映画は、パキスタン・イスラマバードのCIA秘密施設で行われる、捕虜の尋問シーンから始まる。もちろん私たちは、ここで描かれているような暴力的な尋問が秘密裏に行われて来たことを様々な報道を通じて知らされているし、ポランスキーの『ゴースト・ライター』(10)やスコリモフスキの『エッセンシャル・キリング』(10)なども似たような状況を描いてきた。それでも、スクリーンに映る拷問シーンを冷静な気持ちで観続けることは難しいのだが、捕虜の役を演じている俳優の腫れ上がった顔の輪郭の中に、ジャック・オディアールの『預言者』(09)やレア・フェネールの『愛について、ある土曜日の面会室』(09)で強い印象を残したレダ・カテブの目と鼻の原型を認めるに至って、ようやくその不快感が和らいでいく。(それにしても、レダ・カテブという俳優は、『愛について、〜』といい、本作といい、一体どこまで"美人女性監督"によって肉体的苦痛を与えられる運命にあるのか!)
そんな修羅場に、若く優秀な女性分析官マヤ(ジェシカ・チャステイン)が送り込まれてくる。最初は、イスラマバード支局チームリーダー、ダニエル(ジェイソン・クラーク)の捕虜に対する非人道的扱いに怯む様子を見せていたマヤだが、次第に状況を受け入れていく。CIAの切り札として投入されたマヤは、捕虜との駆け引きや、膨大な量のデータ分析に多くの時間を費やすが、なかなか有力な手掛かりを掴めない。そんな折、ロンドンで爆破テロが起きてしまう。これを機に、爆破テロに関わったアルカイダの大物アブ・ファラジを捉え、俄に活気づくビン・ラディン追跡チームだが、拷問に屈せず尋問をかわしてくファラジの前に、チームリーダーのダニエルの方が根負けしてワシントンDCの本部へ帰ってしまう。孤独に追いつめられていくマヤを気遣ったチームの同僚ジェシカ(ジェニファー・イーリー)はマヤを食事に誘い外出するのだが、二人はそこで爆破テロに巻き込まれてしまう。ビグローは、マヤがダニエルと良好な関係を徐々に築き上げていくプロセスや、当初は互いにクールな距離感を保っていたマヤとジェシカが親密さを育んで行くプロセスを、緊張感を持続しながらもリズム良く描いていく。じりじりと"ビン・ラディン追跡"のミッションに追い詰められていき、テンションが張り巡らされて行く辛抱の時間帯を、一人牽引していくジェシカ・チャステインの切れ味の鋭い、立ち居振る舞いが素晴らしい。
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