかもしれない。だから、"未来は懐かしい"のであり、この世(現在)とあの世(過去+未来、そして異界)を行き来する途上の存在として降臨した、ジョーと"パウパウ"いう2つのメランコリックでマジカルな存在が、ミランダ・ジュライの"未来"には欠かせなかったのだろう。そうして、日常生活の中にマジックを見出し、創作に持ち込む、ミランダ・ジュライのカリフォルニア的楽天性は、やはりとても映画的魅力に満ち溢れている。

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レビュアーの評価:star.gifstar.gifstar.gifstar_half.gif


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Comment(1)

Posted by 猪木子 | 2014.04.15

変な映画が始まった(^_^;)

と、観るか?時間のムダか迷いながら・・・
触りだけ・・と観ていたら

奇妙な世界にどんどん引き込まれて行った


彼女の録画するあのダンス場面には
飲んでいたお茶を吹き出した

登場する全員が個性的なのも興味深かった

ゆっくりした世界の中で繰り広げられる彼らの日常生活を
観ている自分は癒されているようで・・
逆にとても残酷さも感じた


絵のモデルになっていた女の子が庭に穴を掘るシーンも
父親への不満からわざと無意味な事をしてるんだと
最初はウケていたけど

穴が大きくなっていた時は、誰を埋めるんだろう?
と不気味になってきた


猫が僕は二人を待ち続けるうちに死んでしまったと話す下りは涙が出てきた


全体的に無表情な人達が突拍子もない事をする展開で
なんだか不思議に面白い作品だった(^-^)

と吹き出した

『ザ・フューチャー』
原題:The Future

1月19日(土)より、シアター・イメージフォーラムにてロードショー
 
監督・脚本:ミランダ・ジュライ
製作:ジーナ・ウォン、ローマン・ポール、ジェルハルド・マイナー
製作総指揮:スー・ブルース・スミス
共同製作:クリス・スティンソン
撮影:ニコライ・フォン・グリーニヴェニッツ、エリオット・ホステッター
編集:アンドリュー・バード
音楽:ジョン・ブライオン
キャスティング:ジャンヌ・マキャシー&ニコル・アベレラ
衣装:クリスティ・ウィッテンボーン
メークアップ:サビーネ・シューマン
音楽スーパーバイザー:マーガレット・イェン
サウンドミキサー:パトリック・ファイゲル
サウンドデザイナー:ライナー・ヒーシュ
リレコーディングミキサー:ラース・ギンツェル
出演:ミランダ・ジュライ、ハミッシュ・リンクレイター、デヴィッド・ウォーショフスキー、ジョー・パターリック

画像上:©Todd Cole 2011、画像2枚目から:©THE FUTURE 2011

2011年/ドイツ=アメリカ/カラー/1:1,85/35ミリ・デジタル/91分
配給:パンドラ

『ザ・フューチャー』
オフィシャルサイト
http://www.the-future-film.com/

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